オーディンの数時間天下①
「な、何よあれは……」
「やはり……この一日の間に天使の軍勢が増えている」
オーランド王国から進軍し、フェロー王国に辿り着く頃には、天使の軍勢が倍に膨れ上がっていた。
よく見ると熾天使ラファエル、サマエルの姿も見える。
「ロキの奴……天界から天使を呼び寄せたな……なんと面倒な……」
王座の力を以ってしてもあの数の天使を片付けるのは容易ではない。
ロキサイドで確認している神は、土地神ただ一柱。
おそらく、フェロー王国を護る壁も土地神の力で作り出したものだろう。
「ね、ねえ……勝てるのよね? 私達、勝てるのよね?」
「当然だ。今からそれを証明してやろう」
天使の軍勢を見て日和るオーランド王国の女王フィンを宥めると、ワシは雷神トールに視線を向ける。
「トール! フェロー王国全土に雷柱を走らせてやれ! 元主神に楯突く愚か者共に雷槌を振り下ろしてやるのだ!」
ワシの言葉を聞いたトールは笑みを浮かべる。
「ああ、わかったぜ!」
トールは二匹の黒山羊が引く戦車に乗り込むと、飛び立った。
ワシは王座の拡声器機能を使うと、手を上に上げながらフェロー王国全土に聞こえる様声を飛ばす。
『さあ諸君。蹂躙を始めよう。これが戦争開始の狼煙だ!』
たった一言そう呟くと積乱雲がフェロー王国全土を覆っていく。
そして、上げた手をフェロー王国に向け下ろすと、トールが神器『ミョルニル』を振り下ろした。
ミョルニルを振り下ろすとフェロー王国全土に向け雷の柱が発生する。
そして、雷の柱がフェロー王国全土に降り注ごうとした時、天使の軍勢の中にロキがいる事に気付いた。
「なにっ! 何故、ロキが前線に出ている!?」
ロキがニコリと微笑むと、フェロー王国に降り注ぐ筈だった雷の柱が我々に矛先を変える。
「いかん! これはロキの能力『
ロキの奴め『秩序破り』で因果律を歪め、雷の柱が落ちる先をこちらに……な、何という事をっ!?
雷光が走るとフェロー王国全土に降り注ぐ筈だった雷の柱が雷鳴と共に向かって来る。
もう駄目かと思ったその瞬間、雷が天へと昇っていく。
「はあっ! 流石はロキ! やるじゃねーか!」
どうやらトールがこちらに向かって来る雷を上空に打ち上げたらしい。
流石は雷神。我が息子ながら頼りになる。
横を見ると、フィンが泡を吹いて倒れていた。
まあ、気持ちはよくわかる。ワシ自身、終わったと思ったしな……。
「親父! 俺はロキの相手をするその間に死兵を進軍させろ!」
「う、うむ。確かに、その通りだな」
トールの雷を避ける為には、ロキが『秩序破り』で因果律を歪め続ける続ける他ない。
これはチャンスだ。
「皆の者、フェロー王国へ進軍しろ!」
「「「おおおおおぉぉぉぉ!」」」
ワシがそう叫ぶと、バルドルに魅了された死兵共がフェローに向かって殺到していく。
バルドルの為なら命をも捨てる覚悟のある人間ら強い。死兵には、ルーン文字が付された武器も与えてある。
これさえあれば、天使が相手であっても渡り合える筈だ。それに、ワシにはまだこれがある。
「ふふふ、土地神との戦いで随分と数を減らしてしまったが、天使相手なら問題はない…… 『ヴァルハラ:英霊召喚』」
ワシが『ヴァルハラ』を解放すると、数多の英霊が死兵共に取り憑いていく。
今、死兵に取り憑いたのは、天界で活躍した英霊だ。
土地神との戦いの場には出さなかったが、媒介となる存在がいれば話は変わる。
視界をフェロー王国に向けると、黒い翼をはためかせ英霊の取り憑いた死兵が天使に向かって総攻撃をかけていく。
「まだまだ、こんなものではないぞ! 神器『ヴァルハラ』よゲートを開け!」
神器『ヴァルハラ』の力を解放すると、目の前に天界とこの世界を繋ぐ扉が現れる。
そして、扉が開かれるとそこから武装した九人の戦乙女ワルキューレが降り立った。
「よく来てくれたな。さあ、ワルキューレよ! 英霊達と共にフェロー王国を護る天使共を滅ぼすのだ! そして、フェロー王国を占領しろぉぉぉぉ!」
「「「はい。オーディン様」」」
そう返事をすると、ワルキューレ達は天使に向かって飛び立っていく。
「これでいい。さて、問題は……」
上空を見上げると、トールとロキがバチバチと雷鳴を鳴らしながら殺りあっている。
トールがミョルニルを振り下ろし、ロキが『秩序破り』で回避し続けている形だ。
完全にロキの防戦一方。やはり、トールを連れてきてよかった。流石はワシと同等の力を持っているだけの事はある。
「さてロキよ。その状態でグングニルを避ける事はできるかな? 『秩序破り』なくしてこれを避ける事は叶わんぞ」
トールの『ミョルニル』とワシの『グングニル』。
避けたい方を避けろ……。
トールのミョルニルを『秩序破り』で回避すれば、ワシのグングニルはロキの腹に突き刺さる。
ワシのグングニルを『秩序破り』で回避すれば、トールがミョルニルを叩き込む。
どちらにしろ、ロキはお終いだ。
ワシはロキを照準に収めると、勢いよくグングニルを投擲した。
投擲の瞬間、ロキが驚愕の表情を浮かべる。
一瞬の逡巡が致命的な隙を生みロキの身体に深々とグングニルが突き刺さり、ミョルニルの雷が直撃した。
どうやら、『秩序破り』で回避する隙すらなかったらしい。ワシらの攻撃を受けたロキは、そのまま地上に落下した。
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