第十一章 オーランド王国動乱編

その頃の元主神①

 オーランド王国の王城。

 ここでは、オーランド王国の女王フィンが顔を真っ赤に紅潮させ、怒り狂っていた。


「ちょっと、どういう事よ!? 全然話が違うじゃない!」

「う、うむ。ま、まあ落ち着け。落ち着くのだ。想定よりも疫病が流行らなかったのは誤算だが、仕方があるまい。商業ギルドが冒険者ギルドと組むとは、思わなかったのだ。それに教会が万能薬の無償配布を行なっているなんて思わないではないか」


 教会が万能薬の配布を行なっている事は、オーディンにも告げている。


「言ったわよね? 私、言ったわよね?? 教会が万能薬の配布なんて行っているから、オーランド王国は苦境に立たされているんでしょうが! その事については真っ先に教えたわよね!? それに商業ギルドが冒険者ギルド組むと思わなかったですって? 元主神だかなんだか知らないけど、ふざけるんじゃないわよ! こっちはあなたのいう通り、近隣諸国に対して宣戦布告してしまった後なのよ!? どうするつもりよ! どう責任を取るつもりなのよ!」


「せ、責任? 責任だと? 何故、このワシが責任を取らねばならんのだ? ワシはこの天界を統べる元主神なのだぞ? そのワシが何故、責任を取らねばならん!」

「あんた、ふざけた事を抜かすんじゃないわよ……あんた言ったわよね! 『協力者であるお前の国に害を与えぬと約束しよう』とか言っていたわよね! それなのに、何を偉そうに……何が『何故、このワシが責任を取らねばならんのだ』よ! マリエハムン迷宮に向かう時『ついでにお前の部下共も守ってくれるわ』とかなんとかいって部隊を半壊させた碧眼糞爺が!」


 あまりの言われ様に、オーディンは眉を顰める。


「へ、碧眼糞爺とは誰の事だ! ま、まさか、ワシの事を言っているのではあるまいな!?」

「ああ? 何を言っているのよ! あんた以外に碧眼糞爺なんている訳ないじゃない! 部隊を半壊させた挙句、マリエハムン迷宮で大切な槍を失った槍なし槍神のあんたにそう言っているのよ。この穀潰し!」


「ご、穀潰しだと? 元主神であるこのワシに対し、なんて言い草だ……フェロー王国と商人連合国アキンド以外の近隣諸国は疫病、そしてワシの放ったモンスターにより半壊状態……とは言い難いが、それに近しい状態になっている! マデイラ王国もワシの放ったモンスターが占拠した! 貴様はそれでもこのワシを穀潰しと言うつもりか!」


 しかし、フィンの怒りは収まらない。

 更なる罵詈雑言をオーディンに向かって口にする。


「はあ? 肝心のフェロー王国はどうしたのよ! ユートピア商会が評議員の半数を占める商人連合国アキンドは? 教会だってそうよ! 私の国を苦しめる三国が全くのノーダメージじゃない! それにマデイラ王国を占拠した? あなたは馬鹿なの? 確かに近くにある迷宮は魅力的だけど、そんな弱りに弱りきった国を占拠してどうするの! まさかあなた……私の国を財政破綻に追い込む気じゃないでしょうね?」


「ぬ、ぬう。し、仕方がないではないか! 王座とグングニル、スレイプニルを失った今、ワシにできる事なぞ知れておる。だからこそ、少しでも信仰心を集めようと……」


「はあ? だから何よ、占拠した国に対して物資を寄越せとでも言うつもり? 信仰心だかなんだか知らないけどね。いい加減にして!」

「ぐっ、小娘の分際で偉そうに……まあいい。それならば、このワシが直々にフェロー王国と商人連合国アキンドに乗り込んでやるわ! それなら文句はあるまい! このワシの力、見せてくれる!」


 売り言葉に買い言葉でそう言うと、オーディンは思い切り拳を振り上げ肘掛けに向かって振り下ろす。

 するとバキリと音を立て壊れた肘掛けが床に落ちた。


「あなたね……」

「ふん。心配は不要。もとよりあの国には取りに行かなければならぬワシの半身とも言うべき存在が置いてある。ヴォーアル迷宮に送った一対の渡鴉『フギンとムニン』。これさえ手中に収めれば、奪われた『王座』と『グングニル』を取り戻す事も可能だ」


 そう言うと、壊れた椅子から立ち上がる。


「ちょっと、どこに行く気?」

「ふん。知れた事よ……フギンとムニンはヴォーアル迷宮の最終階層に送ってある。それを取り戻しに行ってくるのだ」

「待ちなさい!」


 部屋から出ようとすると、フィンに呼び止められる。オーディンは鬱陶しそうな表情を浮かべながらフィンに視線を向けた。


「ああ? ワシは忙しい。そんなワシを呼び止めるとは、どういうつもりだ? つまらぬ事で呼び止めたのであれば、タダでは済まさぬぞ?」


 そう言うと、フィンは指先を地面に向けた。

 指先に視線を向けると、そこには今壊したばかりの肘掛けと椅子が目に映る。


「……その椅子。百年前に作られたアンティーク家具なの。役に立たない隻眼糞爺の分際で、何、壊してくれるのよ! 現状、あんたより価値のあるこの椅子を……どうしてくれるの! あんた、これ、治しなさいよね! 今すぐ治しなさい!」

「ぐっ、元主神であるこのワシに対して何と言う事を……貴様、いつか罰が当たるぞ」

「そんなのどうでもいい。いいから直しなさい!」

「ぐっ、くそぉぉぉぉ!」


 オーディンは折角集まってきた信仰心で、椅子を治すと叫び声を上げた。

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