フェロー王国侵攻の裏側で②

 オーランド王国の軍勢がフェロー王国に進軍して二日が経つ頃、屋敷神が偽のフェロー王国に数多の影精霊を配置していく。

 不思議だ。戦争とは全く関係ない筈なのに、なんでフェロー王国に住む住民まで影精霊で作り上げていくのだろうか?


「屋敷神。なんで国の中にまで『影精霊』を配置してるの?」


 俺がそう問いかけると、屋敷神は笑顔を浮かべ答えてくれた。


「はい。それはオーランド王国側に、この国が本物のフェロー王国であると錯覚させる為です」

「錯覚させる為?」

「ええ、オーランド王国側に神が付いている以上、フェロー王国を護る様に配置した影精霊だけでは、まず確実に突破されます。その時、敵にここが偽物である事を悟られない為にも、フェロー王国で生活する人々を配置する必要があるのです。勿論、影精霊を配置するのは王都だけに限りますがね」


 なるほど……。

 しかし、流石は屋敷神だ。

 これほどの『影精霊』を配置する事ができるとは『精霊従属』スキルを持つだけの事はある。

 なんて便利なスキルなのだろうか。


「さて、悠斗様。準備は整いました。そろそろ、敵が到着する頃です。私達もオーランド王国に向かいましょう」

「うん。そうだね」


 これからここは戦場になる。

 この場所にいては危険だ。


 そういうと、俺達は『影転移』でオーランド王国に向かった。


「うわぁ~本当にフェロー王国みたいだ……」


 転移して最初に目にしたのは、フェロー王国と全く同じに改装させられたオーランド王国。

 戦場となるこの場所には既に数多の天使が配置され、カマエルさんや土地神達が、開戦の準備を始めている。


「準備は万全の様ですね……それでは悠斗様。こちらにお座り下さい」

「うん。ありがとう」


 屋敷神に促されるまま『王座フリズスキャールヴ』のレプリカに座ると、王座の機能を使い、今のフェロー王国の状況を目の前に映し出す。

 するとそこには、これから攻撃をしかけようとしているオーランド王国の軍勢が映し出された。

 オーランド王国軍の中から黒山羊の引く戦車が空に飛び立つと、積乱雲がフェロー王国を覆っていく。

 そして、その数瞬後、フェロー王国全土に雷の柱が発生する。


「いや~危なかったね……」


 避難していなかったら、雷の餌食になっていた所だ。


「いえ、そうでもありませんよ?」


 屋敷神がそう呟くと、フェロー王国に落ちる筈だった雷の柱は方向を変え、オーランド王国軍に向けて伸びていく。


「えっ、今の一瞬で何が起きたの?」

「あれは、ロキ様のスキル『秩序破りトリックスター』ですね。おそらく雷の方向を捻じ曲げたのでしょう」


 流石はロキさん。もはや何でもありだ。


「『秩序破りトリックスター』を使っているという事は、あそこにいるロキさんは本物?」

「いえ、あれは『影分身』です。本物のロキ様はサンミニアート・アルモンテ聖国の聖域迷宮三十階層におります。おそらく王座の力でフェロー王国を確認しながらスキルを発動させているのでしょう」

「なるほど……」


 しかし、あれほどの雷撃を打ち込んでくるとは……偽物のフェロー王国を用意していて本当によかった。


「おや、敵軍に動きが……」

「えっ?」


 映像を見てみると、雷を回避したオーランド王国軍から黒い翼の生えた人間達が天使に扮した影精霊に攻撃する光景が目に映る。

 ロキさんに扮した影精霊も、オーランド王国側に付く神と激闘を繰り広げていた。

 本物のロキさんが戦っている訳ではないが、ロキさんに扮した影精霊が相手サイドの神に圧されているのを見ると少しだけ心配になる。


「なんだかハラハラするね……」


 相手サイドの神が槌を振る度、雷鳴が轟き、ロキさんに扮した影精霊を圧倒していく。

 すると、敵サイドから何かが飛来し、ロキさんに扮した影精霊の腹を貫いた。

 その隙を突き、相手サイドの神が槌を振うと、雷鳴を轟かせロキさんに扮した影精霊が落下していく。


「影精霊とはいえ、仲間がやられるのを見るのは、あまり良い気分じゃないね……」


 ロキさんに扮した影精霊がやられたのを皮切りに、オーランド王国側の神達がフェロー王国に侵攻していく。そろそろ、こっちも準備を始めた方が良さそうだ。


「ふむ。そうですね……相手の手の内は知れました。そろそろ、準備を始めましょう」

「うん。そうだね」


 立ち上がると、一対の渡鴉、フギンとムニンが飛んでくる。


「フギンとムニン?」


 なんでフギンとムニンがここに?

 フギンとムニンは迷宮の階層で飛び回っている筈……。


「はい。ロキ様のご命令によりフギンとムニンをここに呼び寄せました」

「えっ、ロキさんが?」


 ロキさんはなんでフギンとムニンを呼び寄せたんだろ?


 いや、まあいいか……。考えても仕方がない。

 そんな事を思っていると、フギンとムニンが両肩に留まり、首元から服の中に入り込もうとしてくる。


「く、くすぐったいよ。フギン、ムニン」


 俺の服に入り込もうとするフギンとムニンを『影縛バインド』で縛り上げると、両手で抱え屋敷神に手渡した。


「まったくもう……まあ、なんでフギンとムニンを呼んだのかわからないけど、とりあえず、渡しておくね」

「はい。ありがとうございます。それでは悠斗様、一時間後、オーランド王国の軍勢をこちらに転移させます。それまでに、ご準備を……」

「うん。わかった」


 そういうと、俺はこれから始まる戦争の準備を始める事にした。

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