フェロー王国侵攻の裏側で③

「さて、悠斗様。これより、オーランド王国の軍勢を転移させます。準備はよろしいですか?」

「う、うん。問題ないよ……」


 物理・魔法攻撃を無効化する『影纏』を身に纏い、片手にスイッチを持つ。

 このスイッチは、ピンチになった時、押して下さいと屋敷神に言われ手渡されたものだ。

 屋敷神も過保護である。


 こういう時は『影纏』を纏っておけば問題ない。

『影纏』さえあれば雷が直撃しても多分、大丈夫な筈だ。

 それに、俺の事はカマエルさんが召喚した能天使が護ってくれている。


「それでは、オーランド王国軍を転移させます」


 屋敷神がそういうと、目の前に広がる平原が黒く染まり、オーランド王国軍が現れた。


「こうして見ると、凄い数だね……」

「ええ、それでは、蹂躙させて頂きましょう」


 屋敷神がそう言うと、天使がオーランド王国軍に向かい殺到していく。

 すると、突然、辺りが暗くなりフェロー王国に扮したオーランド王国全土を積乱雲が覆い出した。


「や、屋敷神! これはっ!」

「はい。あれは雷神トールの持つ神器ミョルニルの力でしょう」

「ミョルニル!?」


 ミョルニルとは、北欧神話に登場する神トールが持つ槌の名だ。

 古ノルド語で『粉砕するもの』を意味し、思う存分に打ち付けても壊れることなく、投げても的を外さず再び手に戻るという性質を持っている。その一方で、ミョルニルは常に真っ赤に焼けており、これを扱うためには『ヤールングレイプル』という手袋が必要であると聞いた事がある。


 黒い山羊の引く乗り物に乗った男。あれが雷神トールなのだろう。

 雷神トールが手に持った槌を振り下ろすと、オーランド王国全土に雷が降り注いだ。


「それにしても危ない所でした。まさか、また雷を落としてくるとは……」

「えっ? オーランド王国の人達は大丈夫なんだよね? ねえ?」

「はい。問題ありません。ああ、少々、フギンとムニンを預かっていて頂けますか?」

「うん。別にいいけど……本当になんで連れてきたの?」


 屋敷神からフギンとムニンを受け取ると、黒い翼をはためかせ天使と戦っていた人達が一斉に視線を向けてくる。


「えっ、なに? なんであの人達、こっちを見ているの?」


 フギンとムニンが俺に身体を寄せスリスリしてくるが、今はそんな場合じゃない。

 というより、本当になんでフギンとムニンを連れてきたの!?

 現状、邪魔にしかなっていないんですけど!?


 そんな事を考えていると、黒い翼を生やした人達が天使との戦闘を止め、こちらに向かって殺到してきた。


「うわぁぁぁぁ! って、ええっ!?」


 俺が慌てて屋敷神から貰ったスイッチを押すと、黒い翼を生やした人間達が持つ武器が光り輝き大爆発を引き起こしていく。


 爆風が吹き荒れる中、俺が唖然とした表情を浮かべていると、隣にいた屋敷神が拍手する。


「悠斗様。流石でございます。敵戦力がスイッチ一つで瓦解しました」

「……も、もしかして敵が持っている武器って、ユートピア製の武器!? 全部に爆発機能を設けているの!?」

「はい。その通りです。む……悠斗様、これは拙いかもしれません」

「ええっ!?」


 前を向くと黒い山羊が引く乗り物に乗った雷神トールに雷が落ちた。

 雷神トールはミョルニルを振り上げ雷の力を最大限高めている姿が目に映る。


「げっ!?」


 確かにあれはヤバそうだ。


「ロ、ロキさんに何とかしてもらえないかな!?」

「それは難しいでしょう。ロキ様はサンミニアート・アルモンテ聖国を護りながらこちらに手を貸して頂いております。ここは私達だけで何とかする他ありません」

「そ、そうか……」


 しかし、アレをどうにかする方法が浮かばない。

 雷神トールの放つ雷撃を止める方法なんて……。


「あっ……」


 待てよ……もしかしたら……。


 俺は『召喚』のバインダーの中から『神器ヤールングレイプル』のカードを手に取ると、手元に雷神トールの神器『ヤールングレイプル』が現れた。


「悠斗様……もしや、それは……」

「うん。雷神トールの持つヤールングレイプルだよ。これがないとミョルニルが持てないらしいし、もしかしたらと思って……」


 ヤールングレイプルを手に持ち、雷神トールに視線を向けると、『ドォーン!』という重低音が鳴り響き、雷の柱がトールを中心に立ち昇る。


 思った以上に効果は抜群だったようだ。

 お、思っていた以上の効果だったけど……か、神様だし、大丈夫だよね?

 死んじゃってないよね??


 そんな事を思っていると、突然、近くで大爆発が起こった。

 突然の爆発に驚いた表情を浮かべると、またもや屋敷神が拍手する。


「悠斗様。流石でございます。なるほど、この時を見越して敵にアレを渡したのですね」

「えっ? 何の事??」


 屋敷神は一体何の事を言っているのだろうか?

 ちょっと言ってる意味がわからない。


「さて、これで戦争は終わりですね」


 屋敷神がそう呟くと、オーランド王国軍陣営で、またもや大爆発が発生した。

 オーランド王国陣営に視線を向けると、黄金の甲冑を着た人が吹っ飛ばされている姿が見える。

 何があったのかはわからないが、あの人が大爆発を引き起こした張本人らしい。


「えっ? これで戦争終わりなの!?」

「はい。戦争の首謀者は既に天使が捕えておりますし、オーランド王国に協力していた神は爆発しました」


 どうやら、爆発を引き起こしたのはオーランド王国に協力していた神だったようだ。


「その神様達はこれからどうなるの?」

「そうですね……ロキ様次第ではないでしょうか?」

「そ、そうなんだ……」


 オーランド王国に協力していた神様達の未来はロキさん次第。

 俺は薄く目を瞑ると爆発を引き起こした神様と雷神トールに合掌した。

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