ドレークとの戦い③

「わ、私を守りなさい! アイギス!」


 ドレークさんが〔アイギスの盾〕を手にし魔力を込めると、ドレークさんを包み込む様に八枚の羽状のバリアが展開される。

 その瞬間、ドレークさんのいる場所に土台を失い破損した柱の瓦礫が降り注いだ。

 廃坑内を支える柱の瓦礫がドレークさんに降り注ぐ中、俺は安堵の表情を浮かべる。


「よ、よかった……」


 ちゃんと〔アイギスの盾〕が発動した様だ。

 持ち主の全魔力の半分を込める事で発動から10秒はあの羽状のバリアが護ってくれる。

 ネタで作った防具とはいえ発動しなかったらどうしようと思っていた。

 廃坑内を支える柱の一つだ。

 〔アイギスの盾〕なしに瓦礫が降り注げば、ドレークさんも無事で済まない。


 柱が瓦礫となり、ドレークさんに降り落ちる。

 廃坑内に砂煙が舞う中、ドレークさんが呟いた。


「……よくありませんよ」


 瓦礫の山に視線を向けると、〔アイギスの盾〕を持ったドレークさんが瓦礫から這い出てくる。

 纏っていたフード付きの黒い外套は初めに放った〔影弾〕によりボロボロとなり、焦燥とした表情を浮かべている。随分と戦う意思が失せてきたみたいだ。


 まあそれも当然だろう。何せ〔影弾〕に貫かれ、〔アイアースの盾〕はボロボロになり、〔アイギスの盾〕の発動により全魔力の半分を消費させられてしまったのだ。俺がドレークさんの立場なら確実に戦意を失う。


「全く……。まさかアイアースの盾を壊され、アイギスの盾により全魔力の半分を失うとは思いもしませんでしたよ」


 ドレークさんは〔アイギスの盾〕を消すと、金色に輝く一本の槍を手元に出現させる。


「これはアッサルの槍……。これだけは出したくなかった……」


 アッサルの槍。別名ゲイ・アッサルというこの武器は、ケルト神話の太陽神ルーが、父キアンを殺したトゥリル・ビクレオから賠償として受け取った槍で、『イヴァル』と唱えて投げれば必ず命中し、『アスィヴァル』と唱えれば持ち主の元に戻ってくる特性を持った槍。……を模して俺が作成したネタ武器だ。


 しかし〔アッサルの槍〕は他のネタ武器とは違う。

 その特性は必殺必中。


 ケルト神話でも峰ばった黄金のアッサルの槍、ひとたび血をこぼせば後誰も生かしてはおかず、イヴァルと唱えて投げればけっして逸れないこと疑うべくもなく、アスィヴァルと呼べばたちどころに戻ってくると言わしめた必殺必中の槍。


 これはヤバいかもしれない……。


「これはアッサルの槍……。狙った者は逃がさず、狙った相手を確実に仕留める必殺必中の槍です。これだけは使いたくありませんでしたが仕方がありません」


 ドレークさんは〔アッサルの槍〕を掴むと刃先を俺に向けてくる。


「これでお終いです。いきますよ! イヴァル!」


 ドレークさんが『イヴァル』と叫ぶと、〔アッサルの槍〕に光が宿る。

 そして、その光り輝く〔アッサルの槍〕を俺に向かって投擲した。


 これから投げると言われて投げられた槍。

 当然避ける事ができる……。普通の人はそう思う事だろう。


「えっ……」


 しかしこの槍は『イヴァル』と口にした者が狙った箇所に確実に当てる事のできる槍。

 投擲のタイミングを読んで避けたつもりが、気付けば俺の腹には深々と〔アッサルの槍〕が突き刺さっている。流石は俺の作った必殺必中の槍。こんな性能の槍を作った俺を誉めてやりたくなる。


 しかし、驚いたのはそれだけではない。

 最初に受けた斬撃と同じで、何をされたのか全く分からなかった。

 そう。〔アッサルの槍〕が投擲されてすぐ、その姿を消したのだ。


「アッサルの槍の一撃を受け生きているとは……。君は本当に人間ですか?」


 全く失礼な人だ。

 人外みたいな顔した自分の事は棚に上げ、俺の事を人外呼ばわりするとは……。


 俺の腹に深々と刺さる〔アッサルの槍〕を抜くと、お返しとばかりに『イヴァル』と呟きドレークさんに投げ返した。

 この槍の致命的な欠陥は持ち主の登録をする事ができない所にある。

 簡単にいえば、〔アッサルの槍〕を持ち魔力を注ぎながら『イヴァル』と口にすれば簡単に相手と同じ事ができる。


「なっ! 腹を貫かれてなお、アッサルの槍を投げ返してくるとは……。しかし、私にアッサルの槍は効きません! 収納!」


 ドレークさんがそう呟くと、金色に光る必殺必中の槍が空中に吸い込まれ消えていく。

 収納……。恐らく俺の影収納と類するスキル。


 なる程……。ドレークさんが空中から物を取り出したり、しまったりする事ができたのは収納スキルがあったから。そう考えれば今までの事も説明がつく。


 しかし、ドレークさんもまだまだ甘い。

 必殺必中の槍がそんなスキルで本当に防ぐ事ができると思っているのだろうか?


「さあ次行きますよ! 〔ゲイボルグ〕!」


 ゲイボルク。ケルト神話の英雄クー・フーリンが使ったとされる槍で、敵に向かって投げると無数の鏃が飛び出し敵を倒す伝承に登場する槍だ。当然、それを模して俺が作成した槍の一本である。


 しかし、ドレークさんにその槍を投げる余裕があるのだろうか?


「グッ! ギャァァァァァ!」


 ドレークさんが〔ゲイボルク〕を空中から取り出した瞬間、収納魔法に収めた筈の〔アッサルの槍〕がドレークさんの腕に突き刺さる。

 〔アッサルの槍〕は必殺必中を目的に俺が作成したネタ武器。収納魔法に収めた位で、それから逃れる事はできない。〔アッサルの槍〕に腕を刺し貫かれたドレークさんは悲鳴を上げた。

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