調査②
「お、おい。どうする」
「どうするも何も……」
迷宮に異変が起こっている事は間違いない。
しかし、中隊長にそう言われてしまえば、従わざるを得ない。
「中隊長の言う通り、迷宮内の調査をする他あるまい。大隊長には、それとなく伝えよう。迷宮に異変が起きている事は間違いないんだ」
「ああ、そうだな。それに中隊長は当てにできない。あいつは自分の保身の為なら部下をも切り捨てる。そんな奴だからな……」
私達は中隊長がテントに入った事を確認すると、行動に移す事にした。
「よし、中隊長がテントの中に入った。今の内に、大隊長へ報告しに行ってくる」
「ああ、俺は迷宮内探索の準備をしてくる。それにしても助かったぜ。もし調査するのが微生物や細菌の棲む迷宮『ヘルシンキ迷宮』だったら命はなかったかもしれないしな」
「馬鹿をいえ『イェーッタ迷宮』はこの国の大動脈。これならば、まだ『ヘルシンキ迷宮』の方がマシだった。万が一、『イェーッタ迷宮』から迷宮核が取り除かれただの洞窟となってしまえば、この国は大変な事になるぞ」
「た、確かに……じゃあ、尚更、大隊長に報告しとかないとな」
「ああ、中隊長と大隊長のテントが離れている事が唯一の幸いだった。それじゃあ、行ってくる」
「おう。中隊長にバレない様にな!」
私達は視線を交わし互いに頷くと、早速行動を始めた。
大隊長のテントは中隊長とは離れた所にある。
中隊長に動きがバレぬ様、中隊長のいるテントを大きく迂回すると、大隊長のテントが見えてきた。
中隊長のテントとは比べ物にならない程、大きいテントだ。
「大隊長『イェーッタ迷宮』の警備を担当しているマストです。入室許可を頂けますでしょうか」
私がそう言うと、テントの中から大隊長が声をかけてくる。
「うむ。入室を許可する」
「はい。ありがとうございます」
テントの中に入ると、中では大隊長は書類仕事に追われていた。
私がテントの中に入った事を確認すると、大隊長は手を止めこちらに視線を向けてくる。
「それで、何か用かね?」
「はい。大隊長に至急お伝えしたい事があり、伺った次第です」
「ほう。それで、至急の用とは、何かな?」
「『イェーッタ迷宮』に異変あり。掲示板を確認した所、『現在の階層』の表記がなくなっておりました」
私がそう言うと、大隊長はピクリと眉をひそめる。
「それは一大事だ。すぐに迷宮内の調査をしなさい」
「はい。畏まりました。それでは、早速迷宮内の調査を行います」
「うむ。よろしく頼むぞ」
大隊長より正式に迷宮内調査の命令を受けた私は、テントを出ると、早速『イェーッタ迷宮』に向かう事にした。
取り敢えず、大隊長に直接、迷宮の異変について知らせる事には成功した。
先に手を打っていれば、中隊長が何か悪い事を考えようとも対処する事ができる。
そして『イェーッタ迷宮』の入り口で待つ事十数分。
『魔法の鞄』に武器と物資を詰めた兵士が近付いてきた。
「おう。待たせたな」
「いや、私も丁度今来た所だ。それでは、早速、調査に向かおう」
そう言うと私達は迷宮内に足を踏み入れた。
『イェーッタ迷宮』は、薬草が豊富に採れる森と大地の迷宮。しかし、今はだいぶ様相を変えていた。
「これは酷いな……」
「ああ、全くだ」
イェーッタ迷宮第一階層。緑豊かに澄んだ風が心地良い森林フィールドが、今や、荒れ地へと変わり果てていた。迷宮内もまるで洞窟の中の様に暗く、見る影もない。
「すまないが、光源が欲しい。懐中電灯を出してくれ」
「ああ、わかった」
兵士は『魔法の鞄』から、懐中電灯を取り出すと周囲を明るく照らしていく。
この懐中電灯はユートピア商会で売られている画期的な光源だ。
魔力を込めるだけで、周囲を明るく照らす事ができる。
高価な品なので、こういった時以外に中々使う事ができない。
「しかし、第一階層がこれでは……やはり迷宮核に何かがあったとしか思えない。先に進むぞ」
「おう」
幸いな事に第一階層から第十階層まで進む間、モンスターと遭遇する事はなかった。
正直言ってありがたい。
イェーッタ迷宮に出現するモンスターは虫系統が多い。あまり遭遇したくはない。
「それにしても不気味だな……モンスター一匹出てこないとは……」
「ああ、全くだ。しかし、警戒は怠るなよ。虫系モンスターは厄介だからな」
「わかってるって……それにしても、この辺り、なんか変じゃないか?」
「うん? 何を言って……いや、確かに言われてみればそうだな」
第十一階層からは草原フィールドが広がっている筈、にも関わらず周囲の土が泥状になっている。
それに所々、土がガラス化しているのも気になる。
「な、なんだこれ……第十一階層にあんな建物あったか?」
兵士が前方に懐中電灯の光を向ける。
すると、そこには巨大な建造物が建てられていた。
周囲を見渡すと大穴まで開いている。
そして穴の中心は、まるで地の底から地盤が迫り上がってきたかの様に、不自然に隆起していた。
「懐中電灯を貸してくれ」
「ああっ」
私は懐中電灯を受け取ると、大穴を覗き込む。
しかし、深すぎて底が見えない。
まるで、迷宮の奥底にまで繋がっているかのようだ。
「深いな……底が見えん」
「ああ、しかし、この場所で何かがあった事は確かな様だ。とはいえ、断定はできん」
「確かに、他の階層も見てみない事には何も言えないな……」
そこからの調査は難航を極めた。
そもそも、階層が深いのだ。
調査に時間を要するのは当然の事。
最終階層に辿り着く頃には、あの階層で何が起こったのではないかという疑惑は確信へと変わっていった。
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