シェトランドとの話し合い②

「オーランド王国が戦争に負ければ、どの道、国は無くなります。であれば、戦争でオーランド王国に勝利した国が、その国の全てを手に入れても問題ないでしょう?」


 いや、絶対に問題ある気がする。

 とはいえ、オーランド王国は近隣諸国に戦争を仕掛けまくる危ない国だ。

 負ければ確実に解体されるか支配下に置かれるのは間違いない。


「確かに戦勝国は敗戦国に様々な要求をする事ができますが……」


 シェトランドも困っている。

 当然の事だろう。

 戦争するにもお金はかかる。

 戦争を仕掛けられた側とはいえ、取るものを取らなければ、赤字となってしまう。


 それにしても、屋敷神はオーランド王国を貰って何をするつもりなのだろうか?

 いや……これはもしや、ドアインザフェイス?

 先に大きな要求をして、本命の小さな要求を通し易くするというあの交渉術だろうか?


「いえ、私達が求めているのは、オーランド王国の国土と人民。それだけでございます」


 交渉術でも何でもなかった。

 どうやら本気でオーランド王国を管理下に置きたいらしい。


「し、しかし、一体どうやってオーランド王国との戦争に勝利する気なのですか。助けを求めておいてなんですが、何か策はあるのでしょうか?」

「当然の事です。まずはこちらをご覧下さい」


 そういうと、屋敷神はルーン文字を刻んだ剣と盾を取り出した。


「これは?」

「はい。これは、疫病を退け、持つ者に力を与えるルーンの刻まれた剣と盾です。この武具があれば、疫病に苦しむ者を救う事も、敵を退ける事もできます」

「……な、なるほど」


 シェトランドは剣を手に取ると、苦々しい表情を浮かべた。

 あの感じ、多分、今の話を胡散臭いものだと感じているのだろう。その気持ちはよくわかる。


 これはアレだ。

 パワーストーンと同じ原理だ。

 このパワーストーンを身に着けていれば、無病息災でいれるとか、戦争に行っても生きて帰れるとか、シェトランドはきっと、そんな説明を受けている気分なのだろう。


 屋敷神の話を信じている様子はまるでない。


「……これを兵士に?」

「ええ、その通りです。試してみますか?」

「で、では、お願いしようかな? それでは……」


 そう言うと、シェトランドは窓を開け指さした。


「そこに立っている大木を斬りつけて下さい」

「承知致しました」


 屋敷神は、部屋の中から大木に視線を向けると、剣を構える。


「えっと、屋敷神様? その位置では、あの大木に剣先すら当たりませんが……」

「いえ、この位置で十分です」


 そう言うと、屋敷神は大木に向かって軽く剣を振る。

 すると、剣を振ると同時に大木が真っ二つに引き裂かれた。


 それを見たシェトランドは、目を大きく見開き、唖然とした表情を浮かべる。


「い、一体何が……」

「おや、聞いておりませんでしたか? この武具には敵を退ける力があると言ったではありませんか」


 なるほど、敵を(物理的に)退けるという意味か……確かに『退ける』と言う単語には、こちらに向かってくるものを負かしたり、寄せ付けず追い返すという意味の他、撃退するという意味もある。

 国語って難しい。


「いかがです?」

「た、確かに、凄いですね。しかし、それだけの効果を持つ武具、相当値が張るのでは……」

「はい。しかし、兵士の命には代えられません」

「そ、そうですか……それはそうですよね……」

「当然の事です。しかし、金額に見合った効果は保証致します」


 屋敷神の言葉にシェトランドは考え込む。


「し、しかし、どんなに強力な武具があっても、戦争となれば話は別です。戦争に勝つには多くの人員が必要となります。屋敷神様はどの様にして、オーランド王国との戦争に打ち勝つおつもりですか?」

「当商会には、武芸に秀でた者が多く在籍しております。その多くが冒険者ギルドでいう所のAランク冒険者以上の力を持っており、オーランド王国との戦争では、その従業員達の力をお借りする予定です」

「なるほど、ユートピア商会の従業員を戦争に……」


 実際の所、ユートピア商会の従業員達を戦争に参加させる気はない。

 これはシェトランドに対するブラフだろう。


 この国を守らなければならないシェトランドにとって、Aランク冒険者に相当する力を持つ者が一緒に戦ってくれるというという安心感は何にも代えがたい筈だ。


「しかし、オーランド王国との戦争を私達に一任して頂けるのであれば話は別です」

「それはどういう事でしょうか?」


 その話、俺も詳しく聞きたい。


「もしオーランド王国との戦争を私達に任せて頂けるのであれば、この戦争で実際にかかる費用は全て当商会が肩代わりしましょう。勿論、兵士をお借りする事もございません。兵士の方々には、万が一に備え、この国の守りを固めて頂ければそれで結構です」

「へ、兵士の力を借りないのですか? それではどうやってオーランド王国との戦争を……」

「簡単な事です。冒険者ギルドでいう所のSランク冒険者相当の力を持つ者を派兵します」


 屋敷神はそういうと、俺に笑顔を向けてきた。

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