第5話⑧ サブリミナルでハゲモテドン! それは人を救うおまじない?
「その強力な暗示に潜在意識が耐えきれなくなって人格破壊が起こるの」
「人格崩壊…」
「それでもやるの、お兄ちゃん」
「ああ、やるとも。だって、このまま生きていたって、鼻をかむ女を見るたびに透明な手が伸びて女の首を絞め、周りから、息苦しくなる男…て白い目で見られる。それなら少しでも変われる可能性のある方にかけてみたい。頼むよアキちゃん。僕にサブミナルカラオケをかけてくれよ」
「分かったわ、お兄ちゃん。やってみるわ」
「ありがとう」
「じゃあ、廊下じゃ狭いから、リビングの真ん中に立って」
「分かった…」
恭平はリビングに移動した。
「そう、腹式呼吸をして、意識をととのえて」
恭平がリビングで、腕を閉じたり開いたりしながら深呼吸を始めた。恭平の動きを確認したアキはリビングのソファーの上にのぼり、カラオケプレイヤーのボタンを押した。スピーカーからサブミナル音楽が流れた。
「いいこと、なにも考えないで頭の中を空っぽにしてね」
「ヒーヒーフー、ヒーヒーフー」
「そう、そうよ…そうやって、ゆっくり呼吸しててね」
カラオケプレーヤの周りの空間を、アキが、ゆっくり手でかき回した。
「お兄ちゃん、ウチも今、マイクに気を送ってるから、そのまま瞑想みたいな状態を保ってね」
「分かった…ヒーヒーフー、ヒーヒーフー」
「よし。いくわよ」
「うん」
アキ、カラオケマイクに向かって人間には聞こえない声で叫んだ!
『ハゲだけど、あなたはもてるわ! ハゲだけど、あなたはもてるのよ!! 』
サブリミナル音楽の音量を、ドンドン大きくしながら、何度も何度も、アキは叫んだ。
『ハゲだけど、もてる! ハゲだけど、もてる!! あなたは、ハゲモテドン!!! 』
突然、恭平が
「ウウウ…ワアアー!! 」
と叫ぶと、サブリミナル音楽に合わせ、狂ったようにディスコダンスを踊り始めた。
「お兄ちゃん、どうしたん。しっかりして、お兄ちゃん」
アキは、ダンスを止めようと恭平にしがみついたが、恭平はアキの制止をふりきり、踊り続けた。
「お兄ちゃんが、おかしくなった…誰か、救急車呼んで! 誰か、誰か、助けてえな! 」
助けを呼ぼうと部屋を飛び出そうとするアキ。そのとき、恭平が叫んだ。
「ハゲもてドン!! ハゲでも女にもてる。宏美は必ず僕のもとにかえってくるぞー!! 」
「え? 」
アキが振り返ると、恭平は右足を曲げて左足を伸ばしながら腰を横に突き出し、右手を天に伸ばしてポーズを決めていた。
「…だろう、アキちゃん」
恭平を見つめるアキに向かって、恭平は笑みを浮かべながらウインクをした。
「お兄ちゃん…」
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