・超能力~巨心秘翔アニマキナ~
巨大な墓石のようなビルディング達に、囲まれ、見下されているような気持ちになる事がある。
空が青々と美しい日は、特に胸が踏み潰される。空はあんなに綺麗なのに、遮られているような気分になる。
お前が生まれてくる前からずっと、社会はこれ程巨大な物を築いて来たのだと。
お前はちっぽけだし、空の青さなどどうでもいいものなのだと。
この巨大な墓石の群れに囚われてお前は生き、この中でお前は死ぬのだと。
お前達は、生まれた時から社会に埋葬された存在なのだと言うように。
あの大きなビル達から、そんなビルを作る現代社会に追い詰められた人たちが飛び降りて自殺していくのに。あんな大きなビルを社会は作れるのに、社会を構成する個々の人間は未だに病や寿命で死んでいくのを恥じもしないなんて。
何千年も文明を維持してきて、未だに憎みあい、虐げあい、寿命を迎えて死んでいく事は変わらない癖に。人間の文明に出来た事なんて死ぬまでの間を飾り付けただけでしかないのに。なのに人間社会め、でかい面しやがってと、そう思う私はさすがにあまりに反骨心を持て余し過ぎている気がして。
だからそれを見てしまった時、私は最初、自分がとうとうおかしくなってしまったのかと思った。
それは巨人だった。いや、巨人というにはあまりにも生々しさが無く、幻想的でありながら結晶のように美しくも大いなるが故に猛々しく。
それはだから、機械でありながら幻想でもあり、物語に出てくる巨大人型ロボットに似ていた。
そんな巨人達が、ビル街を飛び交っている。巨大なビルなんて踏み台に過ぎないとばかりに、ビルとビルの間を超え、青空を自由に飛び交っている。
私はその時友人達と一緒に歩いていた。友人達。実際にはそう親しくない、悩みや絶望を共有しているわけでもなければ、本当に大事な愛を共有している訳でも無い。ただ孤立すれば苦しめられ苦しみに耐えられなければ死ぬ事になるから話を合わせているに過ぎない自称し他称され容認してはいない友人達と。
私は足を止め、見上げ、息を呑んだ。
鉄で出来た八頭身で筋骨隆々の武骨な古代戦士埴輪めいたもの。
様々な色鮮やかな建築機械を人型に束ねた、角ばった、武者鎧を近代化させたような、正に如何にも架空の巨大ロボットめいたもの。
そして最初に何より鮮烈に目に飛び込んできた、その二体が己にかかってくるのをあしらう、途方もなく美しいもの。
そいつは宝石を溶かし合わせた如く美しい、シャボン玉や油膜やCDや玉虫やモルフォチョウのような構造色による七色で、花蟷螂の外骨格を鎧と纏う人虎の如く、スマートに鋭く尖りながらも恐ろしく強そうで美しかった。
何れも身長50m程か。
重厚長大でありながらまるで3DCGの如く軽々と、質量を全く感じさせずに飛び回っている。事実ビルの壁や屋上を踏みながらガラスに皹を入れる事も無いどころか、街路樹の梢を揺らす事も風を起こす事も無い。
やはり幻なのではないか?そう疑わざるを得ない程に。実際、時おり正に処理の甘い3DCGの如く、巨人達の手足が時おりビルをすり抜けるのを見た。だけど。
「どうしたん?」
そう問う友人達を無視して、それを見る事に没頭せずにはいられなかった。
鉄の戦士埴輪は拳を射出する。いや違う。鉄板を連ねたような腕を無数の鉄輪に分離させて、拳を射出するだけでなく無数の鉄輪の嵐と化した。
建機未来武者は、その複雑な体を組み替え、杭打機の槍や鎖分銅を取り出しては振り回し攻めかかる。
それに対して七色蟷螂人虎は、五体一つで迎え撃つ。前二者に比べて細身とすら見えるのだが、むしろ捩り合わされた縄のような高密度の筋肉を思わせる体つきと宝石やダマスカス鋼めいた装甲の縁が鋭い刃めいている構造を活かし、手刀で全て切り払い、弾き飛ばし、そして突き返す!
「……!!」
戦士埴輪と建機武者が声の無い叫びをあげるようにして吹き飛ばされる中、同時に私は直感的に確信していた。
あれらは幻像ではない、実在していると。
あれらは、手足が引っ掛かりそうになってもそのままビルをすり抜ける。その癖、ビルを足場として使用したりもする。中には外壁や屋根を足場にするだけではなく、高さ調整の為に機体を一部すり抜けさせてビル内部の何階かの床を選んで踏み台にする事すらあるようだが。
だが、どの機体も必ずどこか一部、それぞれ胸、腰、頭と違うが、必ず体の一部だけはすり抜けない。そこがぶつかるようになった時はビルをすり抜けずにぶつかっている。
あの部分に、人が乗っているのではないか。実態のある人間が。だからそこはすり抜けられない。
そうだとすればあれは、到底科学の産物とは思えない。科学を超越した力、超能力、だろうか。文明と科学に締め上げられているような感覚をいつも感じていた心臓が高鳴った。
そんなものが、本当に実在する?
高揚のような不安のような、複雑な感覚が胸を嵐のように駆け抜ける中、弾き飛ばされた埴輪と武者が消え、人虎が無音の勝鬨を挙げると、姿を消した。
「なあ、どしたん!?」
「……ごめん、眩暈が」
耳元に現実の声。何とか答えごまかす。
……消える間際、人虎は此方を見た。いや、私を見た。目が合った。はっきりとそれを理解させられた。直感的に、いや、語りかけられるように直接に。お前を見たぞ、お前の所へ行くぞ、そう言われたと感じた。
何かが始まる、予感がした。
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