ヨルズルの依頼④

「お待たせしましたヨルズルさん!」


 俺が冒険者ギルドの前に到着すると既にヨルズルさん達が待っていた。

 ヨルズルさんの隣には赤と黒のローブを身に纏い、仮面で顔を隠した人物が立っていた。


「やあ、悠斗君。準備は済んだかい?」


「はい!」


「そうか。それは良かった」


 俺が返事をするとヨルズルさんは笑顔を浮かべる。

 待ち時間に少し遅れてしまったみたいだけど、流石はギルドマスター。懐が深い。


「そうだ。出発の前に彼等の紹介をさせて貰おう」


 ヨルズルさんが視線で合図すると、後ろに控えていた赤と黒のローブを身に纏い、仮面で顔を隠した怪しい人達が声をかけてくる。


「やあ、君がSランク冒険者の佐藤悠斗君かい? 私はAランク冒険者のレイだ。よろしくね」


「仮面越しですまないな。俺はAランク冒険者のマークだ。本日はよろしく頼む」


 仮面で顔を隠していた為、怪しい人達だと決めつけてしまっていたが、話してみると意外と気さくな人たちの様だ。しかし、この声何処かで聞いた事があるような……。


「Sランク冒険者の佐藤悠斗です。本日はよろしくお願いします」


「ああ、よろしくね」


「よろしく頼む」


 挨拶と共にレイさんとマークさん握手を求めてきたので、軽く手を握り返す。

 するとレイさんとマークさんは戸惑った様な声を上げた。


「「ぐっ……」」


 一体何だろう。

 握手を握り返しただけなのに、何やら戸惑っている様な声が上がった様な……。

 俺が不思議なものを見るような表情でレイさんとマークさんを見ていると、『なにお前達は余計な事をしているんだ』と言わんばかりに、ヨルズルさんレイさんとマークさんに視線を向けると少し慌てた様な声音で出発を促してきた。


「さ、さあ、自己紹介も済んだ事だし、早速、廃坑調査へ向かおうではありませんか!」


「そうですね。廃坑から戻ってこないSランク冒険者の安否も気になりますし早速向かいましょう」


 俺は冒険者ギルドを後にすると、ヨルズルさん達の先導の元、廃坑調査へと向かう事にした。


 廃坑調査に向かう事にしたと言っても、廃坑はエストゥロイ領の外れにあるらしい。

 俺達は馬車に乗り込むと、問題の廃坑へと出発した。


「えっと……。これから行く廃坑ってどんな所なんですか?」


 馬車に乗ってからというものの、ヨルズルさんを初め、レイさんもマークさんも全くといっていいほど喋らなくなってしまった。

 初めて会った時はあんなにも気さくに自己紹介してくれたのに……。


 無言の重圧に居た堪れなくなった俺が声を発するとヨルズルさんが応えてくれる。


「そうですね……。これから行く廃坑は通称、冥府の扉と呼ばれる危険な所です。廃坑内は廃坑とは思えない程広く、どこかの地下空洞と繋がっています。場所によっては見えない致死性ガスや酸欠、眼球角膜を損傷させる腐食性ガスが発生しているので注意が必要です。廃坑内は蓄光石と呼ばれる光る石が散りばめられている為、意外と明るくガスと崩落に気を付ければ問題ないと思います」


 なる程、廃坑内は致死性、腐食性のガスや崩落の危険があると……。

 Sランク冒険者も廃坑調査から戻って来ていないし、今更ながらとんでもない依頼を受けてしまったかもしれない。


 まあ、俺にはすべての状態異常を無効化する〔状態異常無効の指輪〕や水晶の数だけ即死、部位欠損を防いでくれる〔身代わりのロザリオ〕がある。

 廃坑内で起こる大体の事であれば対処可能だろう。


 そんな事を考えていると、久しぶりに〔髪留め(虫の知らせ)〕が震えだす。


『廃坑内に入ってすぐ……崩落する……悠斗……危険』


 な、なる程……。

 髪留めに宿っている精霊さんは廃坑内に入るなと言っている。

 これは、ヨルズルさん達にも伝えた方がいいんじゃ……。


 俺は精霊さんにお礼を言うと、ヨルズルさんに話しかける。


「ヨルズルさん。どうやら廃坑内に入って直ぐ廃坑が崩落するみたいなんですが、どうしましょうか?」


「廃坑が崩落? 一体なぜそんな事がわかるんだい?」


 俺が〔髪留め(虫の知らせ)〕について話そうとすると、またもや髪留めが震えだした。


『その人達に私の事は言っては駄目……』


 〔髪留め(虫の知らせ)〕に宿る精霊さんからのストップ要請。

 精霊さんに言われては仕方がない。


「え~っと、Sランク冒険者としての長年の感といいますか……。なんといいますか……」


 俺が苦しい言い訳をすると、ヨルズルさんが笑い出す。


「ふふふっ、悠斗君。廃坑の話を聞いて怖くなるのはわかりますが、私達が入って直ぐ崩落するなんてそんな事ある訳がないじゃないですか。考えすぎですよ。おや、馬車はここまでの様ですね。ここからは歩いて廃坑へと向かいます。途中、私の別荘があるのでそこで休憩してから向かいましょう」


 ヨルズルさんがそう呟くと、御者がここで降りるよう声をかけてくる。


「さあ、まずは私の別荘へと向かいましょう。私の話を聞いた悠斗君も少し不安に思っているようですし、廃坑の調査前に気分を整える事はとても大切です。私オリジナルのハーブティーを振る舞わせて頂きますよ」


 ヨルズルさんが俺に向かって片目でウインクをしてくる。

 どうやら気を遣わせてしまった様だ。

 仕方がない。廃坑には〔影纏〕で完全ガードしてから入る事にしよう。

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