廃坑から出てみると……

 呆然とした表情で大穴を見つめていると、地面に震動が走る。

 よく考えたらヨルズルさんの別荘があった場所は廃坑の真上。

 〔影転移〕する場所を間違えてしまった。ここは危険だ。いつ沈んでもおかしくはない。


 沈んでしまったヨルズルさんの別荘については仕方がない。

 元々、廃坑の真上に建てていた様だし、偶々、今というタイミングで別荘が廃坑内の崩落の影響により陥没してしまっただけで、真下にあれだけ広い空洞があればそう遠くない将来、別荘は廃坑内に沈んでいた筈だ。

 廃坑の真上に別荘を建てていた事を認識していたみたいだし、そんな大事な物も置いてないだろう。


 それに廃坑内の調査もSランク冒険者ドレークさんの生存も確認できた。


 今回の事は、きっとタイミングや廃坑内で強制勝負を持ちかけてきたドレークさんが悪いのだ。

 多分、俺はそんなに悪くない。


 寧ろ今回の件で、俺は誓いを立てた。

 あと一ヶ月、ロキの謹慎期間を延長しようと……。

 教皇のソテルが発狂しようが知った事ではない。

 あの爆発、下手をしたら死んでいた。俺は命の危険に晒されたのだ。

 武器や防具に爆発する仕掛けを施したのであれば、それを事前に教えてほしい。


 ヨルズルさんの別荘跡地から少し離れると、〔影収納〕に収納していたドレークさん達を出してあげる事にした。俺は何とも思わないが、暗い〔影収納〕の中に長時間居ると精神をやられてしまうかもしれない。


「こ、ここは……?」


「私達は廃坑内にいた筈……。一体何が……」


 レイさんとマークさんは気絶している様だ。

 俺に気付いたヨルズルさんが声をかけてくる。

 ドレークさんは……。何というか呆然とした表情を浮かべていた。


「ゆ、悠斗君。ここは一体……」


「こ、ここはヨルズルさんの別荘跡地……。から少し離れた所です」


「別荘跡地……? ッ!」


 何かに気付いたヨルズルさんは、別荘跡地に向かって走り出す。


「あ、危ないですよヨルズルさん! まだ崩落の影響で……」


「私の事は放っておいて下さい! 私には確認しなければならない事があるのです。ああっ……」


 そして、別荘跡地に辿り着くとヨルズルさんはゆっくり膝を着きへたり込んだ。

 余程、別荘を失った事がショックだったのだろう。

 ヨルズルさんの視線は、陥没の影響によりポッカリ空いてしまった大穴へと向いている。


 初めは、なんでこんな所に別荘を建てたのだろうと思っていたが、ヨルズルさんの様子を見るに、もしかしたらこの場所はヨルズルさんにとって、とても特別な場所だったのかもしれない。


 余りの居た堪れなさに心がやられそうだ。


 何故か一緒に付いて来たドレークさんも呆然とした表情を浮かべ、最初に俺を切りつけた剣を取り出しては、収納魔法で仕舞っている。


 一体何をやっているんだろう?

 不思議に思いドレークさんに視線を向けていると、ドレークさんまで急に膝から崩れ落ちる。


「ど、どうしたんですか? ドレークさん!」


 だ、誰かがドレークさんに攻撃を? 一体誰がっ!


「わ、私の武器が……。私の防具が……」


 な、何だ。そんな事か……。

 ドレークさんの持っていた武器や防具はロキの作成したスイッチにより破壊してしまった。

 恐らくドレークさんは今、大量の武器と防具を失ってしまった事に意気消沈としているのだろう。


 でも安心してほしい。

 ネタ武器とはいえユートピア商会で購入して貰った商品。

 あのスイッチで破壊したからには、ちゃんと補償するつもりでいる。

 ユートピア商会に帰れば、ネタ武器を販売した際、誰にいくらで売ったのかが記載されている台帳がある。あのネタ武器や防具は元々、一点もの。その性能から転売禁止で売りに出したものだ。


 正直、こんなに大量のネタ武器をドレークさん一人に売りに出した覚えは全くないが、きっと気のせいだろう。何せ、ドレークさんはSランク冒険者。他の人とは稼ぎが違う。それにネタ武器を売り出した当時は商業ギルドと揉めていた。記憶がないのはそのせいだと思う。


「大丈夫ですよドレークさん。契約に基づき武器や防具はユートピア商会が補償します。安心して下さい」


「ほ、本当ですか……。本当に補償してくれるんですか!」


 当然の事だ。壊してしまった以上、契約に基づき補償する。


「勿論です」


「ありがとう。本当にありがとう……」


 俺の言葉にドレークさんが涙を流す。


「泣かないで下さいよ。ドレークさん」


 片目と口にしている派手なメイクが涙に滲みかなり怖い表情になっている。

 今直ぐにでも泣き止んでほしい。


「さあ、ここは危険です。皆でエストゥロイ領に帰りましょう」


 ヨルズルさんは大切な場所を失い、ドレークさんは大量の武器と防具を失ってしまった。

 そして俺も折角作った武器や防具を大量に破壊し精神的なダメージを負っている。

 皆疲れている。今日はもう帰ろう。


 俺は茫然とした表情を浮かべているヨルズルさんと、気絶しているレイさんにマークさん。

 そして涙を流し喜んでいるドレークさんを〔影収納〕に収納すると、ヨルズルさんの別荘跡地を後にした。

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