その頃王都では①
その頃、王都では……。
「国王ある私を罷免するだとっ! 一体領主達は何を考えているんだ!」
フェロー王国の国王ノルマンが文官に向かって怒声を上げていた。皆が皆、何も言えずにいるとノルマンの怒りは更にエスカレートしていく。
「大体、理由はなんだ! 領主会議で王が罷免されるなど聞いた事がない! ふざけた事を抜かすな!」
領主会議で国王の罷免ができる事は知っている。しかし、国王の罷免は国の恥。今まで実行された事はなかった。
「なんとか言ったらどうだ! まさか理由もなく王である私を罷免しようとしているのではあるまいなっ!」
怒り狂うノルマンは手紙を丸めると、文官に向かって投げつける。
手紙を投げつけられた文官は「ひいっ!」と声を上げると震える声で呟いた。
「ひ、罷免の理由は、明示されておりませんでしたが、や、やはり、商業ギルドの断りなくユートピア商会の土地接収を進めた事、そ、それに起因し、商人がこの国より離れていってしまった事が大きいかと思われます。それだけではありません。人財の宝庫たるティンドホルマー魔法学園の移転も理由の一つかと……」
文官の考えを聞かされたノルマンは激怒する。
「ふざけるな! 高々、一つの商会の土地を接収した位で……。一つの教育機関の移転話で罷免されるなど聞いた事もない! それに元はと言えば、この発案をしたのは内務大臣のスカーリではないか! 何故、私だけが罷免されねばならん!」
急に名前を出された内務大臣のスカーリはビクリと震える。
「へ、陛下……。大変申し上げにくいのですが……」
「なんだっ! 言ってみろ!」
ノルマンの怒声に文官は萎縮した様に呟く。
「陛下が罷免された場合、恐らく私達も一緒に免職となるかもしれません……」
「な、なんだとっ!」
文官の呟きに大臣達が驚愕の表情を浮かべる。
「な、何故、我らがそんな事に……」
「わ、私は陛下のブレーンの内の一人として意見を述べたまでで……」
「そ、そうです! 私達はユートピア商会を潰す事には賛成致しましたが、どうやって潰すか案を出したのはスカーリ殿ではありませんか!」
大臣達が次々と手の平を返していく中、スカーリは反論する。
「そ、そんなっ! ユートピア商会を潰す事な賛成したという事はあなた方も同罪ではありませんか! そ、それに第二魔法学園の創立案を出したのも土地接収の案を出したのは確かに私ですが、その案を採用したのは陛下です。私は皆さんと同じく意見を……」
スカーリは涙目になりながら声を上げると、壁を殴りつけるかの様な大きな音が王の間に響き渡る。
音の鳴った方に視線を向けると、ノルマンが憤怒の表情を浮かべ、拳を壁に打ちつけていた。
「お前達の気持ちはよーくわかった。この場にいない宰相と財務大臣の気持ちもな……」
周囲を見渡してみると確かに宰相と財務大臣の姿が見えない。
「まるで私は裸の王様だな……。お前達は私の持つ権力によって集る蠅の様だ。まあいい。私の周りによって集る蠅にも使い道はある……。おい、お前」
ノルマンは文官に視線を向けると、怒気を滲ませながら呟いた。
「お前の考えでは、土地の接収と魔法学園の移転が問題なのだと、そう言ったな?」
「は、はい」
文官は怯えながら返事をする。
「では問題ない。その内の一つは既に解消された。なあ内務大臣……。スカーリ……。そうだろう?」
スカーリは冷や汗を垂らしながら、ノルマンに視線を向ける。
い、今更交渉は決裂しましたなんて言えない。
しかし、ここで正直に話さなければ後で大変な事になる気がする。
スカーリは一呼吸おくと、震える声で呟いた。
「は、はい」
スカーリはそう呟くと、言った側から後悔の念が押し寄せてくる。
な、何故私はそんな事を言ってしまったのだぁぁぁぁ!
本当は、正直に打ち明けようと思っていた。
なのに陛下に睨まれた瞬間、その場凌ぎの嘘をついてしまう。
そうこうしている内に、ノルマンの話はどんどん進んでいく。
「文官よ。聞いたか? スカーリもこう言っている。後の問題は土地接収だけだな……。いっその事、ユートピア商会に土地を返してやれ。その上で、こちらが全面的に悪かったというポーズをすれば問題あるまい。その後、対外的に、ユートピア商会と和解した事を伝えろ。そうすれば元通りだ。そうだろう?」
ノルマンが文官に向かってそう言うと、文官は汗を拭きながら呟く。
「し、しかしユートピア商会は現在、エストゥロイ領にあると聞きます。既にユートピア商会の営業も始めている様ですし、土地を返しただけでは相手にされないのではないかと……。そ、それに領主会議まで時間がありません」
「確かに……。時間が足りないな」
ノルマンはそう呟くと、大臣達に視線を向ける。
「おい。そこにいる蠅ども……。お前らは俺よりも長く生きているんだ。その矮小な脳味噌で良案を考えろ。私をガッカリさせてくれるなよ。どちらにしろ私が罷免されればお前達もお終いだ……」
大臣達は互いに顔を見合わせると、顔を青くしながら考え込む。
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