悠斗合流③

 まあトゥルクさんの事は一旦置いておくとして、問題はオーランド王国の女王フィンだ。


 商人連合国アキンドの近くにある緑豊かな国オーランド王国。

 屋敷神や土地神の調べによれば、オーランド王国では迷宮で採れる薬草やポーション、解毒剤を輸出する事で国家予算を賄っているらしい。しかし近年、というより最近、教会が万能薬の無償配布を決めた事により、薬草やポーション、解毒剤の価格は下落。その結果、財政が困った事になっているらしい。


 屋敷神曰く、教会に卸している万能薬の供給元であるユートピア商会を潰す為、様々な策を打って出ているとか……。


 まさかこんな所で、オーランド王国の名を聞く事になるとは思いもしなかった。

 しかし、これはある意味チャンスだ。


「もしかして、トゥルクさんはオーランド王国の女王、フィンと繋がりがあるの?」

「そ、それは……」


 俺がそう問うと、バルドは口を噤む。

 すると、すかさず鎮守神がバルトを嗜めた。


「バルト、悠斗様の質問に答えなさい。相手は高々、一国の女王……何を恐れる必要があるというのです? なんでしたら、その国、今すぐ滅ぼして差し上げても問題ないのですよ?」

「……っ! は、はいっ! 申し訳ございません。今すぐに答えますっ!」


 バルトも鎮守神には頭が上がらない様だ。

 恐怖に震えながらも必死そうな表情を浮かべている。


「こ、ここだけの話にして下さい……」

「それを決めるのは、あなたではありません。我々の主であらせられる悠斗様です。あなたはただ聞かれた事に対して嘘偽りなく答えていればいいのです」

「ひっ! は、はいっ! 申し訳ございません!!」


 バルトが決死の覚悟で喋ろうとするも、すぐに横から茶々が入る。


「うん。わかったから、鎮守神は少しだけ黙っていようか……話が全然進まないからね」

「それは大変失礼致しました。それではバルト、話を続けなさい」

「は、はいっ!」


 鎮守神が改めて話をする様促すと、バルトはガックリと俯きながら話し始めた。


「ト、トゥルク様は元々、オーランド王国を拠点とする商人でした。今でこそ商人連合国アキンドに本拠を構え、評議員の一人として商いをしておりますが、それもオーランド王国の女王フィン様のお力添えがあってこそだと噂されております」

「なるほど……」


 別に隠すような情報じゃなかった様な気もするけど、トゥルクさんとオーランド王国の女王フィンに繋がりがある事は分かった。


「また近々、評議員選挙が開催されるらしく。トゥルク様は今回の評議員選挙もフィン様からのお力添えを頂く事でしょう」

「ほう。選挙ですか……それは面白いですね」


 鎮守神はそう言うと、笑みを浮かべる。


「悠斗様、私に考えがございます」

「考え?」

「はい。その通りです。トゥルクなる愚か者は、フィンなる愚か者と互いを利用し合う関係にある様です」


 うん。言い方は最高に悪いけど、まあその通りなのだろう。


「そこでどうでしょう? この愚か者共にはユートピア商会が被った損害の全てを被って頂くのは……」

「損害の全てを? 一体どうやってやるの?」

「はい。あの愚か者共は悠斗様の商会を潰す為に、人道から外れた行いを致しました。これは許される様な事ではありません」


 鎮守神が人道を説くんだ……。

 まあそんな事はどうでもいいか。


「うん、確かにそうだね」


 傘下の商会にユートピア商会を倒産に追い込んだ者に白金貨十万枚を渡すという大盤振る舞いをしたせいで、それを間に受けたバルトがユートピア商会の販売した足場材を持つ商会を回り、脆い偽足場と交換するという暴挙に及んだ。

 それは到底許せる様な事ではない。

 余りに脆すぎた為、人災は起きなかったが、もし万が一、もう少しだけ強度があって足場材として使われてしまっていたらと思うと、恐ろしい。


「そこで、です。評議員選挙が行われるこのタイミングでトゥルクが傘下の商会にユートピア商会を倒産に追い込む為、人災が起こる事を承知の上で、ユートピア商会で販売している足場材を脆い足場材に入れ替えていた事を公表します」

「な、なるほど……」


 評議員であるトゥルクさんにとって、評議員選挙前にこの様な悪評を流される事はダメージとなりかねない。


「しかし、それだけでは悠斗様も納得しないでしょう」

「えっ? ま、まあ確かに、選挙前にネガティヴキャンペーンが行われる事なんてよくある事だと思うし……」


 悪評を流すだけで今回の件を水に流すというのは、何か違う様な気がする。


「さらに、です。トゥルクはエストゥロイ領の他、様々な国にカジノを展開しております。選挙に金はつきもの……我々がトゥルクの運営するカジノに遊びに行く事で、トゥルクの持つ資産の全てを奪い去って参ります」

「えっ? 我々?」

「はい。私やロキ、カマエルやカミーユなど、LUK値が高い神々を送り込む事で、トゥルクの資産全てを根絶やしに致します。選挙のこのタイミングでそれを行えば、トゥルク側に想像を絶するダメージを与える事ができる事でしょう」

「そ、そうだね……」


 俺が思っている以上のダメージがトゥルクさんに入りそうだ。

 そんな事を思いながら目を閉じると、俺は心の中で合掌した。

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