新国王の苦悩

 商業ギルドを後にしたフェロー王国の新国王ノルマンは失意の表情を浮かべたまま、王城へ向かう馬車へと乗り込む。


 こんな筈ではなかった。

 こんな筈では……。


 これではただ土地を接収し、ユートピア商会を潰してしまっただけではないか……。


 それだけではない。

 今、王都では、『いつ王の気紛れで土地を接収されるか分からない』という噂まで広がっている。


 これでは商人達が王都に来てくれる可能性は限りなく低い。


 どうする。どうしたらいい。

 こんな時、父上であれば……。

 父上さえ存命であればこんな事には……。


 クソッ!

 ウエハスの奴に騙された!


 今思えば、商人連合国アキンドの評議員でもあるまいし、高々、王都の商業ギルドを管轄するギルドマスターにそんな権限は与えられている訳がない。

 己の愚かさ加減に吐き気を感じる。


 アイツだけは絶対に許さない。

 王城に到着次第、指名手配してやる!

 そして捕まえた暁には……。


「陛下。ウエハス殿は一体……」


 馬車に乗り込んだ一人の騎士がノルマン新国王に質問を投げかける。


「……ただの詐欺師だッ! 王城に戻り次第、商業ギルドのギルドマスターの地位と偽ったあの詐欺師を指名手配しろッ! 二度とその名を口にするなッ!」


「はッ! 畏まりました!」


 ノルマン新国王は、怒りのあまり歯噛みする。


 ウエハスの事はもういい。

 奴の事をこれ以上考えていても時間の無駄だッ!


 ユートピア商会に代わる商会の誘致も急ぎ行わなくては……、下手をしたら来年の税収が今年よりも大幅に下がる可能性がある。


 そしてティンドホルマー魔法学園に対する謝罪か……。

 ええい! やるべき事が多すぎる!


「陛下。王城に到着いたしました」


「……ああ」


 どうやら考え事をしている間に、王城へと到着したらしい。

 急ぎ王城へ戻ると会議室に大臣達を集める。


 全ての大臣が集まった事を確認すると、ノルマン新国王は椅子から立ち上がりテーブルに両手をついた。


「結論だけを述べよう。ウエハスは商業ギルドのギルドマスターではなかった」


 ノルマン新国王はその時の事を思い出し、拳を強く握る。


「あ奴は税収をエサに私達の権威を落とし姿を眩ませおったのだ!」


 今迄商業ギルドのギルドマスターだと思っていた者がギルドマスターではなかった。

 これには大臣達も言葉が出てこない。


「一つの商会を潰す事で、税率の決定権を得ようとした事が完全に裏目に出てしまった。土地を接収し、ユートピア商会を潰した事により国外の商会を誘致する事は絶望的だ。来年商業ギルドからの税収は間違いなく落ちる……。それだけではない。ユートピア商会の土地を接収した事による商業ギルドからクレームに、ティンドホルマー第二魔法学園に関する魔法学園からのクレーム……。そして物価の上昇と問題は山積みだ。皆に聞きたい。何かこの苦境を打開する案は無いだろうか」


 ノルマン新国王の問いかけに宰相は溜息を付く。


「陛下。私は申しあげました。せめて商人連合国アキンドの評議員マスカット殿の意見を聞いてからにするべきだと……」


「今そのような事を言っても仕方がないだろう! 私が聞いているのはこの苦境を打開する為に何をしたらいいのか。何をするべきなのかという事だ!」


「し、しかしですな……」


 ノルマン新国王は怒気をあらわにすると、机を強く叩く。


くどい! しかしもクソもあるかッ! 過去の事は一度置いておけッ! 今はそんな事を言っている場合でない!」


 会議室の中がシーンとした空気になる中、内務大臣が手を挙げた。


「陛下。発言してもよろしいでしょうか」


「うん? ああ発言を許す」


「ありがとうございます。陛下、物事に優先順位をつけて対処しては如何でしょうか?」


「ほう。優先順位とな?」


 内務大臣はゆっくりとした動きで席から立ち上がる。


「まず喫緊の課題として、ティンドホルマー魔法学園、そして商業ギルドからのクレームを対処致しましょう」


「むっ? なぜそこから手を付ける必要がある」


「ティンドホルマー魔法学園は毎年数多く有能な人材を王都へ輩出しております。その魔法学園が王都からエストゥロイ領に学園を移す話は由々しき事態です。また商業ギルドとの関係が改善しない事には他領から商会を呼び寄せる事もできません。その為、まずはこの2つから手を付けるべきであると私は愚考します」


 内務大臣の発言にノルマン新国王は指を鼻の頭に乗せ考える。


「商業ギルドはともかく、ティンドホルマー魔法学園はどうする。未だ会っても貰えていないのだろう?」


「陛下。ティンドホルマー魔法学園については私にお任せ下さい」


 内務大臣が高らかにそう呟く。


「ほう。自信があるのか?」


 先日は、話しを上手くまとめる事ができなかったものの、私がティンドホルマー魔法学園との関係を改善する事ができれば陛下の覚えも良くなる。


「はい。私がティンドホルマー魔法学園との関係を改善して参ります」


「そうか。ではティンドホルマー魔法学園との関係を改善については内務大臣にその全てを一任。商業ギルドについては宰相に一任する。失敗は許されない。心してかかる様に」


 ノルマン新国王はそう言い放つと、席を立ち会議室を後にした。


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