凋落の一途を辿る顕蓮会⑤

「い、一体、何がどうなっているのですかぁぁぁぁ!」


 ここは顕蓮会本部。

 スマートテレビを付けていたら突然流れてきたニュースに顕蓮会の教祖、汚澤直之は絶叫を上げていた。


「拙い。これは拙い……」


 スマートテレビのニュース一覧。

 そこには、これまで顕蓮会が行ってきた数々の行いが晒されている。


『カルト宗教の闇。暴力団と繋がる顕蓮会』

『暴力的な勧誘。入信強要を苦に自殺』

『教祖様が六十億の所得隠し!? 顕蓮会の手口』


 誰だ。誰がこんな事をリークした!?

 それになんだ!

 何故、黒の信者や緑の信者達と連絡が取れなくなっている!?

 六十億の所得隠しも!? い、一体、何が起こっているのだ??

 パニックで頭が回らない。


「だ、誰か、誰かいないのかっ!」


 部屋の前で待機している筈の側近に声をかけるも、誰も返事をしない。

 仕方がなく椅子から立ち上がり、扉を開けて部屋の外に出る。


「誰かいないのかと言っている! 私が呼んだら三秒以内に馳せ参じなさい! 常識でしょ……。って、どこにいったのですかぁぁぁぁ!?」


 部屋を出て側近に怒鳴りつけようとするも、そこには誰もいない。

 用がある時は声をかけるから四六時中、部屋の前で待機していなさいと指示していた筈の側近達が誰一人としていなくなっていた。


「あ、あいつらぁぁぁぁ!」


 全てを理解した。

 側近だ。側近共が私の事を裏切ったのだ。

 と、なると、心配なのが、顕蓮会の資産全てを置いてある『金の社』。


 まさか、側近共が顕蓮会を貶めるだけ貶めて袂を分かつとは思っても見なかったが、今、大事なのは『金の社』に置いてある資産の確認。


 私は部屋に置いてある金庫から『金の社』の鍵を取り出すと、ドタドタバタバタと音を立て『金の社』に向かった。


「ど、どうやらあいつ等、この私から逃げる事を優先し『金の社』にまでは手を付けていかなかった様ですね……。殊勝な心掛けです。そこだけは評価いたしましょう」


『金の社』に辿り着いた私は安堵の表情を浮かべる。

『金の社』の中に入る為には、特殊な鍵を使い中に入らなければならない。

 見た所、ここに誰かが侵入した形跡はなさそうだ。


 とはいえ、中に入り、これまで貯め込んだ資産をこの目にするまでは安心できない。


『金の社』の鍵を開けると、そのままゆっくり中に入っていく。

 そして、照明をつけた瞬間、私は絶句した。


「あ、あがっ……。あががががっ……」


 ど、どういう事だ。

 社の中が……。社の中が、何故、空なのだっ……。


『金の社』の中に誰かが入った形跡はない。

 鍵だって私が金庫で保管していた。


 ……となると、怪しいのはやはり側近共。

 あいつ等、虎視眈々とこの私を……。この私が創り上げた顕蓮会をぶっ壊す事を狙っていやがった!

 絶対にそうだ。そうに違いない!

 クソ野郎共め!

 この私が特別に目をかけてやったというのに……!


『金の社』の中に安置されていた資産は全て表に出す事ができないもの。

 まさか、それを大っぴらに盗んでいくとは……。


 ぶっ殺す。惨たらしく絶対に殺してやる。


 私はスマートフォンをポケットから取り出すと、黒の信者筆頭、汚澤傲慢に電話をかけた。黒の信者筆頭、汚澤傲慢は広域暴力団『顕蓮組』の組長にして、私の弟だ。


 ニュースで暴力団との付き合いが明るみになってしまった以上仕方がない。

 だったらその力。大っぴらに使ってやろうじゃないか。

 その上で、私の金を取り返す。

 顕蓮会は休会し、折を見て新しい顕蓮会を立ち上げる事にしよう。


 こういう時の為に、高い金を用心棒代として払っているんだ。

 この私の為に働いて貰おうじゃないか。


「…………」


 しかし、何度、電話をかけるも一向に出る様子がない。

 一体、どうなっているのだろうか?


 仕方がなく。タブレットを確認し、汚澤傲慢のいる場所を確認する。


「……なんだ。いるではありませんか」


 タブレットを確認すると、汚澤傲慢は黒の社に籠っている事が分かった。

 とりあえず、電話をかけながら黒の社に向かうも、結局、汚澤傲慢は電話に出る事なく黒の社に到着してしまう。


 あの野郎。弟の分際でこの私の電話に出ないなんて……。


「……入りますよ」


 不機嫌である事を隠さぬまま、黒の社の中に入っていく。

 すると、そこは蛻の空だった。


 テーブルの上に、顕蓮会の信者を表すバッジが山の様に置いてある。

 これには、流石の私も絶句してしまった。

 しかし、それも一瞬の事。


「ど、どういう事です!? ま、まさか、黒の信者達迄、この私を裏切ったのですか!?」


 次の瞬間には、動揺し、狼狽し、叫び声を上げていた。


 赤の信者は改宗し、側近は金を持って姿を眩ました。挙句の果てに、黒の信者の集団失踪。緑の信者とも電話が繋がらない。


「うぐぐぐぐっ……。お、おのれ……。おのれぇぇぇぇ!」


 何故だ。何故、こんな事に……。

 こんな事は……。あ、あり得ない!


「まだだ……。まだ私には、一般信者共がついている」


 大した信仰心など持ち合わせていないかもしれないが、裏切者の黒や赤の信者よりはマシだ。

 呆然とした表情を浮かべ、おぼつかない足取りで、自室へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る