王都①
「ち、因みに……なんで外門まで取り上げたの?」
暴徒化した国民が目の前にいるのに外門なんて取り上げたら王城が占拠されるに決まっている。
「土地を接収されるという事がどういう事なのかを分からせる為に外門を取り上げたのですが、まさかあれ程兵士達が不甲斐ないとは思いもしませんでした。私の予定では、暴徒化した国民達を兵士達が身を挺して止める事を想定していたのですが……」
「武器を取り上げたのに?」
「はい。取り上げたのは、武器庫にあった武器だけですので兵士達が身を挺して国民達を止めるか、王城の扉を閉め兵士達に警備させるだけで問題なく対処できると思っておりましたが、まさか兵士達が一目散に逃げるとは……」
「そ、そう……」
確かに、屋敷神もまさか兵士が一目散に逃げるとは思いもしなかったのだろう。
とはいえ、暴徒化した国民に王城を制圧されたままのこの状況は拙い。
王城が占拠されたとあっては、領主会議の開催も危ういし、領主様方が王城に移動しようものなら、それこそ大変な事になってしまう。
いや、既に大変な事になっているんだけれども……仕方がない。
「屋敷神、王城を占拠している国民達……何とかならないかな?」
「ふむ。そうですね……。幸いな事に王都は悠斗様の持つ迷宮の支配下にあります。私のスキル 〔迷宮変化〕を使えば、王城にいる人間を王城の外に出す事も可能です」
「本当⁉︎ それじゃあ、すぐにでも国民達を王城から出してくれない? 国民達の不満は、フェリーを止められ食糧品の価格が高騰した事にありそうだし、ユートピア商会にある食糧品は無償で提供してもいいからさ!」
俺がそう言うと、屋敷神が頷いた。
「畏まりました。それでは、商業ギルドにユートピア商会からの食糧品の無償提供を申し出た上で、王城を占拠している国民達を王城から排除致します」
「うん。よろしくね」
「それでは、私はこれから王都へ向かいます」
「俺も一緒に行こうか?」
すると屋敷神は首を振って応える。
「悠斗様はここでお待ち下さい。悠斗様のお手を煩わせる程の事ではございません」
「そ、そう? 本当に大丈夫?」
「はい。それでは私はここで失礼致します」
屋敷神は力強くそう言うと、王都に向かう為、地下迷宮へと向かっていった。
ほ、本当に大丈夫だろうか……。
もの凄く心配だ。
「なんだか凄く疲れたな……」
俺はため息を吐くと、少し横になろうと自室へと向かう事にした。
◇◇◇
「さて、悠斗様からのお願いであれば仕方がありません。まずは商業ギルドへと向かいましょう」
迷宮内で食糧品等の物資を収納指輪に収めた私は、迷宮を通して王都へ戻り商業ギルドに向かう事にした。
「それにしても、ギルド内は随分と閑散としていますね……」
商業ギルドに入り辺りを見渡すと、ギルド内は閑散としており、ひっそりと静まり返っている。
私が受付に向かうと、受付のお嬢さんが元気なさげに呟いた。
「ようこそ商業ギルドへ。本日はどの様なご用件でしょうか?」
土地接収とフェリー運航を停止した為、商人は寄り付かず、食糧品の価格も倍増している。
それにこれだけ閑散としていれば、職員達の士気も下がる。無理もない。
「はい。ユートピア商会の会頭である悠斗様より食糧品の無償提供の申し出に参りました」
すると、受付のお嬢さんがガバリと顔を上げる。
「ユ、ユートピア商会が食糧品の無償提供! それは本当ですか⁉︎」
「はい。この収納指輪に食糧品やその他生活に必要となる物資が納められています。私共と致しましては、フェリーの運航停止が解けるまでの間、毎日、物資の無償提供を行う準備がございます」
すると、受付のお嬢さんが涙を流しながら私の手を握ってきました。
「ありがとうございます。ありがとうございます……」
「いえ、お礼はユートピア商会の会頭である悠斗様に……。それと大変恐縮ではありますが、商業ギルドから人をお借りする事はできませんか? 食糧品の無償提供を行うにしても人数が必要ですので……」
「い、いえいえ! 食糧品の無償提供をして頂いた挙句、国民への配付を行う事までして頂くのは流石に申し訳なさ過ぎます! 少々、お待ち下さい! すぐにギルドマスターを呼んで参りますので!」
それだけ言い残すと、受付のお嬢さんはそのまま席を立ち、ギルドマスターを呼びに行ってしまった。
「国王の自業自得とはいえ、これでは国民方が可哀想過ぎますね……」
私がそう呟くと、ドタドタと音を立てながらギルドマスターのミクロ様を連れた受付のお嬢さんが戻ってきた。
「お待たせ致しました。私、当商業ギルドのギルドマスター、ミクロと申します。なんでも、食糧品の無償提供をして頂けるとか……。本当にありがとうございます。ユートピア商会の会頭であらせられる悠斗様には感謝の念が絶えません」
ミクロ様が頭を下げようとするのを、手を翳して止める。
「いえ、謝辞は結構です。それで、国民全員に食糧品を配布するのは大変かと存じますが、お任せしてしまっても問題ないでしょうか?」
私がそう言うと、ミクロ様は目をギラつかせながら呟いた。
「はい。問題ございません」
「そうですか……。それは結構な事です。それではこの収納指輪をお預けします。明日もまたお持ちいたしますので、中にある物資は使い切って頂いて構いません。またその収納指輪は使い捨てです。二日で使用する事ができなくなりますのでお気をつけ下さい」
私が収納指輪を差し出すと、ミクロ様は震える手でそれを受け取った。
「ありがとうございます」
「いえ……」
しかし、商業ギルドでもこの現状……。
国民の王に対する不信はもはや取り返しが付かない所まできてしまっていますね。
これでは王弟陛下が王位に就いても……。
仕方がありません。
悠斗様と王弟陛下には事後承諾となりますが、この機会を利用させて頂きましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます