グランドマスターとの話し合い②
「まあ、取り敢えずこれを客間に運んでおくか……」
屋敷神の事だ。最初からそのつもりで用意してあったのだろう。
それに、もうすぐグランドマスターがやってくる。
屋敷神は、俺の事を冒険者ギルドのグランドマスターより格上だと言っていたし、ユートピア商会の会頭として、商人連合国アキンドの評議員の一人として、舐められない様にしなければ……。
俺はキッチンでお湯を沸かすと『切腹饅頭』と共に置いてある芍薬茶の茶葉を急須に入れ、客間へと運ぶ事にした。
そういえば、なんで普通のハーブティーじゃなくて芍薬茶を用意したんだろう。
芍薬の花言葉は、怒りとかそんな感じだった様な気が……。
「…………」
ま、まあ気にしていても仕方がない。
グランドマスターが花言葉を知っているとは思えないし『切腹饅頭』については、腹を割って話そう程度の意味だと思っておこう。
実際に俺の目の前で腹を掻っ捌かれても掃除に困るだけだ。
「さてと、それじゃあ早速……」
『切腹饅頭』と芍薬茶を収納指輪に収め、客間に向かうと、テーブルにそれらを並べていく。
その後、キッチンでお湯が沸騰するのを待っていると、沸騰したタイミングで背後から声が掛かる。
「お待たせ致しました。悠斗様、あと数分で冒険者ギルド本部のグランドマスター、グラン様が、ギルドマスターのモルトバ様と共に到着されます。雑務は私に任せ、暫しお寛ぎ下さい」
背後からかけられた声に振り向くと、そこには屋敷神が佇んでいた。もう冒険者ギルドに行ってきた様だ。
「うん。ありがとう」
俺は屋敷神にお礼をいい、キッチンから離れると、沸騰したお湯を屋敷神に任せ椅子に座る。
「そういえば、グランドマスターってどんな感じの人だった?」
「そうですね……今まで会ってきた人間の中では比較的話の通じる方……といった印象を覚えました。随分と身内に甘い印象も受けましたが、人間の中では中々、できた人間なのではないでしょうか?」
屋敷神がそう評価するなんて珍しい。
それなら、これから行う話し合いが無為にならなくて済みそうだ。
「それにしても、グランドマスターとの話し合いか~。一体何を話せばいいのかな?」
「ふむ……既に二週間前とは状況が変わっていますからね。まずあちら側からの謝罪があり、次に白金貨百万枚の返還。次いで賠償金として請求した白金貨二千万枚の減額要請といった所でしょうか? あと考えられる事は、商業ギルドの迷宮での活動権の放棄、悠斗様を含む高ランク冒険者達の復帰のお願い位ですかね?」
「屋敷神はどうしたらいいと思う? スラム街の人々に対する冒険者の行いや、モルトバの事を考えると、いくら相手がグランドマスターとはいえ、双方が納得する着地点……落とし所に持っていくのは難しいと思うんだよね?」
俺がそう問いかけると、屋敷神はクスリと笑う。
「妥協点なんて探らなくても問題ないのではありませんか? グランドマスターと悠斗様とでは立場も格もまるで違うのです」
「えっ、どういう事?」
それは、妥協しなくても問題ないとそういう事だろうか?
「悠斗様は冒険者ギルド全体でAランク以上の冒険者が何人ほど居るか知っていますか?」
「い、いや、知らないけど……」
「それでは、教えて差し上げましょう。世界中にある冒険者ギルド全体におけるAランク以上の冒険者の数はユートピア商会の従業員達を除けば、五百人程しかいないのです」
「えっ、たったそれだけっ!?」
ユートピア商会に所属する従業員の殆どが、Aランク冒険者に匹敵する程の力を持っているというのに、驚きである。
「はい。たったそれだけしかいないのです。今や、ユートピア商会は先日のレベリングにより、冒険者ギルドでいう所のAランク冒険者を一千人以上を囲っている状態にあります。つまり、戦力だけでいえば、我々を除外しても現冒険者ギルドの二倍の戦力を保持している事になります」
「そ、そうなんだ……」
知らなかった。
グランドマスターが謝罪しに来る理由が何となくわかった気がする。
「そして……」
「まだあるのっ!?」
「はい。そして、ユートピア商会は今や商人連合国アキンドの評議員半数を抱える大商会。商業ギルド以外の流通経路を持たない冒険者ギルドは我々に逆らう事ができないのです。お分かり頂けましたでしょうか? 以上の事から、我々が譲歩する必要はなく。ただ淡々と、賠償金の請求をすればよろしいのです。冒険者ギルド側は譲歩案を持たぬのですから……」
「な、なるほど……」
確かに、言われて見れば、その通りかも知れない。
そもそも冒険者ギルド側に譲歩を引き出すだけの条件がないのだ。
俺がこれからするべき事は、ただ淡々と賠償金の回収するだけ、とてもわかりやすい。
しかし、心配事もある。
ハッキリ言って俺は流され易い。
相手は海千山千の冒険者ギルド本部からやってきたグランドマスター。
情で絆された場合、話し合いがどう傾くかわかったものじゃない。
ここは、屋敷神にも着いてきて貰うべきだろう。
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