凋落の一途を辿る顕蓮会(緑の信者)④

「ど、どういう事よっ! あなた達、神興会を貶めるネット記事を書いていたんじゃなかったの!? 顕蓮会を貶める記事を書いてどうするのよ!」


 スマートニュースの『話題』ジャンル。

 そこには、先ほどオタク二人が話していたネット記事が掲載されていた。

 しかし、様相はかなり異なる。


『危険な顕蓮会! カルト宗教に注意!』

『悪質カルト宗教団体『顕蓮会』の本当の目的!』


 記事のタイトルを見る限り、完全に顕蓮会を貶めるかのような内容の記事だった。

 それだけではない。

 他のポータルサイトを見ると、至る所に、顕蓮会を貶める内容の広告や記事、キーワード等が躍っていた。


「そ、そんな筈ないでござる! そんな筈ないでござるよ!」


 この記事を書いた内藤が慌てた表情を浮かべながら、スマートフォンを操作している。

 スマートニュースは世界五千万DLの定番ニュースアプリ。

 そんな所に顕蓮会を貶めるネット記事が掲載されれば、その影響は計り知れない。


「今すぐ記事を消しなさい!」


 そう声を荒げるも内藤は困惑した表情を浮かべ、スマホを弄るだけ。

 私は私で『何をしているんだこいつはっ!』と苛立つばかりだ。


「一体何をしているの!」

「ち、違うでござる。違うのでござる。拙者はやってないのでござる!」

「……ふざけた事を言っているんじゃないわよっ!」

「ああ、拙者のスマホ……!」


 スマホを奪い取り画面を見た私は憤怒の表情を浮かべる。


『#拡散希望 三十路上司が拙者を貶めてくる件』

『#拡散希望 上司が冤罪をかぶせてきた。誰か至急助け求む』

『#拡散希望 犯人は多分コイツです(加工済みの私の画像)』


 コ、コイツ……。

 この緊急時にTwitterしていやがった!?


「あ、あなたという人は、この緊急時に……」


 私は怒りのあまり内藤のスマートフォンを地面に向かって思い切り叩きつける。

 すると、内藤のスマートフォンの画面がバキバキにひび割れた。


「せ、拙者のスマートフォンがぁぁぁぁ!」


 その瞬間、内藤は涙を浮かべ、床に崩れ落ちた。

 内藤は画面がバキバキに割れて真っ白になったスマートフォンとその破片を手に取りワンワン泣き出す。

 腸煮えくり返っている私はというと、壊れたスマートフォンを踏み付け内藤と佐倉に怒声を浴びせかけた。


「さっさと火消しを行いなさい!!」

「「は、はいっ!」」


 内藤と佐倉をパソコンに向かわせてすぐ、内藤が声を上げる。


「た、大変でござる!」

「一体何があったの!? すぐに報告しなさい!」

「は、はい! 拙者のブログのアクセス数が過去見た事のない位、最高PV(ページビュー数)を叩き出しております! 1PV当たり0.2円換算で……。す、凄い! 記事を出してまだ間もないのに十万も見られています!」

「な、何ですってっ!?」


 十万人がこのネット記事を読んでいるというの!?

 ええい、暇人共め……。


「いえ、私個人のブログのアクセス数が伸びているのであります!」

「そう言う事!? 説明しなさい!」

「はい。簡単に言えば、拙者が個人的に書いている顕蓮会の悪口や宗教内で出来事が流出して炎上していると……」


 そこまで聞いて、私は内藤の頭を掴みギリギリ締め上げて持ち上げる。


「……この、大バカ者がぁぁぁぁ!」


「ぎゃあああああっ!? ジョークでござる! 場を和ませる為のジョークでござるよぉぉぉぉ!」

「こんな時にジョークかましてるんじゃないわよ! っていうか、全然、ジョークになっていないじゃない! 何してんのよあんた!」

「痛い痛い痛い! ま、まさか、流出すると思わなかったのでごさる! つ、つい出来心で……。それにこの流れ、もうリカバリー不可でござるー!」

「な、なんですって!?」


 内藤が震える手でパソコンを指さす。

 パソコンに視線を向けると、内藤は震える声で呟いた。


「パ、パソコンごと、何者かに乗っ取られてしまったみたいでござる……。こうなっては、もうどうしようもないでござる……」


 それを聞いて、私は内藤の頭から手を離した。


「な、何がどうなっているのよ……」


 パソコン画面に視線を向けると、勝手にソフトウェアが立ち上がり、画面でアイコンが勝手に動いている。


「こ、こんな事、ありえないでしょう!?」


 すると、この場から逃げようとしているオタク二人を捕捉した。


「……あ、あなた達……。まさか、逃げる気?」


 そう呟くと、内藤と佐倉が怯えた表情を見せる。


「だ、だって、もうどうしょうもないじゃないですか!」

「拙者、内藤氏と共に顕蓮会をやめるでござる!」

「な、なんですってっ!? ちょっと待ちなさ……」


 内藤と佐倉は言いたい事だけ言うと、顕蓮会から去っていく。


「こ、この二世信者が……。ふざけるんじゃないわよぉぉぉぉ!」


 その日、顕蓮会の本部から離れた場所にある雑居ビルで、緑の筆頭信者、波瀬歩は絶叫を上げた。


 ◇◆◇


「ふむ。最近になってこの世界に生まれたインターネットの神。グーグルも中々、やりますね」

「……屋敷神さん。一体、どうされたのですか?」

「いえ、特に教祖様にお伝えする事なはなにもございません」


 屋敷神はスマートフォンをポケットにしまうと神興会の教祖に笑顔を向ける。


「……すべて順調に進んでおります。それよりも教祖様。国民政党の絵空代表との会談についてのみお考え下さい」

「も、勿論ですとも……」

「左様でございますか、後、十数分で会談場所へと到着致します。それまでの間に、どうぞ暗記を……」

「ええっ、わかりました……」


 スマートフォンを畳むと、車の外に視線をむけた。

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