ゲーベル迷宮⑤

しゅ……しゅいましせんれしたすいませんでした……」

も、もほも、もう……しゅらむにはスラムには関わりましぇん関わりません


 やはり言語は偉大な発明だ。

 一方的な肉体言語での話し合いであったとはいえ、根気よく話し合えばわかり合う事ができる。


「うんうん。わかって頂けて何よりです。もうスラムの人達に手出ししちゃ駄目ですよ? 次はこの程度じゃ済まなくなっちゃうかもしれませんからね?」

「「「ひ、ひゃい!」」」


 うーん。なんだかやり過ぎな気がしてならない。

 チラリと従業員達の表情を確認すると、満足気というかは、自分の力に驚いている様にも見える。


 自分の力に酔って、弱い者虐めとかに走らないか心配だ……まあ、今まで迫害される側だったから気持ちは分からなくもないけど……。


「さあ、皆さん。今後の憂いがなくなった所で、第二階層に向かいましょうか……と、その前に」


 俺は『召喚』スキルで、アイルランド神話の一つ『アルスター伝説』に登場する英雄フェルグス・マク・ロイヒの所有する神器カラドボルグを召喚し手に持つと、ボロボロの冒険者達と従業員達が目を向ける前で、地面に向かって思いっきり剣を振るった。


 すると、虹色の円が浮かび上がり、その後にズドーンッ!という轟音と共に、土煙が立ち上がる。

 神器カラドボルグは、振るうと虹の様な円を浮かべ、軍隊を滅ぼし、丘の頂をも切り落としたとされる伝説の武器。


 土煙が収まると、地面には底が見えない程の大穴が空いていた。


 それを見ていたボロボロの冒険者達と従業員達は茫然とした表情を浮かべている。


「皆さん、くれぐれも増長しない様にして下さいね? 上には上なんて幾らでもいるんですから……皆さんが増長した時は責任を持って俺が相手をする事になるので気をつけて下さい」


 俺がそう言うと、冒険者達と従業員達が激しく首を縦に振った。

 俺は満面の笑みを浮かべると、神器カラドボルグを『召喚』で戻し、第ニ階層に続く階段を指し示す。


「それじゃあ、改めて第二階層に向かいましょう。ああ、そこにいる冒険者達の皆さんはもう帰って頂いても構いませんよ? 今後は喧嘩を売る相手を間違えない様にして下さいね?」


 俺は従業員の皆と冒険者達にそういうと、第二階層に向かう事にした。


 第二階層に続く階段は意外と近くに存在する。

 堤防をまっすぐ進むと、第二階層に続く階段が見えてきた。


「それでは、ここから十人ずつ班を分けてレベル上げに向かいます」


 そういうと俺は十体の『影分身』を出現させる。

 そして、十人ずつ班分けをすると、班ごと順番に第二階層の階段を降りていった。


 第二階層へ続く階段を降りていくと、そこには見渡す限りの海岸が広がっていた。

 燦々と輝く太陽が眩しい。

 冒険者達も大凡、冒険者とは思えないような薄着で、海型モンスターと戦っている。

 確かに常夏の様に暑いフィールドだけど、あのような格好で大丈夫なのだろうか?


 モンスターと戦っている冒険者を尻目に『影探知』でモンスターのいる場所を探っていると、地中の至る所にモンスターが棲息している事が探知できた。


「それじゃあ、皆さん。ここからは各班、十人ずつ場所を変えてレベル上げを行います。各班は俺の『影分身』の指導の下、レベル上げに勤しんで下さい」

「「「はい!」」」


 そういうと、『影分身』達は従業員達を連れ、次の階層に向かっていく。


『ゲーベル迷宮』は五十階層からなる海産物の獲れる迷宮だと聞いていたけど、出現するモンスターのレベルが意外にも高い。

 地中の奥深くまで『影探知』して初めて分かった事だけど、各階層に数体、ボスレベルのモンスターが設置されている様だ。


「それじゃあ、これからモンスターを出現させます。円陣を組んで下さい!」

「「「はいっ!」」」


 従業員達はそういうと、円陣を組みモンスターの出現に備えて剣を構える。

 準備は万端の様だ。

 俺は『影探知』で捕捉したモンスターを『影収納』に沈め、従業員達の円陣の中に吐き出すと『蜃』が現れた。


『鑑定』して見ると『オオハマグリ』という名のモンスターらしい。

 簡単にいえば、デカいハマグリだ。殻の中身は黒く黄色く光る眼がちょっと怖い。

 この『蜃』はこの階層の地中深くに何体も棲息している。

 レベル感からいって、第一階層にいたクラーケンと同じボスクラスモンスターの一体だろう。


 モンスターが出現した瞬間、従業員達は『蜃』に向かって剣を突き立てていく。

 しかし、流石は『蜃』。大きく厚い殻に潜り、従業員達の剣を弾くと、突如、殻を開き泡を吹いて攻撃を仕掛けてきた。


 従業員達も中々、倒すのに難航している様だ。

 すると、従業員の内の一人、リオ君が、殻を開き泡を吹く『蜃』に飛び掛かって行く。

 そして、『蜃』の中身に剣を突き立てると、バチバチとスパーク音を立て『蜃』の殻が閉じていく。


 流石である。

『影纏』の利点である物理・魔法攻撃無効化という利点をフルに活かして、泡を吹き攻撃してくる『蜃』に突っ込むなんて中々できる事じゃない。


 将来有望な従業員に……いや、商業ギルド討伐部門でも活躍するギルド員になってくれそうだ。

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