トースハウン領①

「それでは悠斗様、行って参ります」

「ボクも行ってくるね♪」

「うん。行ってらっしゃい。各領に新しくユートピア商会の支部と、新しい従業員が住む用の宿舎を用意してあるから、新しい従業員を囲う時にはそこを使ってね。ああ、勿論、お金は出し惜しみしないから好きに使ってくれて構わないよ」

「はい。承知致しました。大丈夫かとは思いますが、悠斗様もお気を付けて……」

「うん。任せて!」


 そういうと俺は神器『魔法の絨毯』を召喚し、飛び乗った。

 これから俺達は手分けをしてユートピア商会の新しい従業員……もとい商業ギルドで新しく設立される討伐・護衛部門で働いてくれる人材を求め、各領のスラム街に向かう予定だ。


 ロキさんはボルウォイ領とクノイ領そしてスヴロイ領を、土地神がスヴイノイ領、フクロイ領そしてヴォーアル領を、最後に俺が残りのサンドイ領とネルソイ領、トースハウン領を廻る予定である。


 俺がまず最初に向かう予定のトースハウン領は、この国の前々国王トースハウンの生まれた地。

 正直、トースハウン国王の事はほぼ何も知らないが、地図を片手に取ると、早速『魔法の絨毯』でトースハウン領に向かう事にした。



『魔法の絨毯』でトースハウン領に向かうと、お決まり通り領外にスラム街が形成されている。

 俺がスラム街に降り立つと、何やらスラム街の中心で怒声が聞こえてきた。


 一体スラム街で何が起こっているのだろうか?

 気になった俺が駆け足でその場に向かうと、五人の荒くれ者が泣きじゃくるスラム街の子供達に暴行を加え様としている姿が目に飛び込んでくる。


「や、やめっ……」

「まあ、運が悪かったって事で、俺達のサンドバッグになってくれや」

「あっ、ああっ……」


 俺は咄嗟に、子供達に対して『影纏』を発動させた。

『影纏』は物理・魔法攻撃を完全に防ぐ影魔法だ。これさえ纏えば、荒くれ者程度では暴行を振う事はできない。


「子供相手に何をしているんですかっ!」


 子供達に『影纏』を施した俺がそう大声を上げると、荒くれ者五人がこちらに向かって顔を向ける。


「ああっ、何だこりゃ。テメーか? ガキ共への教育に茶々を入れたのはよぉ」

「クソガキがっ……楽しい気分が台無しだぜっ!」

「全くだぜ。折角、ガキ共を嬲って楽しんでいたってーのによ」

「おいおい、何を言っていやがる。俺達はこのスラムのガキ共に、生まれた時から存在する身分差って奴を教えてやろうとしたんだ。教育だよコレは」

「はっ、確かに間違いねぇ! しかし、あいつ何をしやがったんだ?」


 これからユートピア商会の従業員として雇おうという時に、その従業員候補に暴行を加えようとするとは……。


 俺は荒くれ者達に怒りの視線を向ける。


「おいおい、Bランク冒険者である俺達に向かってその態度は何だ?」

「お前もこのガキ共の様になりたいのか? ああっ?」

「こっちは、急に王都に呼び出されてストレスが溜まっているんだよ」

「その邪魔をするとはどういう了見だ? ああっ?」

「Bランク冒険者と聞いて声も出ないか小僧?」


 荒くれ共は俺に向かってそう凄むと、スラム街の子供達を放置し俺の方に向かってきた。

 Bランク冒険者か……Bランク冒険者といえば、マデイラ王国で会ったカマ・セイヌーさん位の実力だろうか?


 俺がそんな事を思っていると、Bランク冒険者達が俺に向かって殴りかかってくる。


「死ね、クソガキッ!」

「ここはスラム街、ガキ一人死んだとしても咎められる事はねぇ!」

「俺達に向かって声を上げた事を後悔するんだなぁ!」

「安心しな、お前の事は永劫サンドバッグとして死ぬまで手元に置いてやるからよ!」

「そりゃあいい。それじゃあ、死なない程度にボコッてやるよっ!」


 ここは前々国王トースハウンの生まれた地と聞いていたのだけれども、世紀末感がもの凄い。

 まさかBランク冒険者が元Sランク冒険者である俺に挑んでくるなんて、王都やエストゥロイ領ではあり得ない事だ。

 しかし、未来のユートピア商会の従業員を傷付けられたからには、相応のダメージを負って貰わない事にはこちらの気が収まらない。


「『影縛』」


 俺がそう呟くと、五人の荒くれ共……もといBランク冒険者共を影で縛り動けなくしていく。


「て、てめぇ! な、何をしやがった……」

「う、動けねぇ」

「離せっ! この俺を誰だと思っているんだっ!」

「そうだ。俺達は王都のギルドマスター、モルトバに呼ばれた冒険者だぞっ!」


 う~ん。もういいだろうか?

 正直、言って聞くに堪えない。

 スラムの子供達の手当てもしたいし、正直、こんな雑魚共の相手をするのも疲れる。


「それじゃあ、皆さん。さようなら。二日後位に出して上げますので、それまで強く生きて下さいね」


 俺がそういうと、荒くれ者達に向かって影を這わせる。そして酸素ありの『影収納』に沈めていくと、荒くれ者達は怯えた表情を浮かべた。


「や、やめろっ! 俺達にこんな事をしてタダで済むと……」

「ふざけるなぁぁぁぁ……」

「や、やめてくれぇぇぇぇ……」

「俺様達に……」

「や、やめっ……」


 しかし『影収納』は発動したら止まらない。止める気もない。

 子供に向かって理不尽な暴力を振るう様な荒くれ者は『影収納』にしまってしまうに限る。


 荒くれ者達を『影収納』にしまうと、子供達の下に駆け寄った。

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