進軍
「ようやく……ようやくこの時がやってきたわ」
神の力を借り近隣諸国を占領下に置く事一ヶ月。
ようやく……ようやくこの時が来た。
サンミニアート・アルモンテ聖国が万能薬を無償配布すると公表した事から始まったこの戦い。
裏で手を引いているのは、万能薬の供給元であるユートピア商会で間違いない。
幾度となく工作員や刺客を送るも、送った工作員や刺客は誰も帰ってこず。日を追うごとに、オーランド王国の財政は圧迫されていく。サンミニアート・アルモンテ聖国に、抗議文を送るもその全てが無視される。
こうなったら、残された手段は戦争しかない。
フェロー王国は各領地毎に迷宮を抱えている珍しい国。
これほど多くの迷宮を抱えている国も珍しい。
前々から狙ってはいたものの、近隣諸国の関係も考え行動を起こさずにいた。
しかし、目の前にオーディンが現れた事により、その考えが一変する。
ユートピア商会ごとフェロー王国を占領下に置き、サンミニアート・アルモンテ聖国をも支配する。
多少の苦難はあったが、オーディンを筆頭とした五柱の力を借りれば、オーランド王国の復興は容易い事だ。
既に複数の国を占領下に置いている。
占領国の統治も、バルドル様のお陰でスムーズに進んでいる。
万物を魅了する力。やはり、恐ろしい力だ。
しかし、神がこちら側についている限りは安泰。
「それでは、オーディン様。フェロー王国とサンミニアート・アルモンテ聖国の事、よろしくお願いします」
「ああ、任せておけ。フェロー王国には、ワシとトールが、サンミニアート・アルモンテ聖国はヴァーリとバルドル、ヴィーザルが向かう予定だ。今日の内にこの二国を支配下に置いてやる。お前は安心して見ているがいい」
「ええ、オーディン様の近くで拝見させて頂きますわ」
本心を言えば、戦争に兵士達を巻き込みたくはない。国の蹂躙なぞオーディン様を始めとする神々に任せて、優雅にハーブティーを飲んでいたい所だ。しかし、フェロー王国とサンミニアート・アルモンテ聖国はそうもいかないらしい。
なんでも、両国には、オーディン達と同じ神が守りについているらしい事がわかったのだ。
オーディンはその神との戦いに力を注がなくてはならないらしい。
そうなると、どうしてもバルドル様に魅了された死兵の力が必要となってくる。
それに近隣諸国で占領地となっていないのは、商人連合国アキンドを除けば、両国だけ。
折角の機会だし、絶対的な力を持つ神の隣で国を占領していく様を見るのも面白い。
できれば両国を占領していく様を見てみたいが、どちらか片方しか選べないというのであれば、断然、フェロー王国が占領される様の方が見たいに決まっている。何せ、フェロー王国には、オーランド王国の財政を破綻寸前まで追い込んだ元凶、ユートピア商会があるのだから……。
因みにオーランド王国の財政は、オーディンに信仰心を使わせ、天界から私物の金銀財宝を徴収した事によりなんとか持ち直した。
しかし、財政が持ち直したからといって、元凶を叩き潰さない事には何度も同じ事が繰り返される恐れがある。
「くくくっ、そうか! それでは、フィンよ。お前はこのワシの側に着け。なに……サンミニアート・アルモンテ聖国は、ワシの王座の力を使い中継してやるわ」
「はい。ありがとうございます。頼りにしていますわ」
この通りオーディンの奴はチョロい。ほんの少し煽てれば、簡単に安請け合いしてくれる。
「ああ、任せておけ」
そういうと、オーディンは立ち上がる。
その事に気付いた兵士達がバルコニーに立つオーディンに向かって視線を向けた。
この兵士達は全て、バルドル様の能力により死兵となった者達だ。
目は虚ろながら、バルドルの為に働ける事に喜びを感じ、今か今かと開戦を告げる言葉を待っている。
「さあ、フェロー王国と、サンミニアート・アルモンテ聖国を落としに行くぞ!」
オーディンは簡潔にそう口にした。
すると、兵士達から歓声が上がる。
「「「おおおおぉぉぉぉ!」」」
バルドル様達に視線を向けると、笑顔を浮かべながら兵士達に手を振っていた。
多分、今の歓声はバルドル様が死兵に手を振った事によるものだろう。
オーディンも満足そうな表情を浮かべているし、あえて突っ込むまい。
フェロー王国とサンミニアート・アルモンテ聖国には、開戦日付を一ヶ月間ずらして伝えてある。
まさか一ヶ月間早く開戦する事になろうとは夢にも思うまい。
勝利を確信した私はほくそ笑む。
「フェロー王国に、サンミニアート・アルモンテ聖国……神の力を前にどの程度足掻く事ができるのか今から楽しみね」
「まったくだ。主神の座に胡座を描いているロキが慌てふためく姿が容易に想像できるわ」
オーディンの王座の力にグングニル。
バルドル様が持つ万物を魅了する力。
ヴィーザル様の圧倒的な体躯。
ヴァーリ様の法に従い裁く力。
トール様の持つ天候をも操り、雷の化身となる力。
圧倒的な神の力をもって、戦争に勝てぬ道理はない。
この日、オーランド王国の兵士達を引き連れ、オーディンと、バルドル様はそれぞれの国に進軍した。
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