その後①
「さて、これから更に忙しくなりますよ。早速、冒険者ギルドに送り込む従業員の選定をしなくては……」
グランドマスターを共に見送ると、屋敷神はそう呟いた。
屋敷神、グランドマスターとの話し合いに付き合って欲しいと言った時から、こうなる事を……いや、もっと前から冒険者ギルドを乗っ取る事を想定していたのだろうか?
そうだとしたら恐ろしい。
この世界ウェークに来てから一年。
一年前には考えた事もないような規模で、ユートピア商会が大きく、力を持っていく。
商人連合国アキンドの議席数の半数を確保し、冒険者ギルドを手中に収めた今、俺がいなくなったら……屋敷神や鎮守神といった神々が経営から手を引いたらとんでもない事になるのではないだろうか?
俺がいなくなり、神々が経営から手を引いたウェークの未来を頭に思い浮かべ首を振る。
いや、大丈夫な筈だ。
この一年で……たった一年しか経っていないけど、後継はちゃんと育ってきている。
しかし、万が一と言う事もある。
これからは、屋敷神達に任せていた仕事も徐々に従業員達に振っていこう。
「あれ、そういえば、モルトバさんは? 客間に置いてきぼりにしちゃったけど、ユートピア商会のどの部門でモルトバさんを使うつもりなの?」
正直言って、モルトバには、あまりいい感情は持っていないが、屋敷神がモルトバの事を引き取ると言ってしまった以上、仕方がない。
「はい。あの者は暫くの間、人形監視の元、他の借金奴隷と共に迷宮内で更生プラグラムを受けて頂きます。手っ取り早く人形にする事も考えたのですが、やはり、人間の形を象っていた方が何かとやりやすいですからね」
「そ、そう……」
どうやら更生プラグラムを受けた後は、超絶ブラックな環境に身を置かれるらしい。モルトバの未来はそんな明るくはなさそうだ。
それにしても、他の借金奴隷?
ユートピア商会に借金奴隷なんていただろうか?
それに、なんで借金奴隷までモルトバと共に更生プラグラムを受けるんだろう?
謎は深まるばかりだ。
まあいいか。
そんな事を考えても仕方がない。
「それにしても、悠斗様。おめでとうございます」
「えっ? 急にどうしたの?」
一体、何に対しての、おめでとうなのだろうか?
屋敷神の意図する事がわからない。
「商業ギルドに続き、今回の一件で、冒険者ギルドの中枢に根を張る事ができました。これにより、この世界における悠斗様の影響力は絶大なものとなります。そして一番喜ばしいのが、悠斗様のレベルが100の上限に到達した事です」
「えっ! そ、それ、どういう事っ!?」
「おや? もしや、気付いていなかったのですか? 一度、ステータスを確認してみては如何です?」
「う、うん」
屋敷神に促されるままに「ステータスオープン」と呟き、視界に表示されたステータス画面を確認する。
レベル表記を見ると、確かにレベルが100となっていた。
「……な、ななななっ、なんでっ!? お、俺、レ、レベルが上がらないよう気を付けていたのにっ……」
一体、どういう事だろうか。
レベルが上がらない様、従業員達のレベリング中は『影探知』と『影転移』そして『影纏』しか使っていない。
「何を仰っているのですか? 『影分身』を発動させ、従業員達と共にモンスターの討伐をしていたでしょう?」
「『影分身』!?」
「はい。その通りです」
いや、一体どういう事っ!?
確かに従業員達のレベリングを効率的に行う為、『影分身』に任せたけど、そんなまさかっ……『鑑定』スキルによると『影分身』は超高度なAIを搭載したロボット並に物事を判断して動いてくれるらしい。だからといって、俺の意に反する様な事をする筈が……。
「悠斗様はどうやら思い違いをしている様ですね。『影分身』は影で自らと同じ能力を持つ分身を作る『影魔法』ですよ? 悠斗様は『影分身』を操る時どうされているのです。『影分身』に判断を任せ、従業員達の守護とレベリングの補佐を命じたのではありませんか?」
「ううっ……」
言われてみればそうだ。
確かにそんな感じの命令をした様な覚えがある。
「それに『影分身』は悠斗様の『影魔法』です。悠斗様がモンスターを倒せば経験値が入る。それは悠斗様の手元を離れた魔法であっても同じ事です」
「そ、そうなのっ!?」
「はい。もしかして、ご存知なかったのですか?」
「いや、そんな事知らないよー!」
「まあまあ、これで冒険者ギルドも手中に置いたも同然。何はともあれよかったではありませんか」
いや、全然良くない。
そう考えているのは屋敷神達だけだ。
「ううっ……俺は普通に生活を送り、人として生を全うしたいだけなのに……」
俺がそういうと、何故か屋敷神は首を横に振った。
いや、首を振ってどういう事っ?
「残念ながら、それはもう叶わない願いかと……」
「えっ! ど、どういう事?」
「商業ギルドと冒険者ギルドに根を張った今、この世界における悠斗様の影響力は計り知れないものとなっております。レベルは100となり、あと一つレベルが上れば悠斗様は……」
「えっ!? 何っ? あとレベルが一つ上がれば俺がはどうなっちゃうのっ!?」
「……あとレベルが一つ上がれば、我々の仲間入り。つまり神になります」
屋敷神は嬉しそうな表情を浮かべると、衝撃的な一言を口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます