教祖様の苦悩 躍進(荒事専門確保)④
「うわっ!?」
『影収納』の中に入ってすぐ車に近寄ると、銃弾の様なものを打ち込まれ、揚句の果てには車が急発進し出し、俺をひき殺さんとこちらに向かってきた。
突然の事に驚きの表情を浮かべていると、自動車は『影纏』を纏った俺を透過し、向かい側に止まっていたもう一台の自動車に『ドカッ!』と大きな音を立ててぶつかる。
思いっ切りアクセルを踏んでいたのか、もの凄い衝撃音だ。中の人は大丈夫だろうか?
『影纏』を身に纏いながら近寄ると、自動車の中でグッタリとしている人が三人伏せ倒れていた。
「えっと……。放って置いたら拙いよね。流石に……」
エアバックがあるお蔭で死んではいないみたいだけど、自動車と衝突しているみたいだし、血を流している様にも見える。
自動車から出る煙は影で覆う事でなんとかしたけど、ボンネット部分がグチャグチャだ。フロントガラスまで割れている。
取り敢えず、『影縛』で自動車の中の三人を縛り上げると、『影転移』で自動車の外に出す事にした。
「うわぁ……。拳銃なんて初めて見た……」
すると、三人の内一人が片手に拳銃を持っている事に気付いた。
どうやら最初に放たれた攻撃。あれは拳銃による銃撃だったみたいだ。
滅茶苦茶怖い。
どうやら、この人達はそっち系の方々らしい。
それにしても、そっち系の方々が何故、教祖様を襲おうとしたのだろうか?
もしかして、誰かに頼まれて??
教祖様、狙われてる??
事情聴取をしようにも全然起きる気配がない。
仕方がないので、拳銃を持っていた人の頭に手を当て『闇属性魔法』で、何故、教祖様を襲おうとしたのか頭の中を覗いていく。
すると、顕蓮会という新興宗教の教祖が神興会の教祖様を殺すよう指示を出す光景が視えてきた。
教祖を殺す見返りとして、重病で苦しむこの人の母親に教祖様の奇跡を起こす力をどうか掛けてくれないかと頼み込むこの人の姿も……。
「……なるほど」
念の為、残りの二人にも同じ様に『闇属性魔法』をかけて見たが、この二人も似たような境遇にあったようだ。
それなら話が早い。
記憶を読み取り、この三人が助けたいと思っている人達の下に、『影分身』を派遣する。そして、この人達が目を覚ますのを待っている間に傷を癒して『影収納』内を『聖なる光』で満たし、『ラドゥエリエルの剣』で百体の能天使を召喚していく。
勿論、『聖なる光』でこの人達が目を覚ましてしまわない様に、『影縛』で目隠しをする事も忘れない。
要はアレだ。
この人達も救いを求める信者という事。
教祖様を襲撃しようとした事は許せないが、同情できる部分も多分にある。
というより、顕蓮会とかいう新興宗教が酷過ぎた。
家族の病気を治す為に、信者を襲撃させるなんて以ての外だ。
そもそも、本当にそんな力があるかも怪しい。
ここは一つ。
顕蓮会とかいうカルト宗教から神興会という本物の力を持った宗教に回心させて上げる事にしよう。
準備が整った俺は、三人の襲撃者を『影縛』から解放すると、『聖なる光』を浴びせ覚醒を促した。
◇◆◇
「うっ……、うん? 一体何が……。こ、ここは?」
目を覚ますと、天上の世界に迷い込んでいた。
さっきまでいた暗闇ではない。
空から神々しい光が降り注ぎ、そこには百を超える天の使いが列を成して並んでいる。
「お、おおっ……」
顕蓮会は教祖様が信仰の対象となる新興宗教。
救いがあるとすれば、教祖様が直接と思っていたが、どうやら違った様だ。
自然と両膝が床につき、合掌する。
すると、奥から光を纏った不思議な民族衣装を着た少年が現れた。
光で顔は見えないが、後光が差していて神々しい。
きっとあれが神という存在なのだろう。
自然と涙が出てくる。
正直な所、他の新興宗教の教祖を襲撃するなんて事、やりたくはなかったが家族の病気を治すには顕蓮会の教祖様の力が必要だ。
しかし、奇跡を起こす為には、奇跡ポイントなるものを貯めねばならない。
危険度が高い事ほど奇跡ポイントは高く、危険度が低い事ほど貰える奇跡ポイントは低くなる。
だからこそ、俺は、奇跡ポイントの高い『教祖襲撃』を受け入れた。
逮捕される可能性も高いが、受ければ確実に奇跡ポイントが貯まる。
俺は捕まるが家族は助かる。そう思っての事だ。
しかし、どうやら俺はここまでの様だ。
俺の最後の瞬間。
あまりよく覚えていないが、運転手が動揺し自動車を急発進させ、何かに衝突した覚えがある。
隣に視線を向けると、運転手まで合掌していた。
「やはりか……」
こいつがここにいるという事は、そういう事だろう。
俺達は自動車の中で死に、あの世に飛ばされた。
そうでなければ、こんな光景あり得ない。
教祖襲撃も失敗してしまった。
これでは、奇跡ポイントは貯まらない。
家族の病気を治す事もできず、あの世に来る事になってしまうとはな……。
まあいい。
悔いはあるが、これも仕方のない事。諦めよう。
全てを諦め、澱んだ目をしながら神様に視線を向ける。
すると、一瞬。神様が微笑んだような。そんな気がした。
そして、神様が一歩前へ出ると、急にスマートフォンが鳴り始める。
スマートフォンの画面に表示された名前。
それは重篤な病気に罹り動く事のできなくなった母親だった。
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