戦国乱世は暁知らず~忍びの者は暗躍す~
綾織 茅
序章
序章
――里及び学び舎への襲撃あり。死傷者多数。すぐに帰参を。
「……」
書かれている文字が流れるように目を
一つに高く結った長い黒髪が顔の横に
ようやく頭にその言葉の意味が浸透した時。
中性的で、感情を抑えつつも口元に薄い笑みを張り付けている、数えで十八になる青年の普段の
もし、この密書が偽物であれば、心理戦に見事勝利したと言えるだろう。
けれど、これは正真正銘の本物。その証拠に、伝令役にと
黄昏時で人通りがまばらとはいえ、人目が全くないわけではない。
怪しまれぬようあまり間をおかず、その伝令役も去っていった。
ともすれば震えてしまいそうになる足を
仕える一族から由来を受け、【
彼らは世間一般に“忍び”と呼ばれる者達である。もちろん、青年もその八咫烏の一員で、若手の中でも一目置かれている代の一人でもある。
その彼が受け取った密書に書かれた【里】とは、言うまでもなく彼らの忍び里。
そして、将来、八咫烏の忍びとなる子供達を育てる場所が【学び舎】。八咫烏が三本の脚をもつ
本来、忍びとは、言ってしまえば、ただの『
けれど、彼らとて『人』。
懸命に
その自分達の後継たる雛達が襲撃に
早々に集めた情報をまとめ上げ、休む間も
青年が隠密行動をとっていた九州が肥前国――長崎からこの里まで、本来ならば十日あまりかかる。その道中を三日で踏破するという荒業をやってのけた青年――
「……以上、異国との貿易およびそれに伴う大名の動き、全ての報告にございます」
「あぁ、ようやった」
翁は左近が報告のためにまとめていた書状にしばらく目を通した後、
彼ら八咫烏の里は
――しかし。賊はやってきた。
今回、里の建物や作物、人的被害は驚くほど少なかった。一転、学び舎周辺への被害といえば
(……あぁ、
翁から手渡された紙には、命を落とした者の名が少なくない数並べたてられている。その中に、かつて教えを受けた師の一人の名があった。
その人はとても熱心で、教え子の事を何よりも大事に思い、行動していた人だった。雛達を守るため、最期まで己の全てを尽くされたのだろう。
様々な想い出が脳裏に去来し、僅かの間、左近は
「戻ってすぐですまんが、一つ、
「はい」
「このまま学び舎に留まり、雛達を教育せよ。担当は一番下の以之梅じゃ」
「……私が、教育、ですか?」
自分が学び舎にいた頃、決して褒められた教え子ではなかったと自負がある。だからこそ、左近は少々面食らってしまった。
雛は下から
その雛達のうち、以之梅といえば、年が明けてすぐのこの時期、学び舎に入ってそう経ってもいない。本当にまだ何も知らない、七つまでは神のうちと言われる時期をようやく過ぎた数え七つの子供達。良くも悪くも染まりやすい。
そんな大事な時期を自分が任されてよいものか。
学び舎の周囲、山中の
「そう驚くな。雛達は全員無事だが、避難させる時間を稼ぐため、彼らの師達の多くがその羽を散らした。今、最も実力を持ち合わせているのがお前達の代であることは、
「……はっ」
元来、八咫烏の長である翁の命令に、自分達が否やを
「
「承知しました」
「話は以上じゃ。他に何かなければ下がってよいぞ」
「はっ。では、これにて」
翁の屋敷を出た左近は、ひとまず学び舎のある山の入り口を目指すことにした。
学び舎へと続く長い石階段には、戦いの
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