ドレークとの戦い⑥

「ふふふっ。こんなに馬鹿にされたのは久しぶりです……。こんなに馬鹿にされたのは久しぶりですよっ!」


 ドレークさんが憤怒の表情をこちらに向けてくる。


 ち、ちょっと言い過ぎただろうか?

 で、でも廃坑内を支える柱をぶっ壊したのはドレークさんだし、ここでちゃんとその事を認識して貰わないと大変な事になる。ま、まあ柱の一本を破壊したのは俺だけど……。


 と、というより、そんな事を言っている場合じゃない。廃坑内は柱を壊した事により現在進行形で崩落の危機を迎えている。あと七本の柱が廃坑内を支えているがもはや時間の問題……。

 そして、その崩落に巻き込まれるのは俺達だ。


 仲裁に入ろうとしてくれたヨルズルさんに視線を向けると、憤怒の表情を浮かべたドレークさんの横顔を見たのか青ざめた表情を浮かべている。


 全く使えないギルドマスターだ。

 しかし、今は時間が惜しい。


「ドレークさ……」


「わかりました。悠斗君……。これで最後にしましょう。〔悪魔召喚〕……。出て来なさい! 貪欲のマモン!」


 俺がドレークさんに話しかけようとすると、ドレークさんが話を被せてきた。

 今の言い様、どうやらこれが最後の勝負らしい。


 ドレークさんが声を上げると、廃坑内を尋常じゃないプレッシャーが襲う。


 そして突如、ドレークさん近くの空間が罅割れると、人の胴体に鳥の頭、そして首に赤いマフラーの様な物を巻いた化け物が次々と現れる。そして、ドレークさんが何処からともなく武器や防具を取り出すと召喚した悪魔がそれを手に取り装備し出した。


「あ、あれは!」


 ドレークさんが取り出し悪魔が装備していく武器や防具を眺めると、その全てにユートピア商会のエンブレムが付いている。


 あ、あれは日本神話において、スサノオノミコトが八岐大蛇の尾から手に入れたとされる〔天叢雲剣〕!


 ああ、あれは北欧神話に登場する神オーディーンが持つ敵に投げ放つと絶対に外れる事なく威力は絶大。敵を貫いた後にはオーディーンの手に戻って来るとされる〔グングニル〕!

 〔ダモクレスの剣〕に〔ロンギヌスの槍〕……。ヒンドゥー神話の中でも最も強力な武器として有名な概念的な武器で、生けとし生けるものの全てを根絶やしにし、万物を破壊する事ができるとされる〔パシュパラストラ〕を模したネタ武器まで……。


 ど、どれだけユートピア商会で作成したネタ武器が好きなんだ……。

 ここまでリスペクトされると一周廻って、ドレークさんの事が気になってくる。


 戸惑いの表情を浮かべていると何を勘違いしたのか、ドレークさんが高笑いをあげる。


「ハハハハハッ! 召喚した悪魔の数は100体! そして、その全てが私の持つ全ての武器を身に纏っている……。私を怒らせた罪、存分に味わいなさい!」


 ドレークさんが召喚したマモンという悪魔が装備を着け終ると、こちらに向かってきた。


 こうなっては仕方がない。

 最後の手段を用いるしかないだろう。

 正直言ってこの方法は取りたくなかった……。

 というより、この方法をとる日が来るとは思っても見なかった。


 俺は収納指輪から一つのスイッチを取り出すと右手に握る。


 このスイッチは、ロキ監修の半径1km以内にあるユートピア商会謹製の武器や防具を破壊する為のスイッチ……。

 本来であればこんなスイッチ使いたくはない。


 販売時の契約によりユートピア商会側の理由で販売した商品を破壊する場合、販売時の台帳を基に販売した商品の弁償をしなければならないという条項が付けられている。

 それにネタ武器とはいえ、神達と一緒に試行錯誤を重ね作り上げた武器を自分の手で壊すのは忍びない。


 しかし今は非常時、悪魔がユートピア商会謹製の武器や防具を身に纏い、こちらに向かって攻撃を仕掛けてくる以上は仕方がない。

 弁償といっても、販売台帳にある元の売主に対して武器や防具の弁償をするだけだ。そんな大した事ではない。


 俺がロキ監修の武器・防具破壊スイッチを押そうとすると、意思とは関係なく指が勝手に止まる。

 な、何だ……。このスイッチを押す事で何が起こるというのだろうか……。

 スイッチを押そうとすると脳裏にロキの笑顔が思い浮かぶ。非常に嫌な予感しかしない。


 しかし目の前には100体を超える悪魔がネタ武器を持ち迫って来ている。


 ええい、儘よ!


 俺がスイッチを押すと同時に、〔髪飾り(虫の知らせ)〕が震え出す。


『武器が爆発……余波で廃坑が崩落する……直ぐに影転移で逃げた方がいい……』


「えっ!?」


 すると、ドレークさんが召喚した悪魔、マモンの持つネタ武器が光り出した。

 眩い光が廃坑内を明るく照らしていく。


「なっ、何が起こっているのです!?」


 そして、ネタ武器が罅割れたかと思うとドオーンッ!という音を立て爆発した。

 廃坑内に爆風が発生し、ネタ武器を手にしていた悪魔ごと廃坑を支えている柱を崩していく。


「わ、私の悪魔が……。私の武器がァァァァ!」


 俺は咄嗟にドレークさんとヨルズルさん、レイさんとマークさんを〔影収納〕に収納すると〔影転移〕でヨルズルさんの別荘近くに転移する。

 そこにヨルズルさんの別荘はなく代わりに大きな大穴が空いていた。

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