・ある程度の近未来的考証と文明崩壊の複合~新世紀末鉄兵伝デッドロック~
これは、とある世界の未来の物語である。
21世紀後半、戦争は変わった。ドローン・スウォーム戦術とコンピュータウィルスが全てを変えた。
通信を撹乱し、通信に侵入し、通信をしなければ役に立たない基地機能・艦隊機能・人工衛星を侵食し、基地や艦隊や衛星が無ければ糸の切れた凧になる航空機を無力化するコンピュータウィルス兵器。
陸においては兵士がどんな物陰に隠れようが回り込んで爆発、艦隊に対してもコンピュータウィルスで弱体化した対空火器の捕捉可能数を上回る数で襲い掛かり、非音速機をバードストライクめいて撃墜し超音速機が帰る基地滑走路を奪い、レーダーとミサイルによる戦術に適応し軽装甲化した艦上構造物を片端から傷つけ、船としては沈まずとも浮かんで航行できるだけの箱に変えてしまう、無数の自爆ドローンが雀蜂の群れのように集るドローンスウォーム。
この二つの兵器が全てを決定する時代が到来してしまった。
台湾戦争での決定的な敗北後、アメリカ合州国はこの新しい局面に対応するべく軍港を開始した。スペースデプリ増大による衛星軌道使用不能という最悪の事態を防ぐ為に結ばれたケスラーシンドローム防止条約によって制限された宇宙兵器の分の予算を注ぎ込まれたのは、ドローン兵器とコンピュータウィルス兵器の開発だけではない。既存の形の軍にこれまでに既に注ぎ込まれた予算が膨大である為に、それら既存の軍と兵器をアップデートしうて新しい戦場に適応出来るようにする計画も、それはコンコルド効果ではないかと言われながらも実行された。
旧世紀前半の戦艦への回帰となった海軍の〈バトルシップ計画〉が早期に一本化され秩序だって進行したのに対し、陸軍の〈歩兵ルネサンス計画〉は当初三つの案に分かれていた。
それは三つともハリウッド映画やコンピュータゲームから抜け出てきたような存在で、研究者側の提案に対し責任者であったアーメイ中将をして、
「ギーグとナードの連合軍共め、てめえの推し作品の違いで争ってるな!?」
とぼやかされるものであった。
量子コンピュータと別系統に発展した故にハッキングへの耐性が高いニューロコンピュータの人間の脳との親和性に注目し、歩兵を同時期に実用化された液体磁石の筋肉を有する人型兵器にアップデートする、そこまでは共通であったが、そこから兵士をサイボーグ化する〈プロジェクト・スティールメン〉、パワードスーツを作成する〈プロジェクト・アイアンパーソン〉、都市部での活動を最低限可能とするサイズで装甲車両とヘリコプターの軍事的地位を包括して担う乗り込み式の人型兵器を開発する〈プロジェクト・メガメック〉〔身長3~4mを想定する計画にメガメックと名付けたのは、機体サイズに対する欺瞞工作の結果であった〕の3つのアイディアが競作状態となったのだ。
人道的問題で〈プロジェクト・スティールメン〉がまず最初に中止になった。
その後〈プロジェクト・アイアンパーソン〉と〈プロジェクト・メガメック〉の競争となり、当初は人間とそうサイズが変わらず、故に屋内突入が可能な〈アイアンパーソン〉がコンペディションにおいて圧倒的に優勢であった。
だが最終的に、ドローン・スウォームやその他の兵器にどれだけ耐えられるのかという防御力問題において、〈アイアンパーソン〉は小銃に耐え飛行型ドローン・スウォームと対物ライフルにある程度耐える防御力だったが、〈メガメック〉は既存の非行型より大型の陸上型を含む全ドローンの自爆攻撃と20mm以下の機関砲、対戦車無反動砲と対戦車擲弾に完全に耐えた。
共に擲弾を上回る対戦車ミサイル等のミサイル兵器の類には迎撃と撹乱で対処するシステムだったが、更に〈メガメック〉は四肢を盾代わりに使用する事も出来、腕は一本までなら失っても戦闘を継続でき両方失ってもパイロットは無事であったが、手足のなかに生身の肉体が詰まっている〈アイアンパーソン〉はそうはいかなかった事、〈アイアンパーソン〉は機構によりある程度調整が効くとはいえ人間の体格に合わせサイズ毎に製造するか一定範囲内の体格の者を使用者として選抜する必要があった事、〈アイアンパーソン〉はある程度の身体能力を必要としたが〈メガメック〉はコントローラー操縦に巧みであればいい事、〈アイアンパーソン〉と〈メガメック〉の模擬戦で〈メガメック〉が勝利した事、そして皮肉にも世界情勢の緊迫化・後輩と合州国の斜陽化が『民家のなかに突入してテロリストや敵兵だけ倒す事に拘って兵を危険に晒すより敵ごと建物を粉砕するほうが有権者に評判がいい』というところまで軍隊の枷を外した結果、〈メガメック〉が採用され……
「……ふうん」
そんな、ほぼ全てが電子化されていた時代の一応は希少な遺産であるプリントアウトを、北米大砂漠の熱砂に耐える為に全身を布で覆った発見者は放り捨てた。
そんな経緯より、大事なのは今目の前にあるかつて〈メガメック〉と呼ばれていたモノだ。
「流石に、レストアものとは装甲が違わぁ」
ボロ布の塊みたいな中から発見者は手を伸ばし、こつ、と、遺跡の中に佇む歩兵戦闘車と攻撃ヘリを組み合わせ人型に仕立て直したようなソレの装甲を拳で叩いた。時に足で走り、時に車輪で走り、ドローン・スウォームが発生していない状況においては折畳式プロペラでの垂直離着陸による飛行も可能な、匍匐前進や蛸壺を掘りそこへ潜る事が可能な歩兵戦闘車の装甲を持つ戦闘ヘリとでも言うべき機体を。
それが収まる場所は遺跡。そう、遺跡である。
この文章が記述された時代の文明と国家は滅んだ。
新型ウィルスの蔓延、気候変動、コンピュータウィルス兵器の暴走、突然変異大型化大陸間巡航飛蝗種、そして何よりそれらへの恐怖に突き動かされての経済恐慌と、その経済恐慌に煽られての人類種全体の精神的自壊によるウィルスの蔓延等を助長する自殺行為敵な内輪揉め・内紛・内乱、そして戦争。
結果、これを作った国は、量産するだけして、使う暇もなく滅んだ。
「滅んでくれてありがとよ、とも言えねえがな、有り難く頂戴するぜ」
文明に浸り、絶望で死んだ旧人類と違い、荒廃した世界でもその新人類はタフに笑った。
新人類といっても、肉体的にはせいぜい旧文明を滅ぼしたウィルスへの耐性を得ただけだ。飢えれば死ぬ、撃たれれば死ぬ。知性的には減退し、道具を使う事は出来てももうかつてのような高度な文明を構築する知識は失われた。
だが少なくとも、旧人類より心はタフだった。
「ま、少なくとも、ケツを拭く紙だけ溜め込んで死んだアホよりは賢いからな、そいつらよりゃ有効活用するさ」
そんなしょうもない遺跡を掘り当てずに済んで良かった、と、その新人類は笑う。なかには食糧も無く銃弾を食って死んだ形跡すらある旧人類がよくこんなものを作れたもんだと、旧人類の愚かしさに苦笑しながら、その新人類はこれを慣れた手で起動していく。
使いきれない量の銃と弾丸と共に、この北米大砂漠の各地に埋没する力。今では〈メガメック〉から呼び名を変えた死んだ文明の機械人形、人呼んでデッド・ロボ・メック、略してデッドロック。
これは、旧世界の数え方での新世紀の終わり頃の、デッドロックした世界を駆け回る鉄の兵士の物語である。
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