始まり(サンミニアート・アルモンテ聖国)

「あれが、サンミニアート・アルモンテ聖国か……なんだか不思議な雰囲気の国だね?」


 多くの死兵を引き連れサンミニアート・アルモンテ聖国に辿り着いた私は、ヴァーリとヴィーザルに向かってそう呟いた。


 まるで、あの場所だけ世界から切り離されたかの様な、そんな雰囲気を感じる。


「確かにそうですね。国を包むこの雰囲気。ロキはサンミニアート・アルモンテ聖国いると見て間違いありません」

「ふーん。やっぱり、ヴィーザルもそう思う?」

「ええ……しかし、そうだとすると厄介ですね」


 まるで天界にいるかのような雰囲気。

 もし本当にロキがこの地にいるのであれば、対抗できるのは私かバルドルの二柱だけ。

 ヴィーザルがロキに対抗するのは難しいだろう。


「関係ない。父上からサンミニアート・アルモンテ聖国の破壊許可は下りている」

「まあ、そうなんだけど……ヴィーザルは本当に脳筋だよね。まあ、だからこそ、私達と一緒に行動する様、父様から言われたんだけど……」


 ヴィーザルとトールは脳が筋肉でできているのではないかと思う位、思考が単純だ。

 考えるよりも先に身体が動いてしまう。

 いくら破壊が許可されているとはいえ、サンミニアート・アルモンテ聖国は信仰心の要となる国。

 出来る限り壊さず占領したい。


 私は死兵に視線を向け、声を掛ける。


「それじゃあ、皆さん。サンミニアート・アルモンテ聖国に進軍して下さい。ああ、建物については壊しても構わないけど、人間はできる限り生かして捕らえるように……それじゃあ、行ってらっしゃい」


「「「うおおおおぉぉぉぉ!」」」


 私がそういうと、死兵達は我先にとサンミニアート・アルモンテ聖国に向かって殺到していく。

 本当は私の力で、国丸ごと光で覆ってもよかったんだけど、ここは神々の信仰心を生み出す地。


 私の力でみんなを魅了しては、信仰心が全て私の所に来てしまう。主神の座を取り戻したい父様の為にも、私がこの地の信仰心を総取りする訳にはいかない。

 例え死兵のみんなに、私以外の神を信仰するようにお願いしても、私に対する想いが強過ぎて、それを言った瞬間、みんなそれを嫌がった挙句、死んでしまう。

 信仰心を削る行為は、自身の寿命を削る行為に等しい。


 流石の私もそんな事は望んでいない。


「ん? あれは……女の子? 教会の修道士かな?」


 サンミニアート・アルモンテ聖国に向かって進軍する死兵の軍勢に視線を向けると、進軍先に一人の女の子が立っているのが見える。

 杖を構え、堂々と死兵の軍勢を待ち受けるその姿に奇妙な違和感を感じる。


「あの女の子、もしかして、一人でこの軍勢を食い止める気かな? どう思うヴァーリ?」

「そんな筈ないでしょう。偶々、死兵の軍勢が向かってくる事に気付いただけ。あんな女の子一人に万を超える軍勢を抑える事ができるとは思えません」

「そうだよね? でも、なんか気になるな……えっ!?」


 注意深く動向を観察していると、女の子を中心に風が逆巻いていく。そして、杖に魔力を流し込んだかと思えば、死兵の軍勢の足元で影が蠢き、死兵の半数が影の中に消えてしまった。


 死兵の軍勢の半数が突然消えてしまった事に驚いていると、もう半数の軍勢も影の中に消えていく。


「あの娘は一体……送られてくる信仰心に変化はないから、死んだ訳じゃなさそうだけど……」

「……危険ですね。それに効率よくサンミニアート・アルモンテ聖国を支配する為に、死兵の奪還は急務。仕方がありません。私がやりましょう」

「へえ、ヴァーリが戦うなんて珍しいね」

「ええ、あの娘一人が相手であれば問題ないでしょう。バルドルとヴィーザルは先にサンミニアート・アルモンテ聖国へ。死兵を取り戻した後、すぐに向かいます」


 司法神ヴァーリの力は、法を作り裁く力。

 この世界における決まり事の全てを司る神の力だ。

 ある意味、私の持つ魅了の力よりも恐ろしい。


「そう。それじゃあ、私達は先に行ってるね。ヴィーザル、行くよ」

「うん」


 女の子の事をヴァーリに任せると、その横を駆け抜け、サンミニアート・アルモンテ聖国に向かっていく。


「それじゃあね……って、ええっ!?」


 女の子の横を通り過ぎようとすると、突然、影が形を変えていく。

 突然の事に驚いていると、女の子と目が合った。その娘は、ニコリと微笑むと、私に向かってこう呟く。


「ソテル様の命令により、これ以上の進軍は許しません。しかし、あなた方は話が別です。私だけでは、あまりに荷が重い。ですので、あなた方をソテル様のいる場所にお送りします」


「君は……もしかして、私達が進軍してくる事に気付いてたのかい?」

「ええ、私達には、主神ロキ様の外に、予言の力を持つ神様が付いておりますので……」

「予言の力……」

「ええ、しかし、これ以上の事は直接、ソテル様にお尋ね下さい。それでは、『影精霊』。この方々をソテル様の下に運びなさい『影転移』」


 女の子がそう呟くと、影が私達を包み込む。

 転移の魔法で飛ばされた事に気付いた時には、時すでに遅く。ヴァーリ、ヴィーザルと分断されてしまった。

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