悠斗合流④

「それでオーランド王国の女王フィンはどうするの?」


 俺がそう言うと、鎮守神が笑顔を向けてくる。


「はい。オーランド王国の女王フィンについては、今の所、放置で問題ないでしょう。人形達からの報告によると、教会が万能薬の無償配布を行っている影響によりオーランド王国の財政は逼迫しています。それに悪評をたて選挙でトゥルクが評議員から失脚すれば、それだけでオーランド王国は計り知れない損失を被る事になるでしょう」

「なるほど……」


 なんでトゥルクさんが評議員から失脚する事で、オーランド王国にダメージが行くのかはよく分からないが、鎮守神がそう言うのだから、そうなのだろう。

 大体の方針が定まった所で、鎮守神がパチンと手を叩く。


「それでは、方針が定まった所で、悠斗様は一度、こちらの部屋でゆっくりとお寛ぎ下さい。雑務は私達が引き受けます」

「う、うん。ありがとう。あっ、そういえば、ここに来る前に偽足場を交換して回る業者みたいな人を捕えたんだ、この人達の事もお願いしてもいいかな? これから冒険者ギルドか、商業ギルドに行くんでしょ?」


 俺は影収納からここに来るまでに出会った馬車に乗った男達を鎮守神の目の前に出していく。

 強面の男達は……なんというか、影収納に閉じ込めたままだった為か、かなり衰弱していた。

 一応、影縛で拘束しているが必要なさそうだ。

 人形達も側に寄ってきたし、拘束を解いても問題ないだろう。


 俺が強面の男達の拘束を解いていくと、強面の男達を見た鎮守神は喜びの声を上げる。


「悠斗様、ありがとうございます。丁度、人手が欲しかった所でして……この人間共は然るべき所に送り届けさせて頂きます」

「人手が欲しかった?」


 一体何の事を言っているのだろうか?

 新たに部下?になった人達がこんなにいるのに。


 俺は縛られ床に横たわるバルト商会の従業員達に視線を向ける。

 よく考えて見たら、この人達とは会って間もない。

 元々、敵側の人間だった訳だし、信用できないのも当然か。

 そうだとしたら、今の俺の行動は、単に鎮守神の仕事を増やしてしまっただけとなる。


 あれっ?

 でも、それだと鎮守神の言う『人手が欲しかった』の意味がよく分からない。


「人手が不足してるなら俺も手伝うけど?」


 まあその場合、今、出した強面の男達を改めて影収納に収め、鎮守神の手伝いをするだけだ。

 より衰弱してしまうかもしれないけど、それはそれで仕方がない。


 俺が再度、強面の男達を影収納に収めようとすると、鎮守神が話しかけてくる。


「悠斗様の御手を煩わせる程の事ではございません。あちらの部屋でどうぞゆっくりお寛ぎ下さい」

「そう?」

「はい。雑務は私共にお任せ下さい」


 鎮守神がそう言うのであれば大丈夫なのだろう。

 折角なので、その言葉に甘えさせて貰うとする。


「それじゃあ、よろしくね?」

「はい。それではこちらの部屋でお寛ぎ下さい。元はバルトの使用していた部屋ではありますが、この建物の中では上等に分類される部屋ですので……」

「うん。ありがとう。折角だから少しだけ休ませて貰うね」


 俺は鎮守神に案内されるまま、この商会の元商会主バルトが使っていた部屋に入っていく。


「それでは悠斗様、失礼致します」


 鎮守神はそう言うと、部屋の扉を閉めた。



 ◆


 悠斗様をバルトが使用していた部屋にお通しした私は床に縛られ横たわるバルト商会の従業員達と、強面の男達に視線を向ける。


 ユートピア商会が大きくなるにつれ、それを支える人形の数は必要となる。

 自由に動かす事のできる駒は、いくら居ても邪魔にはならない。

 それにこの国に連れてきた人形は、ここに居る二十体だけ、丁度人形の数が足りていなかった所だ。

 それに、これからの事を考えると自由に動かす事のできる人間も数体欲しかった。


 悠斗様はやはり素晴らしい。

 おそらく、私がこの国に連れてきている人形の数を察して、この人間共を預けてくれたのだろう。


「さて……」


 私はそう呟くと、床に縛られ横たわる人間共に視線を向ける。


「悠斗様の捕らえた人間共については当面人形にせず、徹底的な教育を施した上で使うとして、バルト商会の従業員共は私の忠実な部下として人形化しますか……バルトは、まだ聞き出す情報がありそうなので今はまだ人間のままにしておきましょう」


 人形化してしまえば、記憶迄消えてしまう。

 折角、敵側の人間を捕らえたのだ。人形化するその時まで徹底的に情報を抜き取り、使い潰させて貰おう。


 そんな事を考えていると、床に縛られ横たわる人間共が怯え始めた。


「おや、一体どうされたのですか? そんなに怯えて……ああ、もしかして知らず知らずの内に、声に出てしまっていましたか、これは失礼致しました」


 自分でも気付かぬ内に思考が声となり洩れてしまうとは……まあいいでしょう。


 どちらにしろ、この人間共の辿る結末は変わらない。

 悠斗様と敵対し、私の手元にきた時点で人形化から免れる事はできないのだ。


「それでは、あなた方には早速、忠実なる人形となって頂きましょう」


 怯える人間共に笑顔を向けると、バルトと悠斗様の捕らえた以外の人間共を人形と化させた。

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