その頃の悠斗②

「そ、それはっ!? ま、まさか、グングニル!」

「はい。その通りです」


 流石はオーディンを自称するだけの事はある。

 グングニルの造形に詳しい様だ。

『収納指輪』からグングニルを取り出すと、驚愕といった表情を浮かべた。


「えっと、どうかしましたか?」

「こ、これをどこで手に入れたのだ?」

「えっ、このグングニルをですか?」


 ユートピア商会で作成したものなんだけど……。


「これはですね。ユートピア商会で……」


 俺がその事を伝えようとすると、お爺さんは涙を浮かべながら、話を遮ってくる。


「いや、やはり、そんな事はどうでもいい。グングニルが……ワシのグングニルが戻ってきおった。ありがとう。本当にありがとう!」

「い、いえ、そんなに喜んで貰えるならよかったです」


 お爺さんはグングニルを受け取ると、グングニルに頬擦りし出した。

 なんだか話が噛み合わない様な気がしてならないけど、お爺さんに喜んで貰ってよかった。


「君は、君はなんて良い青年なんだ……あのクソ年増に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたい位だ!」

「い、いやー、そんなー」


 さっきから話の節々に出てくる『クソ女』さんと『クソ年増』さんって一体誰だろう?

 呼び方からして、あまりその人とは上手くいっていない様に思える。


「あっ、そういえば、こんな物もありますよ?」


 そう言うと、俺は『収納指輪』から『王座フリズスキャールヴ(ユートピア製)』を取り出した。

 それを見たお爺さんは、驚愕といった表情を浮かべる。


「き、君っ、こ、ここここっ、これを一体どこでっ……」

「これですか? 実はこれ『王座フリズスキャールヴ』というものでして、つい先日、作成してみたものなんですよ」

「さ、作成? 何かの比喩か?」


 作成してみたと言ってみるも、お爺さんはピンときていないようだ。


 そう、これはあの物騒な椅子『王座フリズスキャールヴ』を元にして、ロキさんと共にグーグル●ース並の性能に落とし込んで作成したものである。

 本物の『王座フリズスキャールヴ』と違い、この王座に出来る事といえば空から様子を眺める事位。しかも、作成した俺達以外が使っても、ある一定時点で制限がかかるのであまり意味のないものだ。


 ちなみに本物の『王座フリズスキャールヴ』はロキさんに預けてある。この王座には、悪用を禁止するコードや数度の警告を無視した場合、大爆発する仕掛けも施してあるから、そう悪用する事もできない。


「ま、まさか、グングニルに続き、王座まで……」

「はい。折角なのでこちらもお持ちください」

「き、君は神か何か……このワシが主神の座を取り戻したら次席に据えたい位だ……何か、何かお礼をさせてほしいのだが……」

「いえ、既にお礼は頂いているので、大丈夫ですよ」


 そう言いながら、黄金の腕輪をお爺さんに見せる。

 すると、それを見たお爺さんが手を付いた。


「おお、それがあったか、どれ、その『ドラウプニル』を貸してごらん。ワシの知る限りのルーン文字全てをこれに刻んでやろう」


 お爺さんに黄金の腕輪を渡すと、そんな事を言い出した。

『ドラウプニル』とは、北欧神話においてオーディンが持つとされる黄金の腕輪で、九夜ごとに同じ重さの腕輪を八個滴り出すとされているが、どんな効果を持っているかは未知数。そんな感じの腕輪だ。

 流石はお爺さん。自称オーディンを名乗るだけあって博識である。


 俺から黄金の腕輪を受け取ったお爺さんは、何やらぶつぶつ言いながら、腕輪に文字を刻んでいく。

 折角、頂いた黄金の腕輪にルーン文字という名の落書きをされ台無しではあるが、仕方がない。

 お爺さんの気の済むまでやらせてあげよう。


「ふう。終わったぞ」


 お爺さんは汗を流しながら、黄金の腕輪を渡してくる。

 あんなに綺麗だった黄金の腕輪がミミズの様な文字(お爺さん曰くルーン文字)によって傷だらけとなってしまった。


 このお爺さん、何がしたいのだろうか?

 お爺さんはやり切った感溢れる表情を浮かべている為、露骨に残念といった表情を浮かべずらい。


「ありがとうございます」


 取り敢えず、笑顔を浮かべながら、受け取ると、手に取った瞬間、黄金の腕輪が光出す。


「えっ?」

「これでいい。このドラウプニルに刻んだルーン文字は、その昔、ワシがまだ若かった頃、ルーン文字の秘密を得るために、ユグドラシルの木で首を吊り、グングニルに突き刺されたまま、九日九夜、自分を最高神オーディンに捧げ手にしたものだ」


 このお爺さん何を言っているのだろうか、オーディンを自称するお爺さんが、ユグドラシルの木に首を吊り、グングニルに刺されたまま、自分自身を最高神オーディンに捧げる?


 ルーン文字の秘密を知る為、自分自身を自分に捧げたの?

 ちょっと、言っている意味がわからない。


「このドラウプニルには、ワシが身を捧げてまで手にしたルーン文字の秘密を全てを刻んだものだ。グングニルと王座フリズスキャールヴの礼としては不足かもしれないが、是非、活用して欲しい。これを持っているだけで、ワシと同等の知識が浮かんでくる筈だ」


 確かに、黄金の腕輪を持っていると、ミミズみたいな傷跡だと思っていた文字一つ一つに意味と、どんな力が宿っているのか理解する事ができる。


 も、もしかして、このお爺さん。

 本物の神オーディンなのだろうか?

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