オーランド王国束の間の談笑

 商人連合国アキンドの近くにある緑豊かな国オーランド王国。

 この国にある迷宮では、一年を通してポーションや解毒剤の原料となる様々な薬草を採る事ができる。


 オーランド王国では迷宮で採れる薬草やポーション、解毒剤を輸出する事で国家予算を賄っていた。

 しかし、最近になってその薬草やポーションの売上が著しく落ちてきた。


「フィン様。た、大変です! 薬草やポーションの売上が先月より50%も落ちています!」


「はいはい。そんな事は言われなくてもわかっていますよ。」


 オーランド王国の女王フィンは、書類に目を通すとバサリと机に投げ捨てる。


「聖モンテ教会の教皇が新たに選出されたとは聞いていましたが、あれ程まで聞き分けのない教皇だとは思いもしませんでしたわ」


「本当ですね。全く困ったものです。万能薬を教会で無償配布されては、この国の商売に大きな影響を及ぼすというのに……」


 前教皇が退位したという情報を得たフィンは、これまで通りのお付き合いをお願いする為、賄賂を持ってサンミニアート・アルモンテ聖国の新教皇ソテルを訪ねた。


 しかし、前教皇の時とは違い全くと言っていいほど相手にされる事はなかった。

 それどころか、賄賂を突き返され、全国の教会で万能薬の無償配布をすると聞かされた時には腸が煮えくり返る思いをしたものだ。


「あなたも他人事ではないでしょう? 商人連合国アキンドの情報担当評議員トゥルクさん」


「まあそうですね~。今の私があるのはフィン様のお力添えあっての事ですから、正直言って私も困っているんですよ? 私の扱っている主力商品もフィン様と同じく薬品関係が多いですし、こうも万能薬を無償で配布されては商売上がったりですよ~」


「ふ~ん。利害は一致している様ね。所で先日お願いした事、ちゃーんと調べてくれたかしら?」


 トゥルクは軽く微笑みを浮かべると、収納指輪から書類を取り出しフィンの目の前に置く。


「当然ですよ~。私達の利害はピッタリ一致していますから……。それで、あの商会をどうするんですか?」


 フィンは書類を手に取ると、ゆっくり書類を眺める。


「当然、潰させて頂きますわ。流石に教会組織を敵に回すのは相手が悪すぎますもの……。一つの商会が教会にあれ程の万能薬を供給する事ができる事には驚きましたが……。それにしても、ここに書いてある情報は本当の事ですの?」


「もちろん本当の事ですよ~」


 フィンは書類に書かれた一つの項目に注目する。


「商人連合国アキンドの元執行担当評議員リマ氏に白金貨10万枚の借金を負わせた上、犯罪奴隷に落とすなんてやるわね。本当にここの会頭は15歳なの?」


「そうみたいですよ~。全く驚きですよね~」


 トゥルクが気の抜けた様な返事をするとフィンは溜息を付く。


「はぁ。なら私の判断は正解ですわね」


「あれ? もうあの商会を潰す事に成功したんですか~? 仕事が早いですね~!」


「当然よ。各国に工作員を潜り込ませているのはこういう時に使う為でしょう? それにあの国、教会が無償で万能薬を配付すると決めた途端、真っ先に、ポーションや薬品の取引を打ち切ってきましたのよ? 全く許せませんわ」


「あの商会を潰す事ができたのであれば私達の商売も問題ありませんね。これで万能薬の供給を絶つ事出来ましたし、フィン様がお怒りになっているあの王国にも痛手を与える事ができました。万々歳じゃありませんか!」


 万能薬の供給を潰す事が出来て万々歳……。確かにそうだ。

 とはいえ、惜しい事をしたという思いもある。


「そうね。しかし、惜しい事をしたわ。工作員には、オーランド王国に誘致する事ができる様ならそうするよう指示を出していたんだけれども……。まあ終わった事は仕方がないわね」


「それで、どんな手を使って工作員に商会を潰させたんですか?」


 トゥルクが楽しそうな表情で聞いてくる。


「ああ、とっても簡単な方法よ。あなたに協力して作って貰った偽のギルドカードを工作員に渡したの。あの国は税収に困っている様だったからギルドマスターの権限で来年の税率の決定権をエサにユートピア商会を潰して貰ったの。馬鹿よね~普通に考えて、ギルドマスターにそんな権限がある訳がないのに……」


「人間誰しも信じたいものを信じるものですよ。切羽詰まっている時は特にね~」


「確かにそうね。それにしても笑い種よね。ユートピア商会を潰す為に、土地の接収を命じるなんて……。あれでは商会が王都から逃げていくのではないかしら?」


「そういえば、ユートピア商会から接収した土地にティンドホルマー第二魔法学園とかいうのを建てようとしたみたいですよ~。あれ絶対に思い付きですよきっと! 話は通っているんでしょうかね? 話が通っていなかったなんて事になったらヤバいですよ~。もしかしたら、王都から移転しちゃうかもしれませんね」


「そうなったら、私の国に魔法学園を誘致しようかしら?」


「ああ、それいいですね!」


 フィンとトゥルクはユートピア商会とフェロー王国を肴に談笑を楽しむ。

 まだユートピア商会は潰れていないとも知らずに……。

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