シェトランドとの話し合い①

 オーディンからルーン文字が刻まれた黄金の腕輪『ドラウプニル』を授かり、神託に従ってルーン文字を刻んだ武具の大量作成に成功した翌日、俺は、フェロー王国の国王シェトランドと話し合いをする為、王城にいた。


「悠斗様に屋敷神様ですね。お待ちしておりました。陛下がお待ちです。こちらへどうぞ」

「はい」


 王城に着くと、執務室に通される。

 何故、執務室に案内されたのか疑問に思ったが、扉を開けてすぐその理由がわかった。


「おお、お待ちしておりました!」


 扉を開けると、部屋中に夥しい量の書類の山ができていた。

 床には数十本、万能薬の空き瓶が転がっているし、シェトランドの目の下に隈が浮かんでいる。

 これは相当忙しそうだ。国王の仕事も楽ではないらしい。


「それでは、私はこれで失礼させて頂きます」


 後ろを振り向くと、ここまで案内してくれた兵士さんが執務室から出ていこうとしていた。

 兵士さんの顔に改めて視線を向けると、これまたもの凄い隈が浮かんでいる。

 きっと、シェトランド同様に、毎日万能薬漬けになりながら頑張っているのだろう。


 兵士さんが部屋から出ていくのを確認すると、シェトランドが椅子から立ち上がり、こちらに向かってくる。


「態々、お越し下さり誠にありがとうございます! 国王になってからというものの、もう大変で、大変で……まったく、兄上の尻拭いがこれほど大変だとは思いませんでした。私が国王になってすぐ、疫病が流行するし、冒険者ギルドは急な機能不全に陥るし、そして今度は、オーランド王国の宣戦布告……私に一体、どうしろというのでしょうか……」


 シェトランドの目が血走っていて、少し怖い。


「まあまあ、シェトランド陛下。落ち着いて下さい。まずは万能薬でも飲んで……」


 屋敷神がどこからともなく万能薬を取り出し、シェトランドに手渡した。

 シェトランドは万能薬の栓を開けると、まるで栄養ドリンクを飲むかの様に、ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干していく。


「ええ、すいません。少しばかり、取り乱してしまった様です。万能薬を口にしたら、少し落ち着いてきました」


 流石はシェトランド、社畜の鏡だ。万能薬の飲み方が様になっている。

 俺も一時期そうだった。


「この万能薬は冷えていて美味しいですね。って……ああ、そんな事を言っている暇はありませんでした。大変なのです。オーランド王国から突然、最後通牒が届きまして……。二ヶ月後、オーランド王国と戦争状態に突入する事に……」

「二ケ月後っ!?」


 オーディンは一ヶ月後と言っていた。

 これはどういう事だろうか。


「はい。それで、今、オーランド王国との戦争に備えて準備しているのですが、兵士も武器の数も足らなくて……」


 これは相当深刻だ。


「屋敷神はどう思う?」

「そうですね……オーランド王国は近隣諸国全てに宣戦布告を行っております。既に国際ルールなど、どうでも良いのでしょう。恐らく、最後通牒にある二ヶ月後より早い段階で戦争を仕掛けてくるかと、そう思います」

「に、二カ月よりも早い段階でっ!?」


 屋敷神が私見を述べると、シェトランドが大袈裟に反応をする。


「はい。私であればそうします。国際ルールを無視してよいのであれば、相手の準備が整う前に攻撃を仕掛けるのが、最も効果的かと……」

「な、なるほど……」


 確かにそうかも知れない。

 オーディンも一ヶ月後と言っていたし、オーランド王国が近隣諸国全てに宣戦布告をしているのであれば、国際ルールなんてどうでも良いと思っていたとして、なんの不思議もない。


「そ、それでは間に合いません……」


 シェトランドに視線を向けると、絶望感溢れる表情を浮かべていた。

 徹夜のし過ぎか仕事のし過ぎで、情緒が不安定になっているのかも知れない。


「ただでさえ時間が足りないのにそんな……私は……私は一体どうすれば……」

 

 そういうと、今度は地面に四つん這いになって項垂れてしまった。

 執務室とはいえ、何故、国王であるシェトランドに護衛がついていないかわかった気がする。

 これは、アレだ。

 俺達に頼み事をする為にワザと護衛を外したのだろう。

 シェトランドの項垂れたその姿から哀愁の様なものが漂っている。


「屋敷神……」


 なんともいえず、そう呟くと屋敷神は静かに頷いた。


「そうですね……それでは、手助けをする代わり、戦争に勝利した場合、オーランド王国を私達の管理下に置かせて頂けませんか。それで如何です?」

「「えっ?」」


 俺とシェトランドは屋敷神の発言に疑問符を浮かべる。

 屋敷神が何を言いたいのかが、分からなかったからだ。


「そ、それは、力を貸してほしくば、今の条件を受け入れろと、そういう事でしょうか? オーランド王国は近隣諸国全てに宣戦布告を行なっております。流石に私の一存でそれを決める事は……」

「だからこそです。シェトランド様の言う通りオーランド王国は近隣諸国全てに宣戦布告を行っております。本来であれば、近隣諸国が一体となって、オーランド王国を退けなければなりません。しかし、疫病の蔓延、強力なモンスターの襲撃により、それができずにいます」


「つまり何がいいたいのですか?」

「簡単な事です。オーランド王国から仕掛けられた戦争は、私達が蹴散らします。あなたには、フェロー王国を代表して、オーランド王国との戦争に勝利した後、私達にその管理を任せて頂きたいのです」


 そう言うと、屋敷神は俺に視線を向け、微笑みを浮かべた。

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