王都②
「ミクロ様にお願いがあるのですが、聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。私にできる事であればできる限りお応え致します」
「ありがとうございます。それでは一つだけ……。食糧品の配付をする際に、食糧品の無償提供はシェトランド王弟殿下が悠斗様に願い出て行った事といった話を流しては頂けないでしょうか?」
するとミクロ様は驚いた様な表情を浮かべる。
「シ、シェトランド王弟殿下がですか⁉︎」
「はい。その通りです。現国王、ノルマン陛下は既に国民からの信頼を失っております。今回の件で、王族まで国民からの信頼を失ってしまったかも知れません。
近い将来、現国王は失脚し王弟殿下が王位に就くでしょう。しかし、国民からの信頼を失えば、できる事もできなくなってしまいます。今ここで挽回できるのであればそれに越した事はありません」
「し、しかし……」
「はい。勿論、そんな簡単に事は運ばないでしょう。しかし、王弟殿下は現国王とは違う事を国民が認識する事。今はその事が重要なのです」
それに王弟殿下が王位に就いても下さらなければ、ヴォーアル迷宮の攻略許可も接収された土地も戻ってきません。
多少無理があるかもしれませんが、悠斗様の為にも、この方向性で貫かせて頂きましょう。
「な、なるほど……わかりました。食糧品の配付を行う際、必ず周知致します」
「はい。よろしくお願いします」
望み通りの返答を聞けた事に、私は胸を撫で下ろす。
「それではまた明日、食糧品を届けにきますので、私はこれで失礼致します」
「はい。この度は誠にありがとうございました」
私は食糧品の配付を商業ギルドに任せると、今度はユートピア商会の跡地に足を運んだ。
「まるでゴーストタウンの様ですね。しかし、ここなら問題ないでしょう」
それでは王城を占拠している国民達を、王城から排除すると致しましょう。
私は 〔迷宮変化〕で王城を占拠している国民達を視ると、国民達に気付かれない様、足元に転移トラップを仕掛けていく。
「さて、皆様には申し訳ございませんが王城から退城して頂きましょう」
私が転移トラップを発動させると、ユートピア商会跡地に王城を占拠していた国民達を移していく。
「な、なんだここは⁉︎」
「俺達は王城にいた筈じゃ……」
「い、一体何が……」
「皆様一体どうされたのですか? そんな所からいきなり現れて⁉︎」
私は少しだけ驚いた表情を浮かべそう呟くと男達は顔を見合わせる。
「ど、どういう事だ?」
彼らが混乱している間に、王城の門を元に戻すと、影精霊を王城の門に向かわせる。
これで警備は万全。あとは……。
「そういえば皆様。聞きましたか? これから商業ギルドで食糧品の無償配付を行うそうですよ?」
「「「な、何⁉︎ それは本当か!」」」
「はい。本当の事です。なんでも、王弟殿下がユートピア商会の会頭である悠斗様に願い出て食糧品の無償配付を行うとか……。フェリーの運航停止の期間は毎日無償配付を行うそうですよ? 皆様も早く行った方がよろしいのではないでしょうか?」
「こうしちゃいられねぇ! 行くぞ! お前等っ!」
「「おう!」」
私がそう言うと、男達は足早に商業ギルドに向かっていった。
「さて、目的は果たしました。迷宮に戻り明日渡す食糧品の準備をしなければ……。いえ、その前にグレナ・ディーン学園長にお願いしなければならない事がありますね」
そう呟くと、私は学園長が迷宮核の研究を進めている迷宮へと戻る事にした。
◇◇◇
その頃、私は地獄にいた。
咄嗟に逃げ込んだ自室の屋根裏で生活を始めてはや二日。王城は国民に占拠され、まるで独房の様なこの場所での生活を余儀なくされている。
「いつまで王城を占拠すれば気が済むのだ!」
本当にいい加減にしてほしい。
下の階から聞こえてくる国民共の声により、十分な睡眠をとる事ができない……。
奴等が王城を占拠した事でやるべき仕事は溜まるばかり、ストレスも溜まるばかりだ。
それだけではない。
朝、余りのストレスにより髪を掻き毟ると髪がゴッソリ抜けてしまった。
私の髪がゴッソリと抜けてしまったのだ。
抜けてしまった髪のあった箇所に手を当てて見ると、その部分は円を描く様に髪が無くなってしまっていた。
恐ろしい事だ。鏡の無いこの部屋では、私の姿を確認する事もできない。
クソッ! こんな事になっているのも王城を占拠している国民のせいだ。
「王城を占拠すればする程、お前達の生活が苦しくなるという事がなぜ分からない! 何故、そんな簡単な事も分からないのだ……」
愚かな国民共め、王城を占拠し衆愚政治でも始めるつもりか⁉︎
教養もリーダーシップも判断能力もない愚民共目が……。私がこんな生活を強いられているのも、全ては国民共のせいだ。
暴動など起こしおって!
お陰で私の生活も私の国も滅茶苦茶だ。
王城で生活しているというのに全く気が休まらない。
当然だ。暴徒と化した国民共が跋扈する王城の屋根裏で怯えながら住んでいるのだからな!
何故、王である私が国民共の足音に怯えながら過ごさなければならない!
ここにはトイレはあるものの、風呂は無い。潤沢と思えた食糧も尽きかけている。
もうこうなってしまえば、領主の元に説得に行った大臣達に賭けるしかない。
そんな事を考えていると、下から愚民共の声が聞こえてきた。
覗き穴から下を見てみると、『うわっ! なんだ』と叫び声をあげている愚民達が見える。
喧しい奴等だ。一体何をやっている⁉︎
すると信じられない事が起こった。
なんと、愚民達が光に包まれると消えてしまったのだ。
「なっ⁉︎」
一体何が起こっている⁉︎
いや、王城から去って欲しいあまり都合の良い幻覚でも見たのだろうか?
私は目を擦ると、もう一度、覗き穴から下を覗き込んだ。
やはり……やはりだ。あの愚民共が居なくなっている……。
いや、もう一日。もう一日だけ様子を見よう。
翌日、昼頃まで覗き穴から下を覗き込んでいるが、王城を占拠されてから聞こえてくる私の悪口や私を探す声が聞こえてこない。
少し怖いが私は下に降りてみる事にした。
引き上げ式の階段をゆっくり降ろすと、足音を立てぬ様ゆっくり降りていく。
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