悠斗と第二王子の話し合い③
まあ何はともあれ誤魔化す事に成功したらしい。
この調子で話を別の方向に持っていこう。
「そういえば、ティンドホルマー魔法学園はどうするんですか? 既にエストゥロイ領に移転すると話を伺っているのですが……」
俺が第二王子に話しかけると、何故かマスカットさんが口を開いた。
「ティンドホルマー魔法学園については、既に手を打ってある。恐らく、エストゥロイ領に移転するという話は無くなる筈だ。元々、内務大臣が学園経営に口を出そうとしたのが発端だからな……。シェトランド様が新しい国王となり、これまで通り学園経営に口を出さない事を誓えば問題ないだろう。当然、謝罪と再発防止策は必要になるかとは思うが……」
無くなる筈……。
という事はまだ移転する可能性が残されている訳か……。
「そうですか……」
魔法学園の移転話に振り回される子供達が可哀相だ。
学園長にはそれとなく怒りを鎮める様に話を通しておこう。
折角、王都ストレイモイに戻るのに、戻った瞬間、子供達がエストゥロイ領に行ってしまうのは、俺もとても悲しい。まあ、エストゥロイ領にもユートピア商会を作ったし、邸宅も設置したからいつでも来る事が出来るんだけど……。
それにしても、この国の内務大臣はとんでもない人の様だ。
国内行政を司る偉い人なんだろうけど、屋敷神が調べた所、ユートピア商会の土地接収を提案したのも、ティンドホルマー第二魔法学園創立の話も全てこの人の案らしい。
あれ?
だとしたら、別に国王を変える必要がないのでは?
この内務大臣を更迭すれば済む話じゃ……?
「ちょっと質問なんですけど、土地接収の話もティンドホルマー第二魔法学園創立の話も内務大臣が提案したんですよね?」
マスカットさんが『何を言っているんだコイツ?』という表情を浮かべてくる。
「その通りだ。内務大臣が提案をし、国王陛下がそれを良しとした」
「だったら内務大臣だけを更迭すればいいんじゃないですか? 国王陛下を挿げ替える必要性がよくわからないんですけど……?」
するとマスカットさんは何とも言えない様な表情を浮かべる。
「国政を行う上で国王には様々な権限が与えられている。今回、前国王のトースハウン様が崩御した事により、なし崩し的に第一王子であるノルマン様が新国王になったが本来、国王の任命は領主会議で行われるものだ。少なくともフェロー王国ではそうなっている。なし崩し的に決まった事とはいえトップに立つ者が、自らのブレーンの意見を聞き、自らの判断でユートピア商会の土地接収とティンドホルマー第二魔法学園の創立を決めたのだ。国王とはその国の旗印であり国の顔。国王となったノルマン様がユートピア商会の土地接収を進めた事により、商業ギルドだけではなく商人達からも王都で仕事をする事に不信感を持っている。王都で商売をする為の土地を購入したとして、国の判断で勝手に土地を接収されては適わないからな……。つまり、ノルマン様が国王である限り、王都には土地接収のイメージがずっと残るのだ。こうなってしまえば、内務大臣を更迭した所でそのイメージを覆す事はできん。だからこそ、ノルマン様を次の領主会議で国王の座から降ろし、フェロー王国は生まれ変わりましたよと国内外にアピールする為に第二王子であるシュトランド様を新しい国王に任命するのだ」
なるほど……。
確かに国王の首を変えれば簡単にフェロー王国が変わった事をアピールする事が出来る。
俺との和解も成れば商人達も戻ってくる事だろう。
多分……。
「な、なるほど……」
「本当にわかっているのか……? それに現国王ノルマン様はお主の商会を潰す為、土地接収を命じた張本人だぞ? 擁護してどうする……」
言われてみればそうだった。
少し考えが足りていなかったようだ。
「それでは悠斗様。この件はどうぞ御内密にお願いします。ヴォーアル迷宮の攻略許可は領主会議後すぐにお渡しできると思います。その際、接収されたままとなっている土地をお返し致しますので、もう暫くお待ち下さい」
「わかりました」
第二王子は立ち上がると、俺に向かい手を差し出してくる。
「悠斗様、今後とも王都を、フェロー王国をよろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
実りの多い話し合いだった。
特にヴォーアル迷宮の攻略許可を手に入れる事ができたのが大きい。
ぶっちゃけ、王国に黙って攻略する事もできるんだけど、何か問題が起きた際、責任を取りきれない。
英断を下してくれた第二王子には本当に感謝している。
俺が第二王子と握手を交わすと、マスカットさんが深い溜息をつく。
その表情は達成感に満ちていた。難局を乗り切り安堵している様にも見える。
俺がこの話を蹴るとでも思っていたんだろうか?
まあ話の内容によっては蹴っていたけど……。
今回の話、王都を迷宮の管理下に置いている事を知らない第二王子からすれば、ただ迷宮の攻略許可を与えただけのように見えるが、実態は違う。
俺が視線を向けると、マスカットさんはそれに気付いたのか少しだけ慌てたような表情を浮かべると、そっと視線を逸らした。
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