その頃、王都では①

 悠斗達が各領に向かって数日、フェロー王国王都支部の冒険者ギルドでは、ギルドマスターのモルトバが頭を抱えていた。


「……も、もう一度、言ってくれないか?」

「はい。先日、冒険者ギルド全体で護衛依頼が減少傾向にあった事に対するギルド本部の見解書が届きました」

「う、うむ。それについては、わかっている。問題はギルド本部の見解だ。わ、私の聞き間違いでなければ、冒険者ギルド側に問題があった様に聞こえたのだが……」

「はい。現在、冒険者ギルド本部は高ランクの冒険者に対し、各国に現れたボスクラスの力を持つモンスターの討伐を依頼しております。その結果、護衛任務にあたっていた高ランク冒険者への依頼が困難となり減少。また、各国で流行している疫病対策として、国外への渡航や領地間の移動を控える傾向にある様です。高ランク冒険者程、丁寧な対応を心掛けている様ですが、Bランク冒険者……それも、まだそんなに護衛依頼をこなしていない冒険者程、粗雑な者が多く、依頼者も敬遠していたのでしょう。あと、商人連合国アキンドの元評議員がユートピア商会の傘下に入った事も大きかったですね。護衛依頼の多くは商会からの依頼が多かったですから……」

「そ、そうか……ご、ご苦労。も、もういいぞ……」

「はい。それでは、失礼致します」


 ギルド職員はそういうと、冒険者ギルド本部の見解書をテーブルに置き、ギルドマスター室を出ていった。

 部屋を出ていったギルド職員の足音が聞こえなくなるのを確認すると、モルトバは盛大にため息を吐く。


「……ま、拙い。わ、私は一体どうしたらいいんだっ……というより、何故、今更になってこんな見解書が回ってくるっ!」


 震える手で見解書を握りしめていると、視界にユートピア商会との合意書が目に入る。


「どうしたらいいんだ。私は一体どうしたら……」


 もう金は受け取ってしまった。ユートピア商会の事だ。魔道具の回収も既に始めているだろう。

 Sランク冒険者である佐藤悠斗君を脱退させてしまい、その事に起因してユートピア商会傘下のAランク冒険者まで脱退。挙句の果てには、これだ。


 引出を開けると、そこにはフェロー王国内の商業ギルドに限り迷宮内での活動を許可するという内容が書かれた通達書が入っていた。


 悠斗君が冒険者ギルドを脱退し、その後、ユートピア商会傘下の冒険者が大量脱退。その後に回ってきた通達がこれである。

 どう考えても、裏でユートピア商会が動いているとしか思えない内容の通達だ。

 何もかもが出来過ぎている。


 しかし、この通達。フェロー王国内の事とは言え、冒険者ギルドの利益を著しく侵害する内容だ。冒険者ギルド本部もさぞかしお怒りの事だろう。

 本来であれば、強く抗議したい所であるが、今はそうもいかない。


 まずはユートピア商会との関係を……悠斗君との関係をなんとかしなければ……。

 しかし、今更、間違いでしたとは言えない。

 今更、護衛依頼の減少にユートピア商会の魔道具は関係ありませんでしたなどと言ってしまえば大変な事になる。

 何より、もうあのお金はその大半を使い切った挙句、冒険者達に配ってしまった。


 もう手元に存在しないのだ。

 しかし、その一方で、魔道具の回収は着々と進行している……筈だ。しかも、冒険者ギルドの責任で……。


 まだ冒険者ギルド本部にユートピア商会からの請求書は届いていない様だが、これも時間の問題だ。

 なんとかしなければ……。

 なんとかしなければ、身の破滅だ。


 白金貨二千万枚なんて馬鹿げた金額を支払う事はできない。

 そ、それに、もし賠償金として白金貨百万枚を受け取ったなんて話が漏れて見ろ……私はもう冒険者ギルドにいられなくなってしまう。


 どうしたらいい。どうしたらいいっ!

 私は一体、どうしたらいいんだっ……。


 しかし、これら全てを解決するウルトラCなど、そうそう浮かんでくる様なものでもない。


 あまりのストレスに禿げそうだ。

 とはいえ、行動しない事には何も始まらない。


「そ、聡明な悠斗君であれば、話を聞いてくれるかも知れないな……あの執事は厄介そうだから、執事を除いて、もう一度、悠斗君と話し合いを……」


 すると、ギルドマスター室の扉を叩く音が聞こえてきた。なんだか非常に嫌な予感がする。


「……入っていいぞ」


 私がそう言うと、慌てた様子のギルド職員が部屋の中に入ってくる。


「し、失礼します! ギ、ギルドマスター、冒険者ギルド本部より通信が入っております!」

「な、何っ!? ギルド本部からの通信だとっ!?」


 最悪だ。最悪のタイミングで、ギルド本部からの通信。嫌な予感しかしない。


「わ、わかった」


 私はそう言うと、ギルド職員から通信用の魔道具を受け取ると、固唾を飲みながら魔道具に耳を当てる。


「……フェロー王国王都支部のギルドマスター、モルトバです」

『ああ、モルトバ君。元気にやっているかね、突然の異動で大変だっただろう』


 こ、この声はグ、グランドマスターッ!?

 何故、グランドマスターがこの私に通信をっ……。


 グランドマスターからの突然の通信に、私の思考は一時フリーズした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る