・歪な発展~超空戦機閑記、あるいは我が国の機体が浪漫大砲過ぎてハッタリが大変な件について~
・歪な発展~超空戦機閑記、あるいは我が国の機体が浪漫大砲過ぎてハッタリが大変な件について~
軍楽が盛大になり響くなか、私達はゆっくりと機体を歩ませてきた。
日本連合帝国第四十八回観機式、我が祖国の大事な祭典だ。全臣民の目が、祖国の平和を守護する私達の操作する機体を輝かしく見上げている。
それは、紛れもない事実なのだが。
「ぶったるんでるんじゃない! 実弾演習で
「す、すいませんでありますっ!」
居眠りしそうになった射撃管制を、機長として一喝する。かつてであれば切腹ものの失態ではあるが、私は怒鳴るだけで留める。
……超空戦機の実戦等、西暦千九百七十九年以来途絶えて久しいのだから。
かつて、第二次世界大戦とも別称される大東亜戦争前夜において、当時大日本帝国と号していた日本は、来るべき戦争に対する戦略を模索していた。従来型の漸減戦を補佐として組み合わせた大鑑巨砲主義、空母・陸攻を重んじた航空主兵、酸素魚雷をこそ主力攻撃手段として駆逐艦と潜水艦を大拡張する統制雷撃戦構想……
最終的に、かつて五十万
大東亜戦争、山本提督の奇襲案が退けられ、事実マレー沖海戦で空母イラストリアスに護衛された英国東洋艦隊に対し、空母撃沈一戦艦一小破巡洋戦艦一中破と、山本提督肝煎りの陸攻隊があくまで漸減戦力としてのみ機能した〔漸減手段としては十二分に有用であり、旧式の扶桑を旗艦とする味方艦隊が東洋艦隊を撃滅する要となり、事後敵補助艦を標的に大戦果を挙げていく事となるが〕事もこの方針の正しさを印象づけ、そして何より金田技術中将が神懸かりの結果じみた設計を成し遂げ作り上げた戦艦、いや
第一次から第三次まで繰り返されたマリアナ必勝国防圏沖海戦において、金田技術大将の危惧が性格であった証明である三度までも再編成された多数の空母と超弩級戦艦とで構成された艦隊を悉く退け米軍に出血を強い、ハワイ、西海岸に進出。
原爆の直撃に一発目は耐え戦闘を続行、二発目で大破着底する頃には、陸軍のカリフォルニア上陸と二番艦〈高天原〉の建造が行われ、米国は和平を提案。その他すべての戦時中に建造するべき新造艦に使うべき資源を全て〈高天原〉に投入していた帝国も余力は無く同意。
かくてカナダに脱出した英政府とアメリカ合衆国の合体した連合合衆国、ハイドリヒ二代総統率いるドイツ第三帝国、ドイツが英本土上陸を優先した為辛うじて難を逃れたソ連の四極の戦後が出現した。
その結果、歴史の流れが変わっていれば核兵器が主力戦艦の代わりに担っていただろう抑止力の座はそれが独占するものでは無くなり……また、
〈
〈中東事変〉に第三帝国のアルベリッヒ博士が建造した〈ユーパメンシェ〉とソ連の〈ボガドィリ〉、宇宙開発に使えば月に到達する事すら出来たという予算を注ぎ込んだ連合合衆国の〈サターン〉が対決し、時代が確定……
そして戦争は終わった。核動力・核兵器を搭載し地上のどこへでも出撃可能で、単なる戦術核では撃破不可能で同格の超空戦機の全力でなければ破壊不可能な超空戦機は、皮肉にもかつての超弩級戦艦ビッグセブンのように、あるいはア級超戦艦が実現しなければ核兵器がそうなっていたように、抑止力となった。
大国同士の争いの発生を許さない平和の守護者。国民の英雄。……その代わりに、非対称戦や低強度紛争、小競り合いでは身動きもできず、少数の死を見守る事しかできない偶像。
(仕方ないが)
「しゃんとしろ。この機体の面目は、ひいては陛下の面目なのだぞ」
「は、はいっ!」
戦が遠退き、結果、帝国は巨大化しながら、かつてほどの尚武の気風ではなくなってきている。それでも陛下の名前を出せば流石に引き締まるが……今この時は緊張せねばならぬ。
寧ろ、今この時こそ緊張せねばならぬのだ。
全身に大量の火器を満載したこの〈無敵爆裂〉級〈薫風〉は、開発チームをして浪漫大砲と陰口を叩く程、その火器満載が機体構造に無茶をかけている。
諸国を威圧し、対抗策で相手国の財政を圧迫するには適した兵器だが……典雅優美な行進と誇示にはつくづく向いていない。戦闘機動は可能だが、繊細な動作は満載した兵器と限られた可動範囲故に望むべくもなく、旧式機体が担う救助活動には絶対出せない代物だ。うっかりすれば転んで自壊しかねない。
……正直実戦でも危険なのでは? という危惧は物凄くある。それどころか、航空機等のその他の兵器を後回しにし、また超空戦機以外のより小型で量産の効く通常戦闘向けの戦闘巨人機の開発とその可能性の検証も放棄している事への危惧も唱えられていないでもないのだが、畏れ多くも大元帥陛下の兵器たる超空戦機を誹謗するのは足らぬ足らぬは工夫が足らぬ。
私はこの冷戦の時代、この浪漫大砲が万全完全の超兵器に見えるよう、いかなる苦労も厭わず機長を勤めねばならぬのだ。
各機体専用の美々しい意匠を施された操縦服を押し上げる胸に手をやり、私、市ケ谷千鶴は嘆息した。
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