ヴォーアル迷宮攻略⑥

 第70階層のボスモンスター、死の天使を抱擁した死神ヘルは笑みを浮かべると、死の天使の身体をグズグズに溶かしていく。


「ふふふっ♪ 死神ヘルも久しぶりに命ある者と触れ合う事ができて喜んでいるみたい♪ 死神ヘルは触れ合うだけで、命ある者の身体を溶かしてしまうからとっても寂しがり屋さんなんだ♪ 君が溶けるまでの間、ボクの娘の孤独さを埋める為の糧となっておくれ♪」


 死の天使は、苦しそうに呻き声をあげ、身悶えると、大鎌『デスサイズ』を落とした。


 俺とカマエルさんが呆然とした表情を浮かべている中、ロキさんは死の天使の落としたデスサイズを拾い笑顔を浮かべている。


 その表情はまるで、楽しく遊ぶ子供の姿を微笑ましく見守る親の様だ。


 そんな事を考えていると、死神ヘルは急に死の天使の抱擁を解いた。

 死神ヘルはロキさんに近付くと、ボソボソ何かを呟く。


 死神ヘルから抱擁を解かれた死の天使はというと、地に伏したまま、立ち上がる気配がない。

 ピクピク動いている事から死んでいる訳ではなさそうだ。


「えっ? ヘルヘイムに死の天使を連れて行きたいの?」

「…………」


 死神ヘルに耳打ちされたロキさんは驚いた表情を浮かべると、死の天使を見ながらそう呟いた。

 死神ヘルは相当、死の天使の事を気に入ったらしい。


「う~ん。仕方がないなぁ♪ 死なない様に〔秩序破り〕を掛けておいてあげるけど、ちゃんと世話をする事はできる?」

「…………」


 ロキさんの言葉に、死神ヘルはコクリと頷くと、楽しそうな振る舞いで死の天使の腕を掴んだ。

 そして、ロキさんの下に死の天使を引きずっていくと、〔秩序破り〕を掛けてもらい、死の天使を抱き締める。


 その姿はまるで、女の子がビックサイズのぬいぐるみを抱きしめはしゃいでいる様にも見える。

 勿論、現実はそんな微笑ましい光景が広がっている訳でもなく、身を腐らせた死神ヘルが、ボロボロのローブを身に纏った死にかけの骸骨を抱きしめ喜んでいるという、混沌とした光景が広がっている訳だけど……。


 そして死神ヘルは死の天使を片手に抱えると、ロキさんに向かって手を振ると、そのまま消えてしまった。

 恐らく、ヘルヘイムという場所に帰っていったのだろう。


 流石はロキさんだ。

 本人自身の力もさる事ながら、神獣召喚で呼び出した自分の子供達の力も半端ではない。


 すると、ロキさんが死の天使が落とした『デスサイズ』を片手にこちらに向かってくる。


「いや~♪ ボスモンスターを横取りしちゃってゴメンね♪」

「寧ろ、ロキさんのお陰で命拾いしたよ。ありがとう」

「いやいや、悠斗様が本気になればあの程度のボスモンスターなんて楽勝だったでしょ♪ 謙遜しなくていいよ~♪」


 い、いや、ロキさんの子供が圧倒的に強かっただけで、あのボスモンスターは今まで戦ってきたどのボスモンスターより強かったと思うんだけど……。


「とはいえ、死の天使を死神ヘルがお持ち帰りしちゃったのは確かだからね♪ 悠斗様には、この『デスサイズ』をあげるよ」

「この大鎌を?」


 ロキさんから死の天使が落とした大鎌『デスサイズ』を受け取る。


「死の天使の持つ『デスサイズ』の刃は、魂を刈り、柄は魂を与える役目を持っているからね~♪ 使い方には気をつけるんだよ♪」

「う、うん」


 使い勝手の悪そうな武器だ。

 取り敢えず、収納指輪にでもしまっておこう。


 ロキさんから受け取った『デスサイズ』を収納指輪にしまうと、第71階層へと続く扉が開かれた。


「さあ、悠斗様。次の階層へ向かおう」

「そうそう♪ 次の階層が墓地フィールドじゃなきゃいいね♪」

「本当にね……」


 俺はそう呟くと、ロキさん達と共に第71階層へと向かった。


「ここがヴォーアル迷宮の第71階層か……」

「うわ~♪ 中々、凄い光景が広がっているね♪」


 ヴォーアル迷宮第71階層。

 そこはまるで雲の上にでもいる様な、そんな光景が広がっていた。

 所々、雲を突き抜ける様にして木が生えている。

 しかし……。


「これじゃあ、次の階層へ向かうのは難しそうだね?」


 前を見ると、雲の海の向こう側に次の階層へと続く階段が見える。しかし、移動手段がない。

 どうしたものか……。


 そんな事を考えていると、ロキさんが笑顔を浮かべ呟いた。


「嫌だな~♪ 雲の海の向こう側に次の階層へと続く階段が見えるんだよ? あそこまで飛んでいけばいいじゃない♪ 悠斗様の持つ神器、魔法の絨毯で♪」

「そっか! 魔法の絨毯があったね」


 最近使っていなかったからすっかり忘れていた。

 俺は〔召喚〕でバインダーを取り出すと、神器、魔法の絨毯を探す。

 そして、魔法の絨毯を見つけるとカードを手に取り、魔法の絨毯を出現させた。

 早速、魔法の絨毯に乗り込み、ロキさんを後ろに乗せると、魔法の絨毯で雲の海を渡っていく。

 ちなみにカマエルさんは自前の羽で魔法の絨毯で並走中だ。


 ふと雲の海に視線を向けると、雲の海で蠢くモンスターの姿を見て捉えた。

 念の為、影探知を発動させると、雲の海からワイバーンやドラゴンなどがいる事を探知する。


 ワイバーンやドラゴンが相手なら大丈夫そうだ。

 俺は安心した表情を浮かべると、魔法の絨毯でそのまま次の階層へ続く階段へと向かう事にした。

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