グレナ・ディーン学園長の説得①

 マスカットさん達との話し合いも無事終わり、正式にヴォーアル迷宮の攻略許可を貰う事が内定した。

 土地を接収した現国王も周りの大臣達も刷新されそうだし、接収された土地も戻ってくる。

 話合いは大成功。万々歳だ。


 後はティンドホルマー魔法学園の理事会、そしてグレナ・ディーン学園長を説得するだけなんだけど……。

 本当にマスカットさん達に任せても大丈夫なんだろうか?


 ハッキリ言って不安しかない。


 マスカットさん達との話し合いを終えた俺は、地下に設置してある迷宮へ赴いた。

 王都ストレイモイは既に俺の迷宮の支配下にある。

 迷宮に入り込んだ俺は、早速、今この迷宮を管理している屋敷神に呼びかける。


屋敷神ウッチー。今大丈夫?」


 すると、目の前に光の粒が集まり屋敷神が顕現する。


「これはこれは悠斗様。私をお呼びでしょうか」


 屋敷神は胸に片手を置きながらお辞儀する。


「うん。ティンドホルマー魔法学園のグレナ・ディーン学園長に会いたいんだけど、面会の予約を取ってくれないかな?」


「畏まりました。ティンドホルマー魔法学園のグレナ・ディーン学園長との面会ですね。少々お待ち下さいませ」


 屋敷神はそう言うと、俺の目の前から姿が掻き消える。

 そして数十秒後、再び俺の前に姿を現した。


「お待たせ致しました。グレナ・ディーン学園長との面会予約が取れました。悠斗様との面会であれば、何時でも構わないとの事ですが如何致しますか?」


「も、もう学園長との面会予約を取ってきたの⁉ 早くない?」


 俺が驚きの声を上げると、屋敷神はさも当然といった表情を浮かべる。


「これも悠斗様が王都を迷宮の支配下に置いたからこそできた事です。私の力ではございません。迷宮を支配下に置いていれば、この位の事であれば誰でも簡単に行う事ができます」


 いや、流石にそれは無理だと思う。


「そ、そう。それじゃあ、学園長にこれから会いに行くって伝えておいてくれるかな?」


「畏まりました。それでは私についてきて下さい」


 屋敷神の後について歩くと、一つの家が見えてくる。

 そして中に入るとそこには数え切れない程の扉があった。


「屋敷神……。これは……」


「そうでした。悠斗様がこの家に入るのは初めての事でしたね。この家には様々な場所に繋がる扉が設置してあります。これも王都ストレイモイを完全に支配下に置いたからこそできた事。ティンドホルマー魔法学園へ繋がる扉はこちらですね……」


 屋敷神が扉を開くと、扉の向こう側に魔法学園の建物が見える。


「この扉は迷宮の管理者たる我々にしか見る事ができません。また迷宮への出入りは私が厳密に管理しております。向こう側からこちらの景色を見る事はできませんし、万が一迷い込む事もありませんのでご安心下さい」


 なる程、迷宮の中に王都に繋がる扉があるとは……。

 不思議なものだ。


「それでは、扉を潜りティンドホルマー魔法学園に向かいましょう」


「うん」


 俺達が扉を潜ると、ティンドホルマー魔法学園の正門前に降り立った。

 どうやらこの扉は正門前に設置している様だ。


「それでは悠斗様。こちらで少々お待ち下さい」


 そう言うと屋敷神は歩いて、正門に立っている門番な下に向かっていく。


 屋敷神の事だから、直接学園長に会いに行くものだと思っていた。


 突然正門に現れた俺達に門番達が警戒の色を見せる。

 しかし、屋敷神が手の平サイズの何かを門番達に見せると門番達が驚きの表情を浮かべると、警戒を解いた。


 一体何を見せたのだろうか?


「さあ悠斗様。グレナ・ディーン学園長の下へと参りましょう」


「屋敷神。今門番さん達に何を見せたの?」


 よく見えなかったが、何かカードの様なものを見せていた筈だ。


「ああ、これの事ですね? これはグレナ・ディーン学園長より頂きました通行証です。特別な方を招く時のみ使われるものの様でして、門番にこちらを提示する事でいつ如何なる時であろうとティンドホルマー魔法学園に入る事ができるそうです。その様にグレナ・ディーン学園長は申しておりました」


 なる程、通行証か……。

 便利な物だ。しかし、グレナ・ディーン学園長に用がある時にすぐに会えるのはありがたい。


「さて、グレナ・ディーン学園長がお待ちです。私について来て下さい」


 俺達は正門を潜るとグレナ・ディーン学園長の待つ学園長室へと向かう事にした。


 ティンドホルマー魔法学園に来るのは久しぶりだ。

 子供達は元気にしているだろうか?


 学園長室のある二階へ続く階段を上がり、廊下からグラウンドを見渡すと、的に魔法を撃ち込んでいる生徒達の姿が見える。


 グラウンドに視線を向けていると、時より激しい轟音と眩い光が的に向かって飛んでいくのが見える。


「あれは……」


 子供達も元気にやっている様だ。

 しかし、あの威力の魔法を的に向かって放つとは……。

 これではまた学園長から請求されるかもしれない。


「屋敷神……。時間がある時、子供達に魔法の使い方を教えてあげて……」


「悠斗様自らお教えになられた方が子供達も喜ぶのではないですか?」


「それは、そうなんだろうけれども……。屋敷神……。俺じゃあ駄目なんだ」


 俺では確実に子供達を甘やかしてしまう。それは子供達の為にならない。


「ゆ、悠斗様……」


「大丈夫。俺は子供達の成長した姿を側で見れればそれでいいんだ。それで……」


 俺はグラウンドで魔法を使う子供達を目に焼き付けると、学園長室へと向かう事にした。

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