トゥルクの災難③

「な、何ですって!? バ、バルト、あの裏切り者がぁぁぁぁ!!」


 誰のせいでこんな事になっていると思っているのよっ! 全てあんたが原因でしょうがぁぁぁぁ!


 私は心の中で絶叫を上げると、部下にバルトを捕らえる様命じる。


「すぐに噂をばら撒いている裏切り者共を捕らえなさい。私に楯突いた事、必ず後悔させてやるわ……」

『はい。畏まりました。それともう一点、トゥルク様、大変な事が起こっています』

「何よ唐突に、大変な事?」

『はい。大変な事です』


 勿体ぶらないでいいから早く用件を伝えて欲しい。


「いいから早く話しなさい。前から思っていたけど、あなたのそういう言い回し私は嫌いよ、直した方がいいわ」

『そ、そうですか。それでは申し上げます。マスカット様との契約はトゥルク様のギルドカードに収められている『トゥルクのカジノ』名義の資金全てを引き出し、足りない分をカジノの資産の一部を切り売りする事で結びましたが……』

「はっ?」


 この男は一体、何を言っているのだろうか?

 今、私のカジノの資金全てを引き出し、足りない分については資産を切り売りしたとか言わなかった?

 私に相談もなしに?


「あ、あなた、何を勝手に私のカジノの資産を切り売りしているの!? そっちの方がよっぽど大変な事じゃない!」

『カジノの資産の一部を売却した事については、事後承諾となってしまい申し訳ございません。とはいえ、マスカット様と契約を成立させる為には、お金が必要でして仕方がなかったのです。話を元に戻しますが、商業ギルドを通じ、連絡の取れなくなっていた『トゥルクのカジノ』の支店長達と連絡を取る事に成功致しました』

「なんですってっ!」


 商業ギルドを通じて連絡を……その手があったか。

 というより、あなたにも幹部連中と連絡を取る方策を考える様、命じていたわよね?

 なんで今まで、その手を使わなかったのかしら……とはいえ、幹部連中と連絡が取れたのは僥倖だ。


「それで? 彼等には、ちゃんとアキンドに来る様、話をつけたのでしょうね?」

『いいえ、残念ながら彼等がアキンドに来る事はもうないでしょう』

「はあっ? どういう事よ、それ。この私が緊急招集をかけたのよ? それなのにそれを拒否するってどういう事よ!?」

『いえ、どうやら彼等、トゥルク様のカジノに遊びに来たお客様に大敗し、白金貨という白金貨を根こそぎ奪われてしまったそうで、今、夜逃げの準備をしているそうです。トゥルク様にはくれぐれも(伝えぬ様)よろしく頼むと、そう言われました』


 その言葉に私は思わずフリーズする。


「えっ? 今なんて言ったの??」


 私のカジノに遊びに来たお客様に大敗し、白金貨を根こそぎ奪われた!?

 えっ!? 全てのカジノで? 全てのカジノで、白金貨を根こそぎ奪われたの??


 だとしたら、私のカジノの運営資金は?

 運営資金はどうなっちゃってるのよっ!?


 カジノでは今、私派閥の評議員達を接待中なのよっ!

 まさか、彼等の接待を放棄して逃げ出そうとしているの?


 っていうか、夜逃げっ!?

 あいつ等、とんでもない打撃を私のカジノに与えておいて、夜逃げしようとしているの!?

 ふざけるんじゃないわよっ! つーか、報告を聞いたならあなたも止めなさいよ!

 そ、それに……一体、どれほどの白金貨を失ったというの!?


 なんだかそれを聞くのが怖い。


 突然降ってきた凶報に、私はゴクリと息を飲む。

 しかし、どれほどの白金貨を失ったのかを聞かずにはいられない。


「さ、参考までにどれ程の損害があったのかしら?」

『はい。推定白金貨五百万枚といった所でしょうか?』

「す、推定白金貨五百万枚!?」


 余りにも負債金額が大きすぎて眩暈がしてくる。


『店の資金は、アキンドの評議員であるトゥルク様の信用を元に、商業ギルドから借りています。しかし、ここまで損失が大きいと流石に……返済は絶望的でしょうね』

「ぜ、絶望的でしょうねじゃないわよっ! あなた、私の側近でしょう! 何、他人事の様に言っているの!?」

『えっ、ああ、そうですね』


「え、ああ、そうですね、じゃないでしょう! あなたって人は事の重要さを本当に分かって……ちょっと待って、ちょっと待って! げ、現状、推定白金貨五百万枚の負債を背負っているのよね?」

『はい。その通りです』


「そ、それじゃあ、マスカットに支払う予定の残り半分の代金はどうするのよっ!」


『どうしましょう? 今思えば、マスカット様はこの事を知っていたのかも知れません。近日振り込まれる予定のフィン様に頂く予定の土地の代金をマスカット様に支払わなければ土地は手に入らず、前金で渡した代金は払い損ですし、それを経営の立ち直しに使わなければ、トゥルク様の商会は債務超過に陥り大変な事に……あれ? もしかして、結構詰んでいませんか、これ?』


「もしかしなくても、詰んでいるじゃないっ! どうするのよ、どうすればいいのよっ! っていうか、この期に及んで何であなたは他人事なの! マスカットと取引をした張本人でしょうがっ! それにフィン様から頂く予定の代金を経営に回す? できる訳ないでしょ! それこそ商人としても評議員としても終わりよっ!」


 私はそう声を荒げると、通信用の魔道具を片手に天井を仰いだ。

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