ヨルズルの依頼③

「え~っと。ルチアさん……。なんでここにいるんですか? そこに捕えられている人達は……」


「は、はい。とても長いお話になるのですが……」


 冒険者ギルドでヨルズルさんの依頼を受けた俺が一度邸宅に戻ると、そこには王都ストレイモイの教区教会でソテルとの入れ替わりで司教となったルチアさんが待っていた。しかも、多くのならず者を縛り上げた上で……。


 聞いた所によると、サンミニアート・アルモンテ聖国の教皇となったソテルの命令により、俺の御付きに任命されたらしい。ここ一ヶ月ロプト神ロキから神託を受け取る事ができなかった教皇ソテルが発狂し、少しでもロプト神ロキの情報を得る為にルチアさんを御付きとして遣わせた様だ。

 といっても、ずっと俺の御付きをする訳ではない。


 ロキの動向を調べる為、俺のいる所に付いて回るただそれだけだ。

 基本的には、その領にある教区教会で働く事になる。


 因みに、そこで呻いているならず者達は、ルチアさんがエストゥロイ領に移動する過程で、盗賊団と思しき輩に襲われ見事撃退。捕えた彼等を風精霊シュンカとスズカの力で浮かせここまで連れて来たらしい。

 それにしても……。よりにもよってルチアさんは鎮守神に捕えたならず者達を引き渡している。鎮守神に引き渡した以上、人形化の刑は避ける事ができないだろう。


 俺は彼等に向かい合掌をする。


 因みにロキは二ヶ月間の階層立入禁止処分を下している為、あと一ヶ月間は神界から戻ってくる予定はない。恐らく今まで定期的に降ろしていた神託も不貞腐れて降ろすのを止めているのだろう。


「そ、そっか……。ああ、ロキの階層立入禁止処分はあと一ヶ月だから、神託はそれ以降に再開されると思うよ?」


 というより、階層立入禁止処分の期間が過ぎたら直ぐにロキを召喚し、教皇ソテルへの神託を再開する様に説得しよう。あの教皇ソテルを発狂させたままにしておくなんて事はできない。次は一体どんな事を仕出かすのかと心配になる。


「そうですか。それは安心しました。ソテル様をあのままにしておくのはとても心配でしたので……」


 ロキからの神託を曲解し、教会の権威を失墜させる為に行動したり、異端審問官を皆殺しにした前科を持つ教皇だ。その気持ちはよく分かる。そんな人に教皇を任せてしまっていいのだろうか?


 俺は頭を横に振ると、考える事を止める。

 狂人の考える事はわからない。考えるだけ時間の無駄だ。


 それにヨルズルさんとの待ち合わせの時刻も迫っている。

 そろそろ、ここを出ないと本格的に間に合わなくなりそうだ。


「ソテルさんへの報告は任せたよ。俺は今から廃坑の調査依頼があるからまた後でね」


「はい。悠斗様もお気をつけて……。それで、悠斗様にお願いが……」


 うん? お願い?


「厚かましいお願いとは思いますが、王都にいた時と同様に、この邸宅に住まわせて頂けませんか?」


 なんだ。そんな事か。

 ルチアさんはユートピア商会の土地が接収される迄俺の邸宅に住んでいた。

 ユートピア商会の土地接収後もそれは変わらず、ルチアさんの働く教区教会に迷宮へと続く階段を設置し住んでいる。


「うん。もちろん大丈夫だよ」


 俺がそう言うと、ルチアさんが笑顔を浮かべてお礼の言葉を述べた。


「ありがとうございます!」


 ルチアさんは一度この国の貴族に攫われかけている。

 彼女にとって安眠する事の出来る場所の確保は急務だろう。


「じゃあ、今から廃坑の調査依頼に行ってくるね。鎮守神も後の事は頼んだよ!」


「はい。お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 鎮守神に手を振ると俺はヨルズルさんの待つ冒険者ギルドに向かう事にした。



 その頃、冒険者ギルドで佐藤悠斗抹殺計画の準備を進めているヨルズルはというと……。


「おかしいですね。廃坑近くを根城としている盗賊団と連絡が取れません。これでは計画に支障が……。私の奴隷達を大っぴらに動かす訳にもいきませんし困りましたね……」


 子飼いのAランク冒険者と元Sランク冒険者の手配は終わったものの、廃坑近くを根城としている盗賊団と連絡が取れなくなっていた。


「佐藤悠斗が戻って来るまで時間もありませんし、どうしたものか……」


 全く……。肝心な時に使えない盗賊団ですね。

 しかし連絡が取れないのであれば仕方がありません。


「仕方がありませんね」


 万全を期して、廃坑周囲に盗賊団を配置して置きたかったが仕方がない。


 既に元Sランク冒険者を廃坑内に待機させている。

 廃坑内にはモンスターが棲みついているらしいが、腐っても元Sランク冒険者。

 まあ大丈夫だろう。

 それに私には子飼いのAランク冒険者もついている。


 元Sランク冒険者からの提案ですし、偶然を装い彼ごと佐藤悠斗を廃坑内に閉じ込める。

 この策で行きましょう。


 彼は〔収納魔法〕と〔悪魔召喚〕スキルの使い手。

 廃坑内に閉じ込めたとしても問題ないでしょう。

 それに、佐藤悠斗には事前に廃坑内にSランク冒険者が取り残されている可能性を示唆しておいた。

 最悪、佐藤悠斗が生き残ったとしても、私が計画した事だとはわからない。


 ヨルズルはニヤリと口を歪める。


「そろそろ悠斗君が来る時間か……」

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