グランドマスターとの話し合い①
「ふう、結構時間がかかったな……」
なんだか久しぶりに王都に戻ってきた様な気がする。
トースハウン領、ネルソイ領、サンドイ領を巡り、スラム街の住民達のレベリングを済ませた俺は、屋敷神の『影分身』にその後の教育を任せると『影転移』を使い、王都に戻ってきていた。
ショッピングモールは今日も盛況だ。
王都に変わった事がないか、大通りを歩いていると、まるでストリートアートの様な落書きがされている建物を見つけた。
その建物の周囲には、剣呑な空気を纏った人々が屯し、建物を見つめている。
「あれは、冒険者ギルド?」
あんな感じ……だっただろうか?
この一ヶ月の間で冒険者ギルドに何があったのだろう?
そして、商業ギルドに視線を向けると、こちらは冒険者ギルドとは違い何も変わった様子はない。
強いていえば、冒険者ギルドで働いていた筈のギルド職員さんが、商業ギルド前の道を掃除している。
きっと落ち目の冒険者ギルドに見切りを付けて、転職したのだろう。
いい判断である。
王都の様子を一頻り見た俺が邸宅に戻ると、屋敷神が出迎えてくれた。
正直、屋敷神は事ある毎に呼び出していたから、久しぶり感がまるでない。
屋敷神が影精霊の力を借りて『影分身』できる事を知った時は、最初から屋敷神に全て任せればよかったと思った程だ。
「お帰りなさいませ」
「うん。ただいま、屋敷神。俺がいない間に、何か変わった事はなかった?」
「変わった事でございますか? そうですね……冒険者ギルド本部よりグランドマスターを名乗る男が邸宅を訪問してきました。しかし、悠斗様が不在である旨をお伝えすると、至急話したい事があるので、悠斗様が帰宅次第、すぐに連絡がほしいといって去って行きました」
冒険者ギルドのギルドマスターじゃなくて、冒険者ギルド本部のグランドマスターが?
なんだか大事になってきた気がする。
「えっ? それっていつ位の事?」
俺は一ヶ月かけて三つの領を回っていた訳だけど……。
「そうですね……二週間前でしょうか?」
「二週間前!?」
「はい。悠斗様は当分の間、戻らないとお伝えしたのですが、それでもいいと仰いますので」
「そ、そうなんだ……」
冒険者ギルド……だいぶ、様変わりしている様だったけど、大丈夫なのだろうか……。
多分、あの冒険者ギルドの中で俺の事を待っているんだよね??
「えっと、連絡ってどうしたらいいのかな? 取り敢えず、冒険者ギルドに向かえばいいの?」
「いえ、悠斗様は客間でお待ち下さい。私が冒険者ギルドに向かいグランドマスターを呼んで参ります」
「えっ?」
俺が直接向かわなくて大丈夫なのだろうか??
「相手は冒険者ギルドを束ねるグランドマスターなんだよね?」
「はい。つまりは格下の者という事になります。それに格上の存在である悠斗様をあのようなボロ屋に向かわせる訳には参りません」
冒険者ギルドのグランドマスターが格下!?
屋敷神の判断基準はどうなっているのだろうか?
でも、屋敷神が言うことだし……。
「そ、そう?」
「はい。そうでございます」
まあ、屋敷神がそう言うのだから、そうなのだろう。
言われてみれば、冒険者ギルドの建物もこの一月の間に随分と様変わりしていた。
「それじゃあ、グランドマスターを呼んできてくれる?」
「はい。わかりました。それでは、暫し、こちらでお待ち下さい」
屋敷神はそういうと、床に溶け込むかの様に俺の目の前から姿を消した。
フェロー王国は既に迷宮の支配下にある。
おそらく、グランドマスターを呼びに行ったのだろう。
「それじゃあ、グランドマスターが来るまでの間に、話し合いの準備を進めておこうかな……」
ロキさんと土地神の協力もあり、各領にユートピア商会の支部を建てる事ができた。
従業員達も、既にユートピア商会で働く傍ら、商業ギルドの新しく新設した討伐・護衛部門で、迷宮からモンスター素材を収穫する『
まあ、ロキさん担当の領では色々あって、スラム街の住民の半分位が聖モンテ教会の修道士として第二の人生を歩む事になってしまった。
なんでそんな事になったのかについては、あまり語ってくれなかったけど、聖モンテ教会と太いパイプのあるロキさんの事だ。多分、教皇ソテルさんやその部下の方々を動かした結果、そんな感じになったのだろうと思っている。
「それにしても……話し合いの準備と自分で言ったものの、何をしたらいいのだろう?」
いつも屋敷神に任せっ放しだったから、何をすればいいのかわからない。
取り敢えず、キッチンに向かうと、キッチンのテーブルの上に茶菓子が置いてあるのが見えた。
元の世界で販売されていた切腹●中を丸パクリし、ユートピア商会でも売りに出した切腹饅頭である。
因みに切腹饅頭は、饅頭の腹から今にも零れ落ちそうな位餡子がはみ出しているのが特徴的な饅頭だ。
餡を包み込む様に閉じているのが当たり前の饅頭の腹をあえて掻っ捌き、餡子を追加し『切腹饅頭』と書かれた帯封で饅頭を包み込み、後ろでしっかり結ぶ。そんなデザインの饅頭となっている。
どうやら、屋敷神はこの『切腹饅頭』を茶菓子として客間に出すらしい。
屋敷神が客間に出す『切腹饅頭』……。
腹を割って話をするつもりなのか、はたまた……解釈が難しい所である。
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