その頃、王都では②
『……うん? どうした、返事がない様だが……』
「い、いえ、申し訳ございません。どうやら通信状況が悪いようでして……」
拙い。完全に思考がフリーズしていた。
取り敢えず、通信用の魔道具に不調がある様だという事を伝えると、グランドマスターは『そうか』とだけ呟き、話を続けていく。
『さて、本題に入らせて貰おう』
「ほ、本題ですか……?」
『ああ、何かの間違いだとは思うが、一応確認しておかなくてはならない事があってな……モルトバ君。君はユートピア商会という商会を知っているかね?』
「ユ、ユートピア商会ですか……」
当然知っている。いや、知らない筈がないだろう。何せ、ユートピア商会はフェロー王国を拠点としている大商会なのだから……冒険者ギルド本部から送られてきた見解書といい、タイミングが良すぎると思えば、やはりその件かっ……。
「……はい。フェロー王国に居を構えている大商会です。王都に住んでいて知らぬ者はいないでしょう」
『そうだ。そのユートピア商会より白金貨二千万枚の賠償金を求める請求と抗議書が送られてきた』
「し、白金貨二千万枚の賠償金を求める請求に抗議書ですか……」
あの爺、本気でギルド本部に送り付けやがったっ……な、ななななっ、なんて事をしてくれたんだっ!
『抗議書によれば、冒険者ギルドがユートピア商会に対して、護衛依頼の減少、その元となった魔道具の販売停止及び回収を求め、白金貨百万枚の賠償金の支払いを求めてきたと書かれている』
「じ、実はその件について話をしようと……」
私がそう言おうとするも、グランドマスターは話を続ける。
『まあまあ、話は最後まで聞きたまえ……まずは事実を確認しない事には、何もできないではないか』
「は、はい……」
『では、話を続けよう……抗議書によれば、ユートピア商会から冒険者ギルドに白金貨百万枚という途方もない金額が支払われたと書かれている。この話は本当の話かね?』
くっ……。グランドマスターの事だ。
ある程度、裏付けを取ってから事情聴取に臨んでいると見て間違いない。
「は、はい。その通りです……し、しかしっ……」
『まあまあ、弁解は後で聞かせて貰うよ。しかし、なる程、白金貨百万枚を受け取った事は事実なのだな……では次に、君は今、各国に迷宮のボスクラスのモンスターが多数発生している事を知っているか?』
「はい……勿論、存じております」
『そう。君も知っての通り、冒険者ギルドは国からの依頼で高ランク冒険者を被害の度合いに応じて派遣している。しかし、冒険者ギルド本部からの要請にも関わらず、高ランク冒険者が多く在籍している王都支部からの派遣実績がまるでない様だが、何故だろうか?』
「そ、それはっ……」
ユートピア商会所属の冒険者が大量脱退したからである。
大量脱退の事実を隠している為、ギルド本部からすると、何故、高ランク冒険者が多数在籍している王都支部がギルド本部の要請に従わないのか不審に思っているのだろう。
私が何も答えられずにいると、グランドマスターは何かを察したかのように呟いた。
『……もしや、この一件が原因で、高ランク冒険者が脱退してしまったのではないかね?』
大当たりである。
そして、グランドマスターの優しい喋り口調が怖い。
まるで私の心を見透かされている様だ。
「……は、はい。ただ、冒険者ギルドに戻って来る可能性がある為、私の一存で除名処分を保留しています」
『そうか……そうであれば、仕方がない。あと二点だけ、話を聞かせて貰い今後の対応を考える事にしよう』
「二点ですか……」
まだそんなに話があるのか……。
『そうだ。はっきり言って、ワシは今回の件をかなり重く見ている。君の意見を聞いているのは、事実確認の他ならない。対応を間違えば、冒険者ギルドに多大な損害を与える事に繋がりかねないからな……』
「は、はい……申し訳ございません」
『さて話に戻ろう。先日、君宛に冒険者ギルドが調べた見解書を送付したが、確認しているね?』
「は、はい」
『うむ。その見解書を見て貰えばわかる通り、護衛依頼の減少にユートピア商会の販売する魔道具は一切関係ない。しかし、君は間違った認識の下、ユートピア商会に魔道具の販売停止と回収を求め、賠償金として白金貨百万枚を要求してしまった。この事により、今、冒険者ギルドで何が起こっているかわかるかね?』
「い、いえ……」
『そうか……では、教えてあげよう。ここ最近、冒険者ギルドには、王侯貴族からクレームの通信や手紙が殺到している。何故、その様な判断をしたのか、とな……モルトバ君、君の所もそうではないのかね?』
「は、はい……」
そう。ここの所、毎日の様に、クレームの通信や手紙、脅迫状等が送られてきている。
正直、どうしたらいいものかと困っていた所だ。
『そして、その損害を補償しろと、ユートピア商会からは白金貨二千万枚の補償を冒険者ギルドに求められているという訳だ。勿論、王侯貴族からは、魔道具の販売停止、回収の撤回と謝罪を求められている』
「そ、それほどまで大事にっ……」
まさか、それほどまで大事になるとは思いもしなかった。
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