評議会②

 あまりに予想だにしないカンペの内容に、俺が屋敷神に視線を向けると、屋敷神は笑顔で手を振ってきた。

 いやいやいやいや、手を振っている場合じゃないでしょ!?

 何、勝手な事を書いているのホントッ!

 後でシェトランドに何かを言われるの俺なんだけれどもっ!?


 俺はそんな事を思いながらも、仕方がなく議事の進行を優先させる。


「え、えー、現在、王都とエストゥロイ領では、高ランク冒険者の脱退が相次ぎ、ギルド業務に支障が出ているそうです。その為、フェロー王国を統括する私? と致しましては、今後のフェロー王国と商人連合国アキンドとの関係を考慮し、フェロー王国内での活動と迷宮への入出場を条件として、フェロー王国の商業ギルド内における討伐部門と護衛部門の新設をする事を提案致します」


 俺がそういうと、評議員の一人、クレディスイスが手を上げる。


『フェロー王国の国王からの頼みとはいえ、商業ギルドが冒険者ギルドと同等の業務を行うとなれば、冒険者ギルドから抗議の声が上がるのではありませんか?』


 うん。俺もそう思う。

 しかし、そんな事を口に出して言う訳にもいかない。

 俺は屋敷神が用意してくれた想定問答に視線を移す。


「はい。少なくともフェロー王国内の冒険者ギルドから少なからず抗議の声は上がるでしょう……通常であれば……」


『……通常であれば?』


「はい。通常であれば冒険者ギルドから抗議の声が上がる事でしょう。しかし、今回のケースでは、冒険者の大量脱退によりギルド業務に支障をきたした冒険者ギルド側に落ち度があります。それに我々は打診があった身、冒険者ギルドの説得は全てフェロー王国の国王、シェトランド陛下が行って下さるようです。何よりこの措置は冒険者ギルドが機能不全に陥ったフェロー王国に限った事。ギルド業務をまともに果たせない冒険者ギルドも今回ばかりは国の決定を認めるしかないでしょう」


 随分と喧嘩越しな想定問答だ。

 想定問答を読んでいる当事者としても唖然としてしまう。


『その言い方では現状、フェロー王国内の冒険者ギルドは、冒険者ギルドとしての役割を果たしていないかの様に聞こえますが……』


「はい。その通りです。現状、フェロー王国の王都、エストゥロイ領の冒険者ギルドでは、高ランク冒険者の脱退が相次ぎ、国に任された役割を果たしているとは到底言えません」

『ですがっ……』


 俺がそう想定問答を読み上げると、マスカットさんが声を上げる。


『まあ、いいじゃないか。フェロー王国内に限った事とはいえ、迷宮内での活動許可を得られた事は商業ギルドにとって喜ばしい事。それに、王都では希少なゴーレムが多数出現していると聞いている。冒険者ギルドを仲介せず、商業ギルドがそこに喰いこむ事ができるのであれば、それは商業ギルドの利益になる』

『し、しかし……』


 クレディスイスがそう言い淀むと、ハメッドさんが声を上げた。


『いいではありませんか。冒険者ギルドとのいざこざは全て国が取り持ってくれるのです。それにこれはあくまでテストケース。商業ギルドに冒険者ギルドの業務を取り入れた結果、どの様な事が起こるのか、私は興味がありますね』

『なるほど……分りました。私からの質問は以上です』


 クレディスイスはそういうと質問を取り止めた。

 嬉しい事にマスカットさんとハメッドさんもこの議題に賛成してくれる様だ。


「他に、質問がある人はいるかな? いないようだね。それじゃあ、裁決を取ろうか、賛成の人は挙手を……」


 代表評議員のロキさんがそういうと、八名中六名が挙手をした。

 俺たち以外では、マスカットさんとハメッドさんが挙手をしてくれた様だ。

 結構簡単に可決したみたいでよかった。


「ふむふむ。賛成多数でこの議題は可決っと……他に何か議題のある人はいるかな? いないみたいだね。それじゃあ、これで第一回目の評議会は終了。それでは解散といこうか……皆、今日は集まってくれてありがとう。それではまた一ヶ月後、よろしくね♪」


 ロキさんが閉会を宣言すると、ディスプレイの表示がブラックアウトする。

 俺は通信用の魔道具を外すと、息を吐いた。


「拍子抜けするほど簡単に議題が通りましたね。まあ過半数を抑えているので当たり前といえばそれまでですが……」

「本当にね……緊張で汗が凄い事になっているよ」


 しかし、これでフェロー王国内の商業ギルドに『討伐部門』と『護衛部門』を設置する事ができる。


 一ヶ月間を目処にフェロー王国内の商業ギルドを作り替えるとしよう。心強い事にユートピア商会には人財が揃っている。


「それでは悠斗様。明日より王都、エストゥロイ領以外の領地を巡り商業ギルドを変えていきましょう。各領に迷宮もあるようですし、冒険者ギルド側が脱退届を受理していない今の内に、各領にユートピア商会の支店を作り、その領にいるであろうスラム街の人々を屈強な商会ギルド所属の冒険者に育て上げるのです」

「う、うん。そうだね」

「今回はボクも手伝ってあげるよ♪ 悠斗様、フェロー王国全土を迷宮の支配下に置いたんでしょ? それならボク達も安心してここを離れる事ができるからね♪」


 ロキさん自ら手伝ってくれるなんて珍しい。


「本当に!? ありがとう!」

「いやいや、ボクの方こそ♪ それにしてもこのグングニルどこで手に入れたの?」


 ロキさんはそう言うとグングニルを手に持ち俺に尋ねてくる。

 神槍グングニル。俺自身、どこで入手したのかわからない不思議な槍だ。


「それがよくわからないんだよね。いつの間にか『影収納』の中に入っていてさ……」

「ふーん。まあいいや♪ これでオーディンがこちらの世界にいる事はわかったしね」


「オーディン?」

「うんうん。悠斗様には関係のない事だよ♪」


「そ、そう?」

「そうそう。それじゃあ、フェロー王国中の商業ギルドを冒険者より屈強なユートピア商会の従業員達で埋め尽くす為、行動に移す事にしようか……」


 ロキさんはそう呟くとサングラスを取り笑顔を浮かべた。

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