その頃のギルマスとオーランド王国の女王

 エストゥロイ領の冒険者ギルドに200人を超えるCランク冒険者が誕生してから数日後。

 冒険者ギルドのギルドマスター、ヨルズルは頭を抱えていた。


「これは……。とても困りましたね。一体何が起こっているのでしょうか?」


 冒険者ギルド加盟と共にCランクにランクアップした冒険者がいる事はいい。むしろ、それだけ優秀な冒険者を抱えている事はヨルズルの評価に繋がる。


 問題はエストゥロイ領を根城としているヨルズル傘下の盗賊団が次々と捕まっている事が問題だった。お陰様でギルドの牢屋はパンク寸前。


 しかも、盗賊団を捕まえているのが、つい先日冒険者ギルドに加盟したばかりの冒険者達らしい。


 彼等はほぼ毎日、ケァルソイ迷宮に潜ると第30階層迄のモンスターを狩り尽くし、オマケと言わんばかりに盗賊団をも捕らえていく。

 既に多くの冒険者が盗賊を捕えた功績によりBランクにランクアップしている程だ。


「盗賊団を捕らえるなとは言えませんし、困りましたね……。仕方がありません。暫くの間、盗賊団には動かない様命じる事に致しましょう。あとは彼等についてですか……」


 配下の冒険者が牢にぶち込まれてから2週間。

 盗賊団諸共牢の中で配下の冒険者達が、いつになれば牢から出してくれるんだと叫んでいる。


 ヨルズル自身もまさかこんな長い期間、牢に閉じ込める事は想定していなかった。

 彼等を捕らえたSランク冒険者、佐藤悠斗がこの領から出て行き次第、速やかに解放するつもりだったのだが……。


「完全に思惑から外れてしまいましたね……。彼等は旅行でエストゥロイ領に来たのではなかったのでしょうか?」


 しかもこの領に土地を買ったらしい。

 このままでは配下の冒険者を解放する事が出来ない。


「一度、彼等を借金奴隷に落とし私が買い取る事も検討しなければなりませんか。全く……無能な部下を持つと上司は大変です」


 ヨルズルを悩ます問題はそれだけではない。


 そのCランク冒険者達が連日ケァルソイ迷宮に潜り、冒険者ギルドに併設の素材買取カウンターに卸す事で、連日、白金貨400枚(約4,000万円)がギルドの金庫から消えていく。

 まだ買い取った素材が売れていないにも係わらず大量の白金貨が消えていくのだ。

 このままでは素材買取カウンターが立ち行かなくなってしまう。


「これについても。どうにかしなければなりませんね」


 モンスターの買取について商業ギルドと話し合いを持つ必要があるかもしれない。

 いや、その前に買取価格を一度下げるか……。しかし……。


「……私一人で考えていても仕方がありません。やはり商業ギルドと一度話を持つ事に致しましょう」


 商業ギルドにアポイントメントを取る為、手筈を整えるとヨルズルは溜息をつく。

 しかし、これはまだ始まり……。ヨルズルの苦悩はまだまだ続く事になる。



 冒険者ギルドのギルドマスター、ヨルズルが溜息をついている頃、オーランド王国では今ある問題を抱えていた。


「今になって何故……」


 それは……難民問題。


「マデイラとアゾレスの戦争の影響なんでしょうが、今になって何故、オーランド王国に……。オーランド王国に難民が押し寄せてくるのよー!」


 マデイラ王国とアゾレス王国との戦争により、居場所や職を失った者達が国境を越えてオーランド王国に流れてきた。国二つ分の難民がオーランド王国に流れてきた影響により、今、国境を隔てる壁の向こう側では急速にスラム街が広がりつつある。


 それだけではない。


「フィン様! 大変です」


「今度はなんですか……」


 オーランド王国の女王フィンは疲れた表情を浮かべる。


「ユ、ユートピア商会がフェロー王国のエストゥロイ領に開業しました……」


 ただでさえ忙しい時に、これまた頭を悩ませる事が復活してきた。

 教会に万能薬を卸しているユートピア商会が開業……。


 まさか土地と建物を接収されて尚、立ち上がってくるとは思いもしなかった。

 王都ストレイモイにいる筈の工作員とも連絡がつかないし、いま一体何が起こっているのか……。


 次々報告される凶報に眩暈する。


「エストゥロイ領にも工作員がいた筈です。ユートピア商会の対処は彼等にやらせなさい」


 口ではそう言うが、事はそう簡単にいかないかもしれない。今回、王都に出店していたユートピア商会の土地を接収出来たのは、フェロー王国の評議員が代わり、前王が亡くなった混乱期に工作員を動かす事が出来たのが大きい。


「し、しかし同じ手が通用するでしょうか?」


「あなたはエストゥロイ領に住む工作員では不足……。そう思うのですか?」


 フィンは睨みつけるかの様な眼光を部下へと向ける。


「僭越ながらその様に思います」


 部下の言葉にため息をつくと、「仕方がありませんね」と呟き立ち上がる。


「あなたの意見は分かりました。工作員には情報収集のみを命じなさい。期が来たらユートピア商会を潰すのです。もし万が一……万が一、潰すのが難しいと判断した場合は、ユートピア商会を我が国に誘致する方向で話を進めなさい。一番は国にあの商会を取り込む事ですが……。難しいでしょうね……」


 あの商会に深入りするのは危険だと自分の感が告げている。しかし、ユートピア商会をなんとかしない事には、この国の財政がジリ貧だ。


 フィンは頭を抱えながら、オーランド王国の行末に頭を悩ませるのであった。

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