迷宮再構築③

「ゆ、悠斗様ぁぁぁぁ! 屋敷神になんか言ってやってよ~!」

「私達は……私達は心を入れ替えたのに……心を入れ替えたのに……」


 そう言いながら、ロキさんとカマエルさんはグビグビとエールを浴びる様に呑んでいる。


 なんだかよく分からないけど、階層を三分の一削られた事が相当応えている様だ。

 どう言葉をかけていいか分からず、立ち尽くしていると、今度はアルコール度数の高い酒を取り出し呷り始めた。


 思いの丈を酒にぶつけている様だし、意外に余裕があるんじゃないだろうか?

 取り上げられた階層も三分の一だけだし……。

 まあなんで三分の一だけ取り上げたのかはよく分からないけど?


「ま、まあまあ、ロキさんもカマエルさんも、そんなにお酒を呑んだら身体に毒だよ。屋敷神には俺の方から言っておくから、機嫌を直して……」


 俺がそう言うと、酒を片手に持ったままのロキさんとカマエルさんがジロリと視線を向けてくる。


「そんな事を言って、悠斗様も屋敷神と同じ事を言うに決まってる……」

「本当だよー、ううっ……あの階層を創り上げるのにどれだけの魔力が必要になると思っているのさ」


 屋敷神に何かを言って欲しいのか、言って欲しくないのかどっちなのだろうか?

 酔っ払いの相手がこんなに面倒臭いとは思いもしなかった。


「そうだ、そうだ! 私達は迷宮変化チェンジと呟くだけで、簡単に階層を変える事のできる屋敷神や土地神とは違うんだぞ! それなのに、それなのにっ……」

「一週間後にまた再拡張してくれるとはいえ、こんなの酷すぎるよー!」


 あっ、なんだ。階層の三分の一を完全に没収された訳じゃないんだ?


「ま、まあまあ、その程度で済んでよかったじゃん。何なら再拡張される時、手伝うからさ。二人共落ち着いて……」


「えっ!? 本当にっ? 本当に悠斗様、手伝ってくれるの!? あとで階層の再拡張を強制的に手伝わされたとか言わない? 屋敷神に悠斗様のお手を煩わせたとか言われて責められない?」

「ほ、本当か!? 本当にいいのか!? あとになってから『やっぱり手伝わない』とか言ったら泣くからな? 酒を飲みながら悠斗様の目の前で泣くからなっ!?」

「わ、わかったよ。わかったって……」


 俺がそう言うと、ロキさんとカマエルさんは顔を見合わせ笑顔を浮かべる。

 そしてそのまま、テーブルに顔をつけると、酒瓶を持ちながら「スースー」寝息を立てながら寝てしまった。


「えっ? 嘘でしょ?? なんで寝るのっ!? まさかコレ、俺が片付けるの!?」


 幸せそうな表情を浮かべながら、寝息を立てているロキさんとカマエルさんに釈然としない気持ちを抱えながら、テーブルに置いてある酒とつまみを片付けていると、屋敷神がヴォーアル迷宮から戻ってきた。


「おや? 全く困った方々ですね」

「お帰りなさい。屋敷神」


 俺がそう言うと、屋敷神はため息を吐き、眉間に皺を寄せながら片付けを手伝ってくれた。


「はい。只今、戻りました。それにしても……階層の三分の一を一時的に没収しただけで、これほどの酒を呷り醜態を晒すとは……神の一柱として恥ずかしい限りです」

「そうだね、教会や信者の人達に、この姿のロキさんとカマエルさんはちょっと見せられないね」


 ロキさんとカマエルさんは酒瓶を抱き締める様に酔い潰れている。

 こんな姿を教会や信者の人達に晒せば、信仰心も一瞬にして吹き飛んでしまう事だろう。


 片付けを終えた俺はロキさんとカマエルさんにブラケットをかけると、俺は屋敷神に話しかける。


「そういえば、ヴォーアル迷宮の管理はどう? うまくいきそう?」

「はい。つい先程、第21階層に到達した冒険者がゴールドゴーレムを倒し、喜びの表情を浮かべながら持ち帰っていきました」

「へえ、その冒険者も運がいいね。ゴールドゴーレムに遭遇した上、倒す事に成功したんだ」


 俺の設置したゴーレムは群れで行動する特殊なゴーレムだ。しかも、階層の至る所にゴーレムを設置している。

 多くのゴーレムが跋扈するフィールドで、よくゴールドゴーレムを倒す事ができたものだ。


「はい。その様に仕向けましたので、それに冒険者のいない階層から順次、畜産迷宮に変えております。ここでしか手に入れる事のできないアイテムや、調味料もありますし、第21階層以降はゴールドゴーレムやミスリルゴーレムの出現する鉱山フィールド。この事が商業ギルドに伝われば、一月とかからず、商人達を呼び戻す事ができるでしょう」


 確かに、今までヴォーアル迷宮で出現しなかったゴールドゴーレムやミスリルゴーレムが出現すると知れば、国内外から一攫千金を狙って多くの冒険者が訪れるだろう。

 そして数多くの冒険者が集まれば、自然と商人達も集まってくる。今は商人達が出ていってしまった影響により活気ないが、こうなれば時間の問題。

 屋敷神の言う通り、一月とかからず、商人達を呼び戻す事ができるかもしれない。


 とはいえ、迷宮運営には魔力がかかる。

 少しの間は商人達を呼び戻す為、大盤振る舞いでゴールドゴーレムやミスリルゴーレムを出現させる様にして貰うけど、出現させすぎて金やミスリルの価値が崩れても困る。

 どこか適当な時点で出現頻度を絞る必要が出てくるだろう。


「そうだね。でも、あまり無理はしない様にね」

「はい。それより……あちらの酔っ払い達はいかが致しましょうか?」


 俺は酒瓶を抱えながらテーブルで眠っているロキさんとカマエルさんに視線を向けると、少し困った表情を浮かべる。


「何だか幸せそうな表情を浮かべているから、そのままでいいんじゃない?」

「そうですね……では、このまま放置という事で……」


 俺と屋敷神はそう呟くと、ロキさんとカマエルさんを放置してダイニングを後にした。

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