第4話① 小学生アキちゃん登場。なんでも身の下話が得意だそうで…

 コロナの影響でプロ野球の実況放送ができない間、ラジオで過去の名場面を放送する企画があった。そのとき、阪神タイガースが日本一になった1985年(昭和60年)、バースから始まった、掛布、岡田の3者連続バックスクリーンへのホームランのシーンが放送された。 このバースは『最高の助っ人』と呼ばれ、あのイチローを抑え、日本プロ野球歴代最高打率の首位に輝いている。しかし1988年、子供の病気をめぐる球団とのトラブルでシーズン途中に解雇された。このトラブルは当時の阪神球団代表の飛び降り自殺にまで発展し、阪神タイガースにとっては忘れたい過去…黒歴史となった。



「宏美のいないこの部屋なんて、住んでいても辛いだけ…出ていこう」

 洗濯物を見つめながら恭平がつぶやいたとき、玄関のチャイムが鳴った。

『宏美が戻ってきた』

 恭平は走ってドアを開けた…でも、ドアの前には隣の部屋に住む小学生のアキがいた。

「アキちゃんか…」

 アキは恭平になついていて、よく遊びに来る。今日は手にカラオケプレーヤーとマイクを持って遊びに来たようである。

「やあ、お兄ちゃん。もうかりまっか」

「ぼちぼちでんな」

「ああー、ええわ」

「なにが、ええねん」

「なにがって、お兄ちゃんの関西弁やないか」

「なんで? 」

「なんでって、この春からお父ちゃんの仕事の都合で東京に引っ越してきたけど、まわりみんな標準語しゃべるやで」

「あたりまえや。みんな東京の人なんやから」

「でもな、ウチ、全然なれへんねん。転校の挨拶で…

『大阪から来た秋本アキっていいます。みなさんよろしくたのんます』

て挨拶したらクラスのみんなだけじゃなく、先生まで大笑いや。それ以来、クラスのみんな、ウチの顔を見るたびに…

『なんか芸をやって』

 て、まるでウチをお笑い芸人かなんかと間違えてるねん。東京の人って、関西弁しゃべる人はみんな漫才ができると思ってるんねん…きっとそうや。でも、辛いかな、ウチ調子乗りやろう、だから、

『大阪の人はおもしろいね』

 て、おだてられると、つい最新の漫才のギャグを披露して必要以上にふざけるから、ほんまにしんどいねん。これでも大阪におるときは普通のおとなしい女の子やったんやで」

「分かる、分かる。よくある話や…大阪で普通の子が東京に来てバカ受けするから、必要以上に調子に乗って疲れてしまう…てな」

「そう! だから、ウチがほんまの自分に戻れるんは同じ関西出身のお兄ちゃんと関西弁しゃべるときだけや」

「そうか…」

「ウチって運が良かったなと思てるねん。アパートの隣にお兄ちゃんみたいな、いつもウチの相手をしてくれる、やさしい人がすんでて…感謝してるんやで」

「おおきに、ありがとう」

「どうしたん? 元気ないやん…」

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