ヴォーアル迷宮攻略⑤

「うっ、う~ん。あれっ? ここは……」


 目を覚ました俺は、目を擦りながら辺りを見渡す。

 おかしいな。さっきまで第67階層にいた筈なんだけど……。


 ここはどう見ても、第67階層ではない。

 俺が『う~ん、う~ん』と唸っていると、後ろからカマエルさんが話しかけてきた。


「おお、起きたか悠斗様!」

「悠斗様~♪ 起きたんだね! 心配したよ~♪」


 後ろを振り返ると、心配そうな表情を浮かべた二人の姿が目に映る。

 何故かは分からないが、心配をかけてしまったらしい。

 しかし、何に対して心配させたのかが分からない。


「うん。そういえばここは何処? さっきまで第67階層の攻略をしていた様な気がするんだけど……」


 なんだか記憶がモヤモヤする。

 確か、第67階層に入った所までは覚えているんだけど、そこから先が思い出せない。


「き、きっと悠斗様は疲れていたんだ。第67階層に到着するなり気絶してしまって、随分心配したぞ」

「そうそう♪ きっと悠斗様は疲れていたんだよ♪ 慣れない墓地フィールドに悪戦苦闘していたもんね。決して悠斗様の記憶を改竄したとかそういう様な事はやっていないから、その辺りは安心してくれていいよ♪」


 えっ、もしかして俺に何かをやったの?

 ロキさんのスキル『秩序破り』とか使っていないよね?

 その言い方だと俺の記憶を改竄した様に聞こえるけど、信じてもいいんだよね!?


「そ、そう。その言い方だと、まるで記憶を改竄したように聞こえるけど……」

「ぜ、全然、全然だよ♪ あっ、そうだっ!? 悠斗様に朗報だよっ!」

「そ、そうそう。神を疑うのは良くないぞ! それよりこれからの話をしようじゃないか」


 ロキさんの言い方は引っ掛かるものの、迷宮攻略が先決だ。

 取り敢えず、話を進める事を優先しよう。


「それで、ここは一体どこなの?」


 すると、ロキさんが明るく答えてくれた。


「ふふ~ん♪ ここはヴォーアル迷宮の第70階層。つまりボス部屋の前だよ~♪」

「ああ、悠斗様が起きるのを待っていたんだ」

「そうなんだっ……」


 カマエルさんとロキさんは、第67階層で気絶してしまった俺を担いで、第70階層迄攻略してくれたらしい。

 正直、墓地フィールドを歩くのは辟易としていたからありがたい。


「ありがとう。それじゃあ、ボス部屋に向かおうか」

「そうそう。その意気だ」

「こんな迷宮さっさと踏破しよ~♪」


 二人ともやる気は十分の様だ。

 俺はカマエルさんの手を借り立ち上がると、一緒に ボス部屋の扉を開けていく。

 内部に視線を向けると、部屋の中央に描かれていた魔法陣が輝きだし、魔法陣から黒いローブに大鎌を持った骸骨が現れる。


 まるで死神の様だ。

 そんな事を思いつつも〔鑑定〕して見ると、『死の天使』と表示された。

 すると、カマエルさんが叫ぶ。


「死の天使!?」

「カマエルさん、知ってるの?」

「ああっ、死の天使……その名の通り死を司る天使の事だ。奴の持つ大鎌『デスサイズ』に刈られた者は、魂の死を迎える事になるといわれている。何でこんな所に……」


 死の天使か、名前の響きからとても強そうなボスモンスターだ。カマエルさんも、死の天使から視線を外そうとしない。


「やばいっ! 来るぞっ!」


 カマエルさんがそう叫ぶと、死の天使が大鎌を振り上げこちらに向かってきた。

 死の天使の動きが速い。


 俺は咄嗟に〔影縛〕を死の天使に放ち、動きを阻害する。そして、〔影縛〕により動けなくなった死の天使に向かって掌を向けると聖属性魔法〔聖なる光〕を放った。


「悠斗様っ! そいつに〔聖なる光〕は効かないっ!」

「なっ、なんでっ!?」


 死の天使に向かって〔聖なる光〕を放つも辺りを照らすだけで、全く効果がある様には見えない。


「死の天使と呼ばれているし、見た目もアンデットモンスターそのものではあるが、奴も天使の一員だ! アンデットモンスターに効果を及ぼす〔聖なる光〕では奴を倒す事はできない」


 あんなにも死神の様な風貌をしているのに聖属性魔法が効かないとは……。


「わかった。それじゃあっ〔影串刺〕!」


 俺がそう呟くと地面から大量の刺が出現し死の天使に向かっていく。

 しかし、死の天使は目を赤く光らせると、〔影縛〕の隙間から骨の翼を広げ〔影串刺〕の効果範囲から逃れていく。

 〔影縛〕で縛ったにも拘らず、羽を広げて避けるとは思いもしなかった。

 すると、死の天使は翼をはためかせ、デスサイズを浮かべながら俺に向かってきた。


「や、やばっ!?」


 咄嗟に〔影纏〕を纏うも、死の天使の持つデスサイズがどの程度の効果を持っているのか分からない。

 デスサイズが俺の身体を貫くと思った瞬間、何故かデスサイズの矛先が地面へと向き、地表に刃を突き立てた。


「ねえねえ? 君達、ボクの事を忘れてないかな?」


 ロキさんは微笑みながらそう呟くと、指先を上に向ける。


「死の天使如きが、ボクに叶う筈がないでしょ♪ 君に本物の死神を見せてあげる。おいで、死神ヘル……〔神獣召喚サモン〕」


 ロキさんがそう呟くと、死の天使の頭上に、身体を腐らせた死神が現れた。


「彼女の名前は死神ヘル。ヘルヘイムを治めるボクの娘さ♪ 彼女の事は気軽に、死神ヘルって呼んであげてね♪ それじゃあ、死神ヘル。そこにいる死の天使と遊んであげて♪」

「…………」


 死神ヘルはロキの言葉に無言で頷くと、急に第70階層のボスモンスターである死の天使を抱き締めた。

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