その頃王都では②

 一人の大臣が手を上げる。


「へ、陛下。良案がございます。此度の領主会議、主賓を欠いては会議も意味がなさなくなる事でしょう」

「……何が言いたい⁉」


 ノルマンはそう言うと、回りくどい言い回しをする大臣を睨み付ける。


 睨まれた大臣は怯えた表情を浮かべながら呟いた。


「は、はい! 恐れながら申し上げます。へ、陛下は難病にかかり領主会議に出席する事ができない。そういったストーリーで時間稼ぎをしては如何でしょうか?」

「仮病で領主会議を病欠しろと……。そういう事か?」

「は、はい。その通りでございます」


 それを聞いたノルマンは呆れた表情を浮かべる。


「こんな馬鹿を私の周りに置いていたとは……。呆れてものも言えん」


 その言葉に大臣は表情を固まらせる。


「いいか? このタイミングで行われる領主会議だぞ? あいつ等にとって既に私はどうでもいい存在だ。国王の罷免を議題に上げる位だからな……。むしろ、私の存在は邪魔。目の上のたん瘤位に思っていてもおかしくない。そんな状況で私が領主会議を病欠すればどうなると思う。あいつ等は喜んで決を採り、事後報告で罷免した事を報告してくるだろうよ」


 ノルマンの言葉に他の大臣達も頷いている。


 このタイミングでの領主会議。そして議題が国王の罷免とあれば、既に次の国王の選出も行われていると見るべきだ。領主達が提案してくるであろう次の国王候補は勿論、我が弟、シェトランドだろう。


 提案をした大臣はガックリ項垂れると、他の大臣が手を上げた。


「そ、それでは、王弟殿下を説得しては如何でしょうか? 領主達は、王弟殿下を国王に持ち上げてくる筈、王弟殿下さえ説得できれば……」


「お前は馬鹿か?」


 ノルマンは頭に手を当てると、呆れた表情を浮かべながら首を振る。


「シェトランドが今、何処にいると思っている……。奴は今、エストゥロイ領にいるのだぞ? 恐らく、ここにいない宰相や財務大臣もそこにいる筈。私も最初は何故、シェトランドがエストゥロイ領を訪問したのかわからなかった。しかし、今ならわかる。お前は何故、シェトランドがエストゥロイ領にいるかわかるか?」


 大臣が質問に答えられずにいると、ノルマンは呆れた表情を浮かべ、ため息を吐く。


「何故、私はお前達の様な馬鹿を側近に起用してしまったのだろうな……。シェトランドがエストゥロイ領を訪れているのは次代の国王になる為の布石……。大方、ここにいない宰相と財務大臣辺りに唆されたのだろう。宰相と財務大臣がシェトランドを次代の国王にする為、動いたとすれば自ずと答えは見えてくる」


「つ、つまり、王弟殿下は……」

「ああ、私に代わり国王になるつもりだろう。シェトランドは頭はキレるが流されやすい。周囲があいつを国王にするために動いているのであれば、シェトランドに説得はきかないだろうな」


 それにシェトランドを説得するなど、土台無理な話だ。そもそも、我々には時間がない。

 エストゥロイ領に説得に行き、失敗すればそれで終わりだ。そんな博打は打てない。


 しかし、何もしなくては全てが終わってしまう。

 何かいい方法はないか……。


 いや、待てよ?

 そうだ。何でこんな簡単な事に気付かなかったんだ。


 ノルマンはニヤリと笑うと、一人の大臣に視線を向ける。


「無能なお前達にもできるいい事を思いついたぞ」


 ノルマンに視線を向けられた国土交通大臣の額に汗がジワリと浮かんでくる。


「い、いい事ですか……? な、何をなさるおつもりで?」


「お前でもできる簡単な事だ。なあ、領主達は王都にどうやって来ると思う?」


 徒歩、馬車、フェリー。移動手段は多々あれど、王都ストレイモイに来る方法は限られている。


「奴等は必ず、水路を通って王都に来る筈。そうでなければ、一週間後などという馬鹿げた日程で領主会議を開催する筈がない」


「た、確かに……」


 国土交通大臣は呆けた表情を浮かべながら呟く。


「今ならまだ間に合う筈だ。すぐにフェリーの運航を止めろ!」


 時間を稼ぐ事を目的にする場合、これほど有効な手段はない。何せ、スヴロイ領からですら、水路を使わなければ馬車で十日かかるのだ。


 しかし、ノルマンの言葉に内務大臣が青ざめた表情を浮かべると、小さく呟いた。


「ダ、ダメです……。それだけはダメです……」


 王都の食糧は他領からの輸入に頼っている。

 ただでさえ、王都には商人が寄り付かなくなってしまったのに、そんな事をすれば、王都は深刻な食糧難に陥ってしまう。


「へ、陛下! お考え直し下さい。そんな事をすれば王都に深刻な影響が……」


 しかしそんな内務大臣の心配事もノルマンに響かない。


「ふざけるな……。ふざけるなぁぁぁぁ! 元はと言えばお前らが悪いんだろうが!」


 ノルマンの言葉に内務大臣は怯えた表情を浮かべる。


「お前らが変な発案をしなければこんな事にはならなかった! 何故私がこんな目に合わねばならんのだっ!」


「し、しかし、陛下……」


「しかしもクソもあるか! フェリーの運航は停止する。これは決定だ! 私もこんな決定は下したくなかった。しかし、領主会議の開催を長引かせるにはこれしか方法がないだろうがっ! それともなんだ、他に良案があるのか? あるなら言ってみろ! ほら、言ってみろよ! ないんだろ? 良案が思い浮かばないんだろ?」


 ノルマンの言葉にスカーリは言葉を失ってしまう。

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