第九章 商人連合国アキンド編
ユートピア商会に忍び寄る影
「ほう。これがユートピア商会の足場か……」
ここは商人連合国アキンド。
作業員にユートピア商会の販売する仮設足場『スカイウォーカー』を組み立てさせると、私は呟く。
「おい。これと同じ物を作れるか?」
「いえ……この足場。何を材料に作られているのか検討もつきません。似せた物を作る事はできますが、完全に同じ物を、となると難しいかもしれません」
私は『ふむっ』と呟くと、足場を構成する機材に触る。
「似せた物を作る事は可能なんだな?」
「はい。しかし、よろしいのでしょうか?」
「なんだ?」
「いえ、ユートピア商会で販売されている足場に似せた物を作るのは構わないのですが、価格が釣り合うとはとても思えません。どうしても割高になってしまいます」
「はっ、そんな事か……」
私は笑みを浮かべると、作業員に視線を向ける。
「いいのだよ。お前がそんな事を気にする必要はない。私が作って欲しいモノはあくまでもコレとよく似たモノだ。強度等どうでもいい」
「し、しかし、それではコレを使用した者が大変な事に……人災が起きればどうなる事か……」
「何度も言わせるな。お前は私に言われた事だけをやっていれば、それでいいのだよ。見た目や寸法、そして触感、それだけキチンとしていればそれ以外はどうでもいい。寧ろ、強度など無い方がいいのだ。わかったな?」
私の言葉に作業員は取り敢えず頷くも、納得はしていないかの様な表情を浮かべている。
「なんだ? 不満でもあるのか?」
「い、いえ。そういう訳ではないのですが……」
「では手を動かせ。どうすれば、うり二つの物が作れるのか考えろ」
「わ、わかりました……」
「そうだ。それでいい」
「ふふふっ、これでユートピア商会も終わりだ」
私は仮設足場から手を離すと、笑みを浮かべながら部屋を後にした。
◇◇◇
ここはフェロー王国の王都ストレイモイ。
新しくこの国の国王となったシェトランドから、前国王ノルマンにより接収されてしまった土地を返して貰った俺はその二日後、ユートピア商会エストゥロイ支部の運営を鎮守神と、現地で採用した従業員達に任せると、王都で働いていた従業員達と共に王都に戻ってきていた。
更地になっていた土地も夜の内に元通りにしたし、既に営業も始めている。
しかし……。
「全然、お客さん来ないね?」
「そうですね。商人達が軒並み拠点を移した事もあり、今の王都は失業者に溢れていますからね」
「ああ、だからかな?」
ユートピア商会の入り口に視線を向けると、多くの人が屯していた。
しかし、一向に商会内に入ってこない……いや、入ってこれないでいる。
ユートピア商会内には、悪意ある者の侵入を阻む結界の様なスキル〔絶対防御〕が張り巡らされている。
その為、ユートピア商会内で悪さ(万引き)を働こうとする者が軒並み弾かれていた。
「彼らも生活をするのに必死なのです。どうしましょうか?」
「そうだね……一応、シェトランドの要請通り食糧品の格安販売は続けているけど、いつまでもこのままって訳に行かないからね」
シェトランドも何もしていない訳ではない。
国民が飢えぬ様、食糧品や生活物資を俺から格安で仕入れ、国民達に配付している。
他にも、王城を守る兵士の募集や、失業者支援として職の斡旋や住む場所の提供も行っている。
しかし、圧倒的に紹介できる職や場所、なによりそれに対応する人手が足りていない。
「ちょっと商業ギルドと冒険者ギルドに行ってくるね」
「悠斗様であれば大丈夫だとは思いますが、気をつけて下さいね」
「うん。わかったよ」
俺は立ち上がると、ユートピア商会の裏手から出て、商業ギルドに向かう事にした。
商業ギルドに入ると、数ヶ月前はあれ程賑わいを見せていたギルド内は、まるで嘘の様に閑散としていた。
しかし、この状況はある意味チャンスだ。
商人達が軒並み王都から拠点を移した為、今の王都は空き地と空になった店舗が目立っている。
兼ねてから考えていたショッピングモール構想を実行するのに丁度良い。
「これはこれは悠斗様。ようこそ、商業ギルドへ。本日はどの様なご用件でしょうか?」
すると、商業ギルドのギルドマスター、ミクロさんが声をかけてくる。
「お久しぶりです。ミクロさん。実は今空いている大通りの土地全てを買い取りたいのですが、お願いできますでしょうか?」
俺がそう言うと、ミクロさんは呆然とした表情を浮かべる。
「今、大通りの土地全てを買い取りたいと聞こえた様な気がしましたが……」
「はい。あの辺り一体に、大きな商業施設を作りたいと思ってまして、土地を買いたいのですが……難しいですか?」
「い、いえ……直ぐに確認致します! 悠斗様はこちらでお待ち下さい」
ミクロさんはそう言うと、俺を個室に案内し、慌てて部屋から出て行った。
少しすると、受付のお姉さんがお茶を持ってきてくれた。
お茶を飲みながら待っていると、大量の書類を抱えたミクロさんがやってくる。
「お、お待たせ致しました!」
ミクロさんは抱えた書類をテーブルに置くと、一枚の地図を広げる。
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