その頃、王都では③

『そう。それほどまで大事に至っているのだよ……対応を間違えば、モルトバ君。君やワシの首だけでは済まされない』

「と、という事はやはり……」

『ああ、君には責任を取って貰う。ギルドマスターの地位も今をもって更迭だ』

「ギルドマスターの地位を更迭っ!?」

『当然だろう。君はそれほどまでの事をしたんだ』

「で、ですがっ! しかし……」


『何を言ってももう遅い。今回の件は、既に誰かが責任を被らない事には収集がつかない所まできてしまっている。思えば、君をアゾレス王国からフェロー王国王都支部に異動を命じたのはワシだったな……定期的なローテーションのつもりだったが、まさかこんな事になるとは……。安心しろ、お前だけに責任は負わせはしない。ワシも任命したからには責任を取る。だがその前に、何においても優先的にやらなければならない事がある。それが何かわかるか?』


「ゆ、優先的にやらなければならない事ですか?」

『ああ、冒険者ギルドは商業ギルドにモンスターの素材を買い取って貰っているのは知っての通りだ。今回の件で君はよりにもよって、商人連合国アキンドの評議員を敵に回してしまった……しかも、冒険者ギルドの名を使ってだ。このままでは、近い将来、モンスターの素材を買い取って貰えなくなる恐れがある』


「お、お言葉ですが、流石にそんな事は……」

『……起こらないと本気で思っているのか? 既に商業ギルドはフェロー王国の国王より迷宮内での活動許可を貰っているんだぞ? それが何を意味するかわからない君ではあるまい』

「た、確かに……」


 商業ギルドがフェロー王国内で、迷宮内での活動許可を得た事は知っていたが、ギルド本部がそれほど警戒しているとは思いもしなかった。


『まずは、ユートピア商会から受け取った白金貨百万枚を返還し、誠心誠意謝罪する所から始めよう。あの金は、本来、冒険者ギルドが受け取っていい金ではない。モルドバ君、すぐに用意をしたまえ。それを持って謝罪をしにいくぞ』

「し、白金貨を持って謝罪に……ですか?」

『当然だ。まさか、既に使ってしまったなんて事はないだろうな? そんな事をすれば、君はもう……流石のワシでも庇いきれんぞ?』


 白金貨百万枚はもう手元にない。

 全てを冒険者達に分配してしまった後だ。

 冒険者達に貯金をするなんて頭はないだろうし、一度配った金が返ってくるとは思えない。


 私が言い淀んでいると、グランドマスターが強張った声で呟いた。


『……本当に大丈夫だろうな?』

「も、ももももっ、勿論です! ユートピア商会から受け取った白金貨百万枚は大切に保管してあります!」


 さ、流石に使い切ってしまったとは言えない。


『そうか、それならば良かった。流石のワシも、ギルドマスターに任命した者を犯罪奴隷に落としたくはない……冒険者ギルド本部に話を通さず白金貨百万枚をギルドマスター権限で分配したとなれば、もはや犯罪奴隷と何ら変わらない。一生を奴隷として過ごす事になる。それに万が一、白金貨を賠償金として分配していたなんて事になれば、それこそ大変な事になる。冒険者ギルドとしては、白金貨を渡した冒険者を特定次第、その者から白金貨を回収し、返せぬ場合は、その者まで借金奴隷に堕ちる事になるからな。白金貨を配賦してしまう前で本当に良かった』


 私の答えにグランドマスターはホッと息を吐いた。


「は、はははっ……な、なるほど、いや~本当に良かった……」


 拙い。拙い。拙い。拙い。拙い。

 拙い事になったぞこれはっ。

 ギルドマスターの地位を追われたばかりか、これから先の人生を犯罪奴隷として過ごす事になるなんて真っ平御免だ。それに、白金貨を配賦した冒険者が、白金貨を返さなかった場合、その者を借金奴隷にするだとっ!?


 既に二百名を超える冒険者に白金貨を配ってしまった後だ。

 あいつ等が金を貯めておける筈がないだろう!

 こ、このままでは、王都を拠点としている冒険者の殆どが借金奴隷になってしまう……。


「グ、グランドマスターに是非お願いがあるのですが、聞いていただけますでしょうか?」


 私がそう言うと、グランドマスターは少し警戒を浮かべる。


『お願い……なんだ?』

「今回の一件、私は深く反省致しました。私の思い違いで、冒険者ギルドに……ユートピア商会にご迷惑をおかけしてしまった事、誠に申し訳なく思っております。そこで、ユートピア商会への謝罪は私に一任させて頂けないでしょうか? 冒険者ギルド本部からフェロー王国まではかなりの距離があります。その間、ユートピア商会に謝罪をせぬままというのは拙いと思うのです」

『……ふむ。確かに』

「で、ではっ!?」


 私がそういうと、グランドマスターが条件を付けてきた。


『うむ。それでは、ワシが到着するまでの間に謝罪を済ませておくのだ。その後、冒険者ギルドのグランドマスターとして、改めて詫びに行こう』

「い、いえ、グランドマスターの手を煩わせる訳には……」

『そうもいかないだろう。それとも、なんだ? ワシが詫びに行って困る事でもあるのか?』

「そ、そういう訳ではありませんが……」

『それなら問題ないだろう。くれぐれも、これ以上の問題を起こしてくれるなよ?』

「わ、わかりました!」


 私がそういうと、グランドマスターとの通信が切れた。


「ま、まままっ、拙いぞこれは! は、早く冒険者達から金を返して貰わないと、王都支部の冒険者の殆どが借金奴隷に……い、いや、そんな事はどうでもいい! 白金貨百万枚を回収せねば私の身は破滅だっ!」


 残りの人生を犯罪奴隷として生きていくなんて絶対に嫌だ。

 私はそう呟くと、急いでギルド職員の下に向かっていく。


「す、すぐにギルドからの支援金を受け取った冒険者共から白金貨を回収しろ! 全額だ! 全額返せない者は借金奴隷に落としてでも回収するんだぁぁぁぁ!」


 私がそう大きな声を上げると、ギルド内は静まり返った。

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