ドレークとの戦い②

「だ、大丈夫ですか!?」


 全弾被弾するとは思いもしなかった俺は呆然とした表情でドレークさんに視線を向ける。

 ドレークさんはダメージが大きい為か立ち上がる様子がまるでない。


 い、勢い余って殺してしまっただろうか?


 俺が近寄ろうとすると、全弾被弾し倒れたままだったドレークさんが少しフラつきながらも、ゆっくり立ち上がる。


 よかった。少しふらついている様だけど流石はSランク冒険者、無事だった様だ。


「大丈夫ですか? 大丈夫ですかって……? 大丈夫な筈がないでしょう!」


 しかし沸点は低い様だ。

 いきなり斬り付けられ、炎に焼かれたから銃弾でお返ししただけなのに……。

 反撃しただけにも拘わらず滅茶苦茶キレている。


 ドレークさんは、空中から瓶の様なものを取り出すと蓋を開け中の液体を飲み込んだ。

 すると〔影弾〕により負った身体中の傷が塞がっていく。


 あれは……。万能薬?


「危ない所でした。何発か被弾してしまいましたが、これがあれば問題ありません。それにしても君には驚かされます……。あんな曲芸で私にダメージを与えるなんて……。これは舐めてかからない方がよさそうですね……。遊びはここまでです! 〔アイアースの盾〕!」


「ア、アイアースの盾!?」


 アイアースの盾、それは革細工の名工テュキオスが7枚の牛革を重ねた上に青銅版を重ねて作ったとされる櫓の様な巨大な盾を模して俺が作成したネタ防具である。


 王都のユートピア商会設立時、目玉商品が欲しくてギリシャ神話の伝説の武器や防具を模した魔道具を数多く作成したが、まさかこんな所で目にするとは……。盾の右端にユートピア商会のエンブレムが光っている。


 因みにこの〔アイアースの盾〕。伝承になぞり作成した為、槍や投石の攻撃には強いがそれ以外の攻撃には非常に弱い。今更ながらそんな性能の防具がよく売れたなと思ってしまう。


 ドレークさんは空中からやぐらの様な巨大な盾を取り出すと、盾に隠れて笑い出す。


「ふふっ、ふふふっ! 君が何をしたかはわかりませんでしたが、先程受けたダメージから考察するに、君が私に放った攻撃は投擲……。いえ、投石による投擲と見ました。しかし、その投石による攻撃はこの〔アイアースの盾〕の前では無意味です!」


 あ、あんなクソ性能の盾を出して威張れるなんて……。ちゃんと説明書を読んでくれたのだろうか。

 俺はアイアースの盾に向かって手の平を向けると手の平サイズの〔影弾〕を連射する。


「さあ、先程のお返しをさせて頂きま……。な、なにっ!?」


 するとアイアースの盾は、俺の放った手の平サイズの〔影弾〕の連射によって穴が開き、ボロボロの姿に変わっていく。


 所詮は話題作りの為に作ったネタ防具。やはり槍と投石以外の攻撃に弱い。


「わ、私のアイアースの盾がっ!」


 ドレークさんは〔影弾〕の連射により盾としての機能を無くしたアイアースの盾をしまうと、空中から盾を出現させる。


「よ、よくも私のアイアースの盾をこんな姿に……。これならどうです! 〔アイギスの盾〕!」


 アイギスの盾、それはギリシャ神話に登場する防具で、主神ゼウスが女神アテーナーに与えたものとされ、ありとあらゆる邪悪・災厄を払う魔除けの能力を持つとされる盾を模して俺が作成したネタ防具である。


 再び出現したネタ防具に驚きが隠せない。

 このアイギスの盾も王都のユートピア商会設立時に作成した魔道具の一つで、全魔力の半分を盾に込める事でその盾を見た者を石化させる効果や完全に攻撃を防ぐ効果があるが、全魔力の半分を盾に込めなければ普通の防御力しかないただの盾。

 そしてただの盾に俺の〔影弾〕は防げない。


「ふふふっ! アイアースの盾が壊れチャンスとでも思いましたか!? 甘いんですよ! この〔アイギスの盾〕さえあればもう君の攻撃は喰らいません。さあ今度はこちらの番で……。なあっ!」


 ドレークさんの持つ〔アイギスの盾〕に〔影弾〕が当たるや否や、〔アイギスの盾〕が凹み弾け飛んでいく。


「な、何故! この盾には全ての攻撃を防ぐ能力があるのではなかったのですか!?」


 どうやらちゃんと説明書を読んでいなかったらしい。


「その盾は全魔力の半分を込めなければ使えませんよ」


「ぜ、全魔力の半分……。そんな……。そんな盾全然使えないではありませんか!」


 そう。所詮はネタ防具。絶対絶命のピンチ時には役立つかもしれないが、戦闘中に全魔力の半分を盾に注ぐなんてアホのする事だ。

 多分、この魔道具を作った時は、テンションがおかしかったんだと思う。


 それにしても、ユートピア商会設立時に作ったネタ防具を二つも持っているとは……。

 もしかしたらまだまだ持っているかもしれない。


 俺はドレークさんに〔影弾〕の連射を続ける。


「くっ! 調子に乗るんじゃありませんよ!」


 ドレークさんが〔影弾〕から逃れる為、この地下空洞を支える柱の一つに身を隠す。


「あっ!?」


 するとその柱に〔影弾〕が直撃した。

 俺が撃ち込んだ手の平サイズの〔影弾〕は数十発。

 ただの柱が〔影弾〕の貫通力に勝てる筈もなく、柱がどんどん削れていく。


 ヤバいと思い〔影弾〕を止めた時にはもう遅く。そこには瓦礫の山があった。

 そして……。


「11本ある柱の一つがっ! な、なんて事をしてくれたんですかっ!」


 支えを失った柱がドレークさんに向かって傾いていく。


「ぐっ! こんな所で死ぬ訳にはいかないんですよ! 〔アイギスの盾〕!」


 どうやってかは知らないが先程飛んでいった〔アイギスの盾〕をちゃんと回収していたらしい。

 ドレークさんが〔アイギスの盾〕に魔力を込めると、ドレークさんを覆う様にバリアが展開された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る